インタビュー

『13/ザメッティ』ゲラ・バブルアニ監督 インタビュー

©2005 LES FILMS DE LA STRADA – QUASAR PICTURES – SOLIMANE PRODUCTIONS -MK2

ロシアン・ルーレットは、他者を排除したいという欲望のメタファーだ

 冷たくも美しいモノクロ世界で繰り広げられる、戦慄の13人集団ロシアン・ルーレット! 独創的なストーリーとスタイリッシュな映像で、観る者をスリリングな悪夢へと誘う『13/ザメッティ』。グルジア出身の新鋭ゲラ・バブルアニ監督が、ハリウッド・リメイクも決定した会心の長編デビュー作について、たっぷりと語ってくれた。

ゲラ・バブルアニ監督

 1975年12月19日、グルジアの首都トビリシ生まれ。父親であるテムル・バブルアニもグルジアで有名な映画監督。ゲラの子供時代は、政治と経済の変革と共にあった。1989年ベルリンの壁の崩壊に伴い、グルジアは自由と混沌の中に沈んでいく。汚職、派閥抗争、銃撃戦、そして死までもが日常的な環境の中で、ゲラは成長する。彼が17歳のとき、父テムルは4人の子供全員をフランスで教育を受けさせるためにパリへ送った。ゲラは、よくものを書き、フランス語に熱中し、映画に興味を持った。
 2002年に、処女短編作である『A Fleur De Peau』を制作。『13/ザメッティ』は、彼の初長編監督作品ながら、2005年ヴェネチア国際映画祭にて最優秀新人監督賞、2006年サンダンス映画祭にてワールドシネマコンペティション(ドラマ部門)審査員大賞、2006年ヨーロッパ映画祭にてディスカバリー賞をそれぞれ受賞するという快挙を成し遂げた。
 最新作は、故郷グルジアで撮影し、父テムルとの共同監督作品である『L’Heritage』(06)。

ロシアン・ルーレットのシーンも含め、独特の異様な緊張感はどうやって作り出したのですか?

 いろいろな要素が絡み合って、ああいう緊迫感を生み出している。役者の演技ももちろん大切だし、どういうカットを選ぶかという編集の問題もあるし、どの瞬間にどの位置にカメラの視点を据えるかということも重要になってくる。例えば、ゲームの進行役の震えている足を映す方が、ピストルそのものを映すよりももっと、観客にとってはストレスフルなことかもしれないし、ギャンブラーのコートの肩越しに見える顔や、電球を映すことも緊迫感を与えるだろう。テクニックを使うだけでは駄目で、自分が感じていることを表現する場合、どの瞬間にどこの場所に自分の関心を向けていくかが重要なんだ。このように、さまざまな要素を積み重ねることで少しずつテンションを高めていくという作り方をした。

撮影にはどのくらいかかりましたか?

 6ヵ月かかった。絵コンテは全く描いていない。前もってプランは立てられない。ファインダーをのぞかないと構図は決められないよ。僕は見てから決める現場主義なんだ。

主役はオーディションをした上で弟のギオルギさんを選ばれたということですが、ネオ・レアリスモ時代のヴィスコンティ映画に登場するアラン・ドロンを思わせる、憂いをたたえた無垢な眼差しが美しく、一方で傷ついた獣のような暴力性を秘めた雰囲気もあって、実に魅力的でした。監督ご自身にとって、彼を選んだ決め手となったのは何だったのですか?

