1990年の京都を舞台に、多感な少女が体験するひと夏の出来事をみずみずしくつづった、中村真夕監督の劇場デビュー作『ハリヨの夏』。思春期のただ中で心揺れる少女をみずみずしく繊細に演じた於保佐代子が、初主演映画について語ってくれた。
於保佐代子
1987年12月18日生まれ。15歳のとき、サントリー「和茶」のCMでデビュー。
その後、『いぬのえいが』(05年/犬童一心監督)、『星になった少年』(05年/河毛俊作監督)に出演。
07年夏公開予定の『俺は、君のためにこそ死にいく』(新城卓監督)にも出演する。特技は水泳とお菓子作り。
於保さんって、珍しい苗字ですね。ご出身は?
私は東京出身ですけど、父が佐賀県出身なんです。ただ、そちらでも結構珍しい苗字だと聞いていますね。
於保さんはこれまでロングヘアーで、とても女の子らしいイメージでしたが、今回は思いきってショートにしましたね。切るときはつらくなかったですか?
ずっと長かったので、切った後、後ろに何もないのがすごく不安な感じはありました(笑)。顔が出ちゃうことも、とっても恥ずかしかったですね。
小さい頃からずっと長かったんですか?
ええ、ずっと長くて、この撮影で初めてショートカットにしました。結構勇気がいりましたけど、どうしてもこの役がやりたかったので、「やらせていただけるのなら切ります」と約束していましたから。監督のイメージは、『となりのトトロ』に出てくるサツキちゃんだったそうです。切るときも、監督がイラストを持ってきて「サツキちゃんで!」って(笑)。
ショートヘアーになった自分をご覧になって、どう思いましたか?
すごく不思議な感じでしたね。髪型が違うだけなんですけど、自分じゃないみたいで。なんだか少年になった気がしました。髪を切ってから、結構「若くなった」とも言われましたね(笑)。それまでは割合、年上に見られていたんですけど。
今回はお話的にも役柄的にも、すごくやりがいがあった作品だと思いますが、初主演でプレッシャーはなかったですか?
プレッシャーというよりは、“自分がやらなきゃ”という思いが強くて、“全身全霊でやりきるしかない”という決意はありました。大学受験が控えていたのでその意味でも厳しい状況だったんですけど、どうしてもこの映画に出たかったんです。
感情的な面でも複雑な役でしたし、10代の女の子がやるには結構大変なシーンもあったと思いますが、シナリオを読まれてためらいはなかったですか?
やっぱり、チャーリーとのシーンとか、妊娠してしまったりとか、自分の想像を超える部分が結構あったので、そういうシーンに関しては不安もありましたが、撮影前も撮影中も監督がいろいろな話をしてくださいましたし、あと、実際にそういう経験をなさった友人がいらしたということで、その方の話も聞かせていただきましたので、瑞穂の感情の動きについては、そうしたお話からイメージを作って演じていきました。
出産のシーンも大変でしたでしょうね。
確かに大変でした。出産のシーンというのはテレビでしか見たことがありませんでしたから。でも、撮影する前に風吹ジュンさんやエキストラの若いお母さんがご自身の経験を話してくださったので、イメージがつかめた気がしました。
中村真夕監督にとってもこれが劇場デビュー作ということですが、どのような監督さんでしたか?
ご自分の意見をしっかりと持っていらっしゃる方で、私が演技に関して不安に感じたことをたくさん質問しても、必ずきちんと答えてくださいましたね。ディスカッションがとても多い現場で、“なんだか、アメリカっぽいな”と思いました(笑)。実際、中村監督は海外に長くいらした方ですからね。監督とここまで演技について話し合うというのは初めてでしたので、とても貴重な経験でした。
瑞穂の感情的な流れは最初から、すんなり受け入れられましたか?
いえ、やっぱり受け入れられない部分もあったんですが、微妙な場面などは監督が説明してくださったので、少しずつつかんでいったという感じですね。
瑞穂はどういう女の子だと思いましたか?
