インタビュー

『オーロラ』ニルス・タヴェルニエ監督 インタビュー

©La Cinefacture / France 2 cinema-2006

ドキュメンタリーでは出来なかったこと、完全に自由な形で“美”を追求したいと思った

 パリ・オペラ座の舞台裏に初めてカメラを入れ、ダンサーたちの素顔に迫ったドキュメンタリー映画『エコール』で一躍注目を浴びたニルス・タヴェルニエ監督。彼が再び、パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちと手を組み、初めて手がけた長編フィクションが『オーロラ』だ。踊りが禁じられた王国を舞台にしたダンスを愛する王女の許されざる恋物語に、バレエへの深い愛をこめた監督が、本作を作り上げた喜びを熱く語ってくれた。

ニルス・タヴェルニエ監督

 1965年生まれ。父親は映画監督のベルトラン・タヴェルニエ。77年、父が監督した『Les Enfants Gates』で俳優としてデビュー。以来、父の作品や、クロード・シャブロル監督の『主婦マリーがしたこと』(88)、ミロシュ・フォアマン監督の『恋の掟』(89)などに出演。監督としては、フランス・テレビジョンで放映された『Femmes Alegeriennes』(95)など、短編映画やドキュメンタリー作品を手がけ注目される。
 2001年、パリ・オペラ座を取材したドキュメンタリー映画『エトワール』で、劇場用長編映画の監督デビューを果たした。本作は、ドキュメンタリーにこだわってきた彼が、フィクションを用いどうしても表現したかった、と暖め続けてきた企画。最新作は、ドキュメンタリー映画『The Odyssey of Life』。

これまで単独で、あるいはお父様(ベルトラン・タヴェルニエ監督)と共同で主にドキュメンタリーを手がけてこられましたが、この作品を長編フィクションの第一作目にしようと思われた理由をお聞かせください。

 短編映画ではフィクションを15本ほど作っているので、フィクションを手がけるのは初めてというわけではないが、この作品に関しては本当に“これは絶対作りたい!”という深い思い入れがあったんだ。シナリオに4年半かけ、資金調達には3年半かかったけれど、心から作りたい作品だったからね。“どうしてそこまでして作りたいんだろう?”と自問してみたんだけど、その当時は分からなかった。大体僕の場合は、何かをやり終えてからだいぶたって、その答えが見つかるんだよね。
 それで、なぜ『オーロラ』を撮りたいと思ったかというと、フィクションは自由な映像が撮れるということがあるね。ドキュメンタリーというのはやはり、すでに存在している人たちがいるので自由には撮れないよね。でも今回は、グラフィック・デザインや絵画のように、構図も自分で決められるという意味で、『オーロラ』は僕が撮りたかった題材+自由に撮影できる――そういう作品だったんだ。ドキュメンタリーを作っているときには出来なかったことを、今回の作品でやってみたいと思ったんだけど、画家がキャンバスに絵を描くように、微妙な色彩のニュアンスを出したりなど、やりたかったことを最大限に試みてみた。完全に自由な形で“美”を追求したいと思ったんだ。
 もちろん、『エトワール』というドキュメンタリー映画では、僕の目の前にあったのは“美”そのものだったから、他のドキュメンタリーに比べると、美に近かったということはあるけどね。でも、僕の他のドキュメンタリーはもっとシリアスな社会問題を扱っていて、例えば、飢えで死にかけている子供たちを美しく撮れるかというと、それは倫理的な問題からして不可能なことだ。でも、フィクションであれば、美を表現することは可能だと思ったんだ。しかも、ドキュメンタリーの限定された自由とはまた違って、今回はおとぎ話的な映画だったので、自分自身の創作に新たな風を呼び込むことが出来た気がするよ。

脚本に4年半かけたとおっしゃいましたが、どのようにイメージを膨らませて作られたのですか?

 最初からイメージを持って書き始めたわけじゃないんだ。最初は、どういう風にストーリーテリングを確立させようかと思いながら、始めたと言った方がいい。例えば、クラシック・バレエのレパートリーから少しインスピレーションを受けていたり、あるいは絵画を参考にしたりしながら物語を作っていくうちに、自然とイメージが浮かんできたんだ。こんな風に、最初から確固としたものがあったわけではなく、少しずつ作業は進んでいった。でも、当初から考えていたのは、少しずつリズムが加速し、だんだんと複雑になっていくストーリーテリングというものだった。例えば、妖精にしても、雲にしても、最初から登場するのではなく、後半になって盛りだくさんな形で出てくる、といったことはイメージしていた。でも、それとは逆に、ファンタスティックな要素は最初から登場させたかったので、例えば、緑の物が青に見えたり、なぜか部屋の中に植物が生えていたりなど、少し非現実的なものが世界の中に現れていることは大切だった。また、“オーロラ(フランス語では“オロール=燭光、曙、明け方”の意味)”が雲の世界に上っていくときは、常に夜明けの時間帯にしようとは思っていた。
 僕は映画監督をやる前は写真家だったし、撮影技師として光のことも十分分かっているので、こうしたことについては、喜んで3時間くらい話すよ(笑)。

どうしてダンスを禁じるというストーリーにしたのですか? 社会に対する何らかのメッセージがあるのでしょうか?

