私は、他人の上に立とうとは思わない。自分の頂きの上に立つことが目標です
香港マフィアのリアルな姿を写しつつ、組織の中で頂点に立つために熾烈な戦いを繰り広げる男たちの野望と哀しい宿命を描いた、息詰まる人間ドラマ『エレクション』。その硬質な映像スタイルと冷徹な視線で男たちの美学を描き続け、国際的にも評価の高いジョニー・トー監督の2部作第一弾で、トップの座を狙う直情的で凶暴な男を演じて新境地を開き、第25回香港電影金像奨主演男優賞に輝いたレオン・カーファイのオフィシャル・インタビューが届いた。
レオン・カーファイ
1958年2月1日、香港生まれ。これまでに70本を超える作品に出演し、香港で最も出演作が多く人気のあるスター俳優の一人。社会人を経験した後、TVB俳優養成所に入所。スタッフとして参加するはずだった『西太后』(83)で、監督リー・ハンシャンにいきなり主演に抜擢されスクリーン・デビューを飾り、さらに香港電影金像奨主演男優賞を受賞。その後も多くの作品に出演し人気を高めたが、世界的に名を知られるようになったのが、92年の『愛人/ラマン』。マルグリット・デュラス原作、ジャン=ジャック・アノー監督によるこの官能大作では、アジア男性ならではの色気で女性ファンを魅了した。そして、マギー・チャン共演の『ロアン・リンユィ/阮玲玉』(91)、富田靖子共演の『南京の基督』(95)、コン・リー共演の『たまゆらの女』(02)といったドラマにおいては情感を漂わせ、トニー・レオン共演の『月夜の願い/新難兄難弟』(93)、『黒薔薇VS黒薔薇』(93/香港電影金像奨主演男優賞受賞)、レスリー・チャン共演の『恋戦。OKINAWA Rendez-vous』(00)、東京国際映画祭「アジアの風」で上映された『大丈夫』(03/香港電影金像奨最優秀助演男優賞受賞)などではコミカルな表情を見せたりと、人気のみならずその演技力が高く評価されている俳優。また99年には、レオン自身が製作と主演をつとめた『天上の恋歌』が、カンヌ国際映画祭で公式上映もされている。
ジョニー・トー監督の現場はどのような感じでしたか?
監督は現場をコントロールする力が非常に強く、彼が現場にいるだけで全員が集中するような緊張感のある現場でした。現場では映画以外の話や雑談をしている人は誰もいないし、撮影中は皆高いテンションで臨んでいました。
ジョニー・トー監督の演出はどのような感じですか?
香港映画にはよくあることですが、監督は事前に脚本を見せてくれません。私の役はこういう役で、こういう話になるという説明はしてくれます。このシーンはこうなるというような物語の進み方と創作の過程は教えてくれますが、表現に関してはすべて役者任せな監督です。
では役作りについてはどのようにしたのですか?
脚本がありませんでしたが、監督は、私の役とサイモン・ヤムのやったロクという役を完全に分けて考えていました。二人は陰と陽という対照的な役でしたし、撮影に入る前にそう聞いていましたので、事前にしっかり準備をしていました。
ディーは凶暴で、短絡的なキャラクターですが、この役をどのように思いますか?
ディーにはいろんな側面があります。映画を通して観ると感情を思いのまま表に出すことが多いですが、よく見ると彼にもいろんな顔があります。普段は、誰に対しても怖くて悪い人間ですが、獄中で年配のボスに対面する場面では、ボスに甘えるようなところもあり、わがままで野蛮な子供のような存在に過ぎない。そのシーンがとても好きですね。ディーが観客に唯一受け入れられるところがあるとすれば、権力がほしいという欲望を隠さずに、それが出ているところではないでしょうか。
サイモン・ヤムとベテラン同士のお二人の共演はどのような感じでしたか?
お互い長いキャリアがあるので、良い組み合わせだったと思います。現場では、サイモンともお互いに役名で呼び合っていました。主演同士だからといっても、ライバルというよりお互いに考えながらよりよい現場を作っていく、共演の過程はそういう感じで進んでいきました。ベテランには現場のムードを高めるという役割もありますし……。
この映画は大変リアルな物語ですが、この映画をどのようにとらえていますか?
黒社会の歴史は非常に長いので、監督は香港の黒社会をとりまく文化を撮りたかったのだと思います。この映画にはヒーローも登場しないし、バイオレンスの美学もありません。今までのように誰かを英雄にするフィルム・ノワールではなく、人間性を描こうとするドラマです。今までの香港映画は黒社会を美化していましたが、今回は歴史ドラマであり、黒社会の現実を映したドラマだと思います。うわべだけではなく深い物語ですし、悪には悪の終わり方があるということをこの映画ではある程度見せていると思います。私自身は、この映画で人間のダークな一面を出せればと思いました。
この映画のように権力欲にとりつかれた人々をどう思いますか?
気持ちは理解できます。男性社会では権力が第一の欲望になることも多いと思います。もちろん私もこの映画の設定については考えましたが、私は、他人の上に立とうとは思わない。自分の頂きの上に立つことが目標です。まず自分を乗り越えないと他人を乗り越えられない。自分の頂に立とうと思えば他との軋轢は無いですしね。いつもいかにして自分を乗り越えるかを考えています。私は平和主義者です。
オフのときは何をしていますか?
映画の出演本数が多いので、外にいることが多いので、オフのときは家にいて、家族と過ごしていますし、ほとんどの時間を家事に費やしています。僕は家事をやるのが好きなんです。家で畑仕事をしています。
この映画を観る人にメッセージをください。
『エレクション』は、単なる娯楽というだけでなく、なんらかのメッセージを受け取ることができる映画だと思います。この映画からは、観る人が得るメッセージも違うと思いますので、いろんな角度で見てほしいと思います。
(オフィシャル素材提供)
『エレクション』作品紹介
香港最大の裏組織で、2年に一度行われる会長選挙。候補者をめぐって内部では意見が割れていた。組織に忠実なまとめ役としてのリーダーが適任なのか、力づくで牽引するパワーリーダーが必要なのか――。対立する候補は、“兄弟”思いで年上を敬うロクと、金儲けに長け、荒っぽい手段を使うディー。選挙戦の裏側では、さまざまな欲望と思惑が錯綜し、熾烈な戦いを迎えようとしていた……。
(原題:黒社會、2005年、香港、上映時間:101分)
キャスト&スタッフ
監督:ジョニー・トー
出演:サイモン・ヤム、レオン・カーファイ、ルイス・クー、ニック・チョン、ラム・シューほか
公開表記
配給:東京テアトル|ツイン
2007年1月20日(土)より、テアトル新宿にてロードショー
(オフィシャル素材提供)