芯はしっかりしているんですけど、人に甘えられず、強がってしまう子ですね。でも、実はすごく寂しくて、誰かに頼りたい気持ちがあるんじゃないかと思いました。
とても親の愛情に飢えていますよね。あの両親についてはどう思いました?
ひどい両親だと思いました。お母さんは娘のことを二の次にして、自分のお店でお客さんと飲みながら話すことが楽しいし、お父さんも娘を大事にしているようで、実は新しい家庭の方に心を奪われていて、結局は瑞穂を助けませんよね。自分たちの子供なのに、本当に自分勝手な人たちだなと思いました。私が彼女の立場だったら、本当につらいですね。
あの両親が生きてきた背景についても、監督は説明してくださいましたか?
ええ。学生運動をやってきた世代なので、結構自由奔放に生きてきた人たちだと伺いました。だから、娘のことよりも自分たちのことを優先してしまう場合もあるのだ、と。
撮影期間は2週間しかなかったそうですね?
はい。朝から晩までスケジュールはビッチリでした。深夜に撮影が終わって、次の日も早朝から……ということもありましたね。寝る時間はほとんどありませんでした。でも、「眠たい」とも言っていられなくて、次から次へとシーンをこなしましたが、シーンごとに自分の気持ちを合わせていくのがすごく大変でしたね。
シナリオにきっちり従って撮影し、現場で変わっていくということもなく進んでいったのですか?
そうですね。動きとかは少しずつ変わっていったんですけど、大まかな流れは変わらなかったです。でも、同じ場所でいくつかのシーンを一気に撮るということがあり、それには慣れていませんでしたので、とにかく感情をつくるのが大変でした。ロケで使用するはずだった場所も、テレビ番組の撮影が入ってしまって、急きょ移動したりとか(笑)。
京都弁で話すというハードルもありましたね。
そうなんですよ! それが結構難しくて、テープに吹き込んでいただいたものをずっと聞いていたんですけど、感情を入れると、どうしても違ってしまったりして……。監督とマネージャーさんが京都出身でしたので、合間に何度も聞きに行きましたね。アクセントを気にしながら、なおかつ感情もこめなくてはいけなくて、本当に苦労しました。
高良健吾くんも熊本出身ですから、大変だったでしょうね。
そうでしょうね。熊本は結構アクセントが違っていて、高良くん自身も普段しゃべるとすごく熊本弁になるんですよ(笑)。私よりも、高良くんの方が難しかったんじゃないでしょうか。
高良くんの印象はいかがでしたか? 高良くんの方は於保さんのことを「“目が大きくていいな”と思った」と言っていましたよ。
(照れて)えぇ~(笑)!? 高良くんはそのまま、さわやか好青年という感じですね。ちょっと面白い雰囲気を持っていますし。
学校にいたら、結構モテそうなタイプじゃないですか?
そうですね、きっと。みんな寄ってきそうですよね(笑)。
柄本 明さんと風吹ジュンさんはいかがでした?
柄本さんはすごく面白い方で、撮影の合間にはいろいろとおかしいことをして見せてくださいましたね。草を鼻の穴に入れてみたりとか……(笑)。風吹ジュンさんはそのままのイメージで、とても良い方でしたし、演技のアドバイスもしてくださいました。そういうベテランの役者さんたちと共演したことで、随分勉強させていただき、自分自身もちょっと変われたかなという気がしました。
チャーリー役のアメリカ人俳優キャメロン・スティールさんの印象は?
すごく面白い方でしたね。監督と話しているときは英語なので、全然話が分からなかったんですけど、結構話すのが好きな方で、私も日本語でいっぱい質問されました(笑)。
実際、日本語が流ちょうだったんですか?
ええ、早稲田大学に留学していたそうです。とても仲良くさせていただきましたね。今は日本にいらっしゃらないようです。いろいろな国で活躍されているそうですよ。
ああいうちょっと影のある大人の男性と、高良くんのようにさわやかな男の子では、於保さんでしたらどちらにあこがれますか?