 確かに、この映画は個人の自由、自由意志をテーマにしている。だから、少しうがった見方をすれば、オーロラの母親である王妃がなぜ死んでしまうかと言うと、彼女が一番大事だった情熱をあきらめてしまったからだとも解釈できるだろう。それと同時にこれは、社会における女性の地位に関して考察を促している映画でもある。また、両親と子供の関係も描いている。子供たちは結局、両親が望む通りではなく、自分で将来を決めていくね。それに、愛情と、理性、権力の間で引き裂かれる人間のジレンマも、王を通して描いているんだ。

王は他人を支配しようとする一方で、悲しさをたたえた人物でもありますね。

 僕も、王のキャラクターには心揺さぶられるものを感じているんだ。実際、彼はとても不幸な人だね。国民を救うために、自分の娘を売らなければならないのだけど、本心は彼女を自分の手元に置いておきたいんだ。そうした選択の前に、葛藤し苦しんでいる。とても人間的だよ。本当は妻がダンスをするのも見たくてたまらないのに、彼女があまりにも美しいので、自分のもとから離れていってしまうことを恐れるがために、ダンスを禁じて彼女を閉じ込めてしまう。男性にはありがちだけど、あまり賢いことじゃないね(笑)。でも、人間を拘束してもうまく行くわけがない。

今回は映像が非常に美しく、見事な撮影だったと思います。撮影監督にはどのような要望をされたのですか?

 とても細かい指示を出したね。撮影監督のアントワン・ロシュとは、僕が俳優として出演した作品で一緒に仕事をしたことがあり、彼が優れていることはよく分かっていた。今回の映画は非常に光を重視し、白をメインにして、明度の高い白が周囲に及ぼす効果についてよく考えたんだ。黒はくっきりさせず、灰色から始まるグラデーションのかかった深い黒になるよう、撮影監督とは光の調整について随分と話し合ったよ。
 この映画は次第に、空想的な世界に姿を変えていくから、色彩や光もそれに合わせて変容させていく必要があった。カメラもどんどん人物との距離感が縮まり、親密さのような雰囲気をかもし出している。最初の頃は35~50ミリのカメラで撮っているんだけど、物語が進むにつれて焦点距離が長くなっているので、同じ全身を撮っているとしても、人物により近くなった印象を与えているはずだ。例えば、焦点距離が長くなるにしたがって、オーロラ姫の顔はますます際立って見えている。60~70ミリで始めた焦点距離が、最後には130~135ミリになっているからね。
 色に関しても、徹底的にこだわったよ。背景もそうだし、人物の肌や洋服などの色もそうだ。この映画では、すべての色に意味がある。(プレス内の写真を示し)例えば、これを見ていただきたい。(オーロラ姫の純白のドレスを指し)ここではとても明度の高い白を使っている。そして、光は彼女の目の高さに来るようにしているんだ。写真では分かりにくいかもしれないが、その高さの辺りはかなり明るく、上の方に行くにしたがって、だんだんと色が暗くなっていく。部屋の色も見てみようか。(別のページの写真を指し)ここは白と青だ。この映画ではこれらの色が基調となっている。王妃の部屋は赤を基調としている。王妃そして、そこにいる王の洋服にも赤が使われているね。ソラル王子の衣装はもっと暗いボルドーだ。つまり、すべては赤系で統一している。(ポスターを指し)これはまだ色処理をしていないので、芝生の色は緑色のままだけど、映画では青に変えてある。この映画では緑色は一切使われていない。イタリアの演劇では、顔写りが悪くなるからという理由で、緑色は絶対に使わないんだ。このように、すべての色彩に意味を持たせているんだよ。

青みがかった夜の色もいいですね。

 そう、そう。ちょっと青みがかるようにしたんだ。ほとんどの場合、“アメリカの夜(昼間に夜のシーンを撮る方法)”を採用した。本当の夜を作り出す必要はないからね。
 オーロラ姫には三つの色があって、最初の舞踏会に行くときは黄色、つまり金色、あとは青と白だ。青は彼女の目の色と呼応している。しかも、ほとんど王妃の目の色と同じ青だ。王妃が青の室内着を身につけているときがあるが、その青も彼女と娘の目の色と同じなんだ。すべての色がこのように厳密に決められている。監督は光についてだけ考えていては駄目だ。光というのはつまり、色を表現するためのものでもあるからね。

マルゴ・シャトリエさんをヒロインに起用した理由と、一緒に仕事をされた印象をお聞かせください。

 それは彼女がとても美しく優雅だからだよ。少し非現実的なところもある。それでいながら、地に足がついているんだ。だからこそ、彼女は大地に足をつけて踊っているんだよ。なおかつ、女性としての魅力にまだ無自覚で、どこか控えめだ。そういうものをオーロラ姫に望んでいたんだけど、マルゴはまさにすべての資質を持ち合わせていたんだよ。僕は、自分が男性に与える魅力について自覚がない女の子を求めていたんだ。撮影を通して、彼女自身がそのことに気づいてほしいと思った。

マルゴさんには、どのような演技指導をされたのですか?