う~ん、どっちかな(笑)。翔は翔でちょっと頼りないんですよね。翔がもっと頼りになる男の子だったら、彼かもしれません。
翔はきっと瑞穂のことを好きだったと思うんですけど、彼女にせかされて……。
追いつけない感じですよね(笑)。翔としてはつらいところだったのではないでしょうか。
瑞穂がああいう風にせかしてしまった心情は分かりましたか?
彼女は翔に頼りたいのに、“なんで分かってくれないの!?”という気持ちがあったと思うんですね。でも翔は翔で、“どうしてそんなに急なの!?”って驚きの方が強かったんじゃないでしょうか。
でも結構、二人のシーンはすてきでしたよね? 例えば、河原で寝転がっていたり、自転車で立ち乗りしたりとか。
ちょっとあこがれますけど、実際自分でやるのは恥ずかしいかなって思いましたね、すごくベタでしたから(笑)。あの河原で水をかけ合うのは、最初はちょっと恥ずかしくて、“こんなベタなこと、していいの!?”みたいな(笑)。楽しかったですけどね。
於保さんは実際、泳ぐのが得意なんですよね? でも川でのシーンも、本来はプールで撮ったりすることが多いと思いますが、今回は本当に川に入ったのだとか。
そうなんですよ。川で泳いだのも初めてでしたが、流れが速かったり、いろいろな物が浮いてたり……(笑)。泳いだのは鴨川と桂川で、水中のシーンは深さのある桂川でした。着衣で靴も履いていましたから、プールとは全然勝手が違いましたね。どんどん流されていってしまうんですよ。
でも、とても美しく撮られていましたね。
本当ですか? うれしいです。泳いでいるときは、川の中がもっと汚いイメージでしたから、ああいう風に写っているとは思ってもみなかったので感動しました。
彼女はあのとき、死のうとしていたのでしょうか?
監督から「死のうとは思っていない」と言われたんですけど、でもやっぱり、お父さんもチャーリーも翔も、誰にも頼ることができなくて、ぼう然としたまま水に入ってしまったんでしょうね。
でも、川から上がったときには、生まれ変わった感じがありましたね。最後の笑顔もすてきでした。
あぁ、ありがとうございます。
於保さんにとって思い出深いシーンはどこですか?
思い出深いのはやっぱり、最後のシーンですね。川で泳ぐのは初めての経験でしたし、物語にとってもすごく重要なシーンだったので、心に残っています。
瑞穂と翔は再会した後、どうなると思いますか?
あの後は微妙な距離を保ちつつ、たまに「元気か?」「元気」なんて言い合う関係でいるのかな、と思います。友達以上の関係にはならず、ずっと親友でいるんじゃないでしょうか。
高良くんは「きっと、二人はもう会わないと思います」って言ってましたよ(笑)。
私は、翔の方から声をかけてくるような気がしますけど(笑)。
お互い好きだけど、友達以上には近づかない感じはありますよね。
瑞穂の方は出産して、子どもと2人で生きていこうと決意していますからね。
そんな彼女をどう思います?
カッコいいですね。守るべきものがあって、それをちゃんと守っていける強さが、やっぱり母親にはあるのかなと思いました。
そもそも、どうして彼女は子どもを生もうと思ったんでしょうね?
自分を頼ってくれる存在がほしかったのかも。
確かに、これまではすごく人を求めていたけど、強く生きるためにも、今度は自分が人に求められる存在になりたかったのかもしれませんね。監督はプレスに、於保さんが「撮影が終わるころには、意志の強さを持った大人の女性に成長していた」と書いていましたが、ご自身としては撮影を終えて、自分の中で何かが変化したという思いはありますか?
演技をする上では、撮影を通してたくさんのことを学べましたので、ちょっとは成長できたかなと思っています。人間として成長できたかどうかは分かりませんけど、少なくともいろいろな生き方をしている人たちがいるんだなとは思いましたね。
完成した映画を観ていかがでしたか?
恥ずかしかったです(笑)。いろいろなシーンが出てくるたびに、撮影したときの思い出がよみがえって、“あぁ、ここはこうだったな”とか、そういう気持ちの方が先に立ってしまって、客観的には見られなかったですね。
於保さんにとって、夏の思い出と言えば?
夏はプールばかり行ってました。選手コースに入って本格的に水泳をやっていましたので。だから、夏休みになると朝から晩まで水泳漬けでした(笑)。
今はとても色が白いですが、焼けているときもあったのですか?
小学生のときは真っ黒だったんですけど、中学からは屋内プールだったので、逆に白くなって。夏と言えば、毎日水泳の練習をしていて、つらくて“夏休みなんか、なければいいのに!”と思っていましたね。でも、高校のときは水泳部に入らず、外部のジムに入っていました。高校のときの夏休みは……宿題に追われていましたね(笑)。
じゃあ、実際は高良くんよりも水泳はうまかったのでしょうね? 劇中では教えてもらっていましたが。
水泳は……勝てるかもしれません(笑)。
来年の12月で20歳ですね。ご自身の10代を振り返って、どう思いますか?
もうちょっと華やかだと思っていたんですけどね(笑)。17歳になったとき、“セブンティーンだし、いろいろと楽しいことがあるかも♪”と思っていたんですけど、なんということもなく、たんたんと過ぎてしまいました(笑)。
じゃあ、20歳になったら、どんな大人になりたいですか?
20歳になったら、英語が話せるようになりたいですね。少しだけやっているんですけど……。追い追い頑張ります(笑)!
目標とされている女優さんは?
深津絵里さんです。ナチュラルな感じがすてきですね。飾らず自然体で役に入れる女優になりたいなと思います。
最後に、これから映画をご覧になる方々に向けてメッセージをお願いします。
こんにちは、於保佐代子です。現在18歳で射手座です。血液型は分かりません(笑)。特技は水泳と料理です。今度、『ハリヨの夏』という映画に初主演します。この映画は、思春期を迎える女の子のひと夏の成長を描いた物語です。すごく頑張りましたので、ぜひ見にいらしてください。よろしくお願いいたします!
『いぬのえいが』『星になった少年』ではロングヘアーの清楚な少女だったあの於保佐代子さんが、バッサリと髪を切り、少女とも少年ともつかないような思春期特有の繊細なルックスで主役に挑んだ『ハリヨの夏』。愛情に飢え孤独感を抱えながら、抑制できない激しい感情にとらわれ、高校生にして妊娠、出産を決意するという難役を、その独特のピュアな存在感で演じきった於保さん。その素顔も、ちょっぴり髪が伸びて、フェミニンなホワイトのブラウスがよく似合う、清楚で透明感のある女の子だったが、明るくしっかりした口調でさまざまな話を聞かせてくれた。
その曇りのないひたむきなまなざし、素直でしなやかな感性――、中村真夕監督の思いがつまったデビュー作の主演に選ばれたのも納得。そのまま大人に成長したら、きっと稀有な存在感のある女優さんになるのではないかな、と思わせられた30分だった。
(文・写真:Maori Matsuura)
『ハリヨの夏』作品紹介
1990年の夏、京都。高校3年生の瑞穂は、同級生の翔に夜のプールで泳ぎを教えてもらうが、なかなかコツがつかめない。陽気な母の奔放さに反抗心をむき出しにしながら、家を出た父が戻ってくれることを願っている瑞穂。その父がくれたハリヨ。背中にある3本のトゲで小さな体を守る。澄んだ水にしか生息しない魚だ。この年の夏休み、瑞穂の人生はまるで水中でもがいているごとく、思いもよらない展開を迎える。
これが劇場映画デビュー作となる監督・脚本の中村真夕がみずみずしくもリアルな感性で描ききる、思春期のただ中にある少女のひと夏の成長物語。
(2006年、日本、99分)
キャスト&スタッフ
監督・脚本:中村真夕
出演:於保佐代子、高良健吾、風吹ジュン、柄本 明、谷川俊太郎、キャメロン・スティールほか
オフィシャル・サイト(外部サイト)
公開表記
配給:葵プロモーション
2006年10月14日(土)よりシネマート六本木、11月18日(土)より京都シネマほかにて全国順次ロードショー
(オフィシャル素材提供)