 僕はキャスティングの時点で、演技指導は80%出来たと思っている。もちろん、彼女はせりふをこなす必要があったので、撮影の前に僕がついて練習はしたよ。だから、クランクインのときには完全に、彼女はスタンバイ状態にあった。せりふは4~5ヵ月かけて練習したからね。

お話をうかがい、徹底してこだわった作品だと分かりましたが、その中でも一番大変だったことは?

 大変だったとはあまり思っていないんだ。大抵の監督だったら、「もっと資金があれば良かった。もう少し時間があったらね」と言うかもしれない。それも現実ではあるけどね。もちろん、スピードを上げて撮らなければいけないこともあった。ただ、僕は監督としての威厳を見せる必要性は全く感じていないんだ。今回の映画に参加した皆が同じ方向を見て撮影に臨んでいたので、撮影中に困難を感じるということは無きに等しかった。今回参加した人たちはみんな、参加すること自体に幸せを感じてくれていて、撮影しながら毎日のように、新鮮な驚きを経験したようなんだ。バレエを見たことがない俳優たちはバレエのすばらしさを発見したし、役者が演じるところを見たことのなかったダンサーたちはそれを見て感激しているといった驚きに満ちていた映画だったんだ。それに、男の子たちはきれいな女の子に会えて喜んでいたし、女の子たちもハンサムな男の子たちに会えて喜んでいたよ(笑)。この映画はまた、社会的な視点で解釈してくださった方たちにも満足いただけると思う。とにかく、とても気持ちの良い撮影だったね。みんなが何かを得ることができたから。例えば、カメラは音楽に合わせて動いてほしかったので、ずっと音楽を流していたんだけど、それまでクラシック音楽なんか聴いたこともなかった技術スタッフの男性たちも、仕事をしながら音楽に聴きほれてしまう瞬間があって、それはとても美しいことだなと思ったね。

画家を演じたニコラ・ル・リッシュに出演を依頼するときには、受けてもらえるかどうかとても不安だったとか?

 彼は5年先までスケジュールが埋まっている人だからね。単純に、僕がオファーしても時間がないだろうなと思った。でも、画家の役はニコラだと思いながら書いたので、その理由は何であれ、彼が出来ないとなるとどうしたらいいものかと不安で、なかなか電話をかけられなかったのは事実だよ。
 ところで、技術スタッフにはマッチョな男性たちが多いもので、バレエのことも全然知らなくて、バレエというのはゲイが好きなものだという先入観を持っていたりするんだけど、ニコラが彼らの目の前ですばらしい踊りを見せたときには茫然とし感動していたので、それを見た僕自身も感動したね。彼らは男性の肉体が持つ美しさを受け入れたんだ。本当に、あのマッチョな彼らが、ダンスを見ながら涙を流していたんだよ(笑)! 驚くべきことだね。とてもすばらしい経験だったから、次回作でも同じような喜びを味わえたらいいなと思っているんだ。

 お父様のベルトラン・タヴェルニエ監督の映画が昔から大好きだったため、そのご子息であるニルスにお会いできることは楽しみだった。バレエへの愛もさることながら、写真家だっただけあり、撮影について質問すると目がキラキラと輝き、光や色彩の調整にどれだけこだわったか、プレスの写真を一枚一枚見せてくれながら語る語る。感心しつつも、この質問だけでほとんど終わってしまったらどうしよう、と内心ヒヤヒヤ。どんな質問が監督のツボにハマるのかというのは本当に、お会いしてみないと分からないものだ。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『オーロラ』作品紹介

 踊ることを禁じられた国に生まれた、類まれな踊りの才能を持つオーロラ姫は、傾国を救うため異国の王子との婚約を迫られる。美しいオーロラに求婚するため、自国の舞踊団を率い、舞踏会に臨む隣国の王子たち。しかし、彼女が愛したのは見合いのための肖像画を描いた名も財もない絵描きだった。やがて家臣の企みにかかり、国王の逆鱗に触れた絵描きはオーロラの目の前で処刑されることに……。

(2006年、フランス、上映時間:96分)

キャスト&スタッフ

監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:マルゴ・シャトリエ、ニコラ・ル・リッシュ、キャロル・ブーケ、フランソワ・ベルレアンほか

公開表記

配給:ギャガ・コミュニケーションズ Gシネマグループ
2006年12月16日より、Bunkamura ル・シネマ、シャンテ シネほか全国順次ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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