 一番の決め手はやっぱり演技力だ。彼にとっても、これは最初の主演作だったので、どれだけ演技ができるかを示すのはとても重要なことだった。もちろん、ルックス的にもセバスチャンを演じるにはふさわしい要素を兼ね備えていたね。無垢な雰囲気がまさにそうだ。でも、それだけでは十分ではなくて、本当に演技ができると見極める必要があった。キャスティングの過程において、彼はとても穏やかで天使のように無垢なところがありながら、一方ですごく暴力的になれるという相反する面を兼ね備え、自分の中でその両極の均衡をうまく保ちつつ演技で表現できるということが分かったので、彼に決めたんだ。

確かに、ロシアン・ルーレットのシーンでは、最初の頃はすごく怯えていましたが、だんだん不敵な顔つきになり、最後には一瞬陶酔的な表情にさえなっているようにも見えました。

 そう、あの一晩で彼は変わっていくね。無垢を失っていく過程をギオルギは実にうまく演じているけど、セバスチャンが陶酔的な喜びを感じていたかというと、それはちょっと違うかもしれない。ああいうゲームに参加した場合、生き延びて逃げられる唯一の方法、生への唯一の扉は勝つことなんだ。だから、とても危険な諸刃の剣ではあるけど、彼はどんどんゲームにのめりこんでいくんだよ。

それぞれのシーンが構図的にとても美しい映画ですが、監督が一番気に入っているシーンは?

 セバスチャンが逃げ出そうとするシーンがあるよね? そのとき、鏡の中にピアノが映っている。あそこが気に入っているんだ。構図にはすごくこだわって、撮影に一日かかったカットがあったくらいだ。他にもたくさん気に入っているシーンはあるよ。

海辺の家のシーンがとてもシュールで、全体の中では異質でした。どうしてああいうシーンを入れたのですか?

 確かに、最初のシークエンスではミステリアスな部分を出したいと思ったんだ。あれは20世紀初頭に建てられた家で、あそこの海岸沿いにある中で、爆撃を免れて全くリフォームされていない唯一の家だったんだ。だから、少し幽霊屋敷のような趣があった。そこに住んでいる夫婦だから、どこか少し神秘的な人たちで、家の中も奇妙な感じにしたんだ。撮影は冬だったので全く人気がなく、遠くの方の浜辺には馬がいるね。馬もちょっとおとぎ話のような雰囲気を出していると思う。冒頭はおとぎ話的なイメージで、それがだんだんと悪夢に近づいていく様子を描きたかったんだ。古典的な描き方ではなくて、ちょっと意外性があったんじゃないかな。

モノクロ映画でしたが、カラーという選択肢は監督の中にはなかったのですか?

 今度、ハリウッドでリメイクすることになったので、そちらではカラーにするつもりなんだけど、今回の作品に関しては最初からモノクロに決めていたんだ。このストーリーを考え始めたときから、頭の中にあったイメージがすでにモノクロだったからね。その後、ロケハンをしながらいろいろな場所で写真を撮ったんだけど、それも全てモノクロで撮影した。そのくらい、最初からモノクロのイメージは一貫していたね。

映画に登場するセバスチャンの一家同様、監督のご一家もグルジアからフランスに移住されたということですが、グルジア人にとってフランスはどういうイメージのある国なのですか?

 実は20世紀初頭からグルジア人はフランス文化に憧れを持っていて、多くの知識人がフランスに渡ったそうだよ。だから、グルジアの文化にはフランス文化が色濃く影響していると言えるだろう。フランスはグルジア人にとって何より、文化的に重要な国なんだ。

ただ、フランスに行っても、貧困にあえぐ日々が待っていて、だからこそセバスチャンは命の危険を冒してでも、大金を手に入れようとしますね。現実でもこのような状況があるのでしょうか?

 もちろん、この話は僕の実体験ではなく、セバスチャンが貧しさ故に賭けに走るという状況は、ストーリー的にとても重要だったから採り入れたんだ。こうした貧しい国の人たちは母国でも生活は苦しいのに、フランスに限らず異国で仕事を見つけて暮らしを築くのは誰にとっても非常に難しいことで、ゼロから始めなければいけないような体験だよね。セバスチャンには、移住した一家を支えるために何としてもお金が必要だというモチベーションがあったわけで、物語に切迫感を出すためにも、そういう設定にすることが大切だったんだ。

グルジアでは内戦があったことなどが日本でも知られていますが、映画を作るにあたって、子供の頃の原体験的なものが影響しているかもしれないと思われたシーンはありましたか?

 この部分が……と具体的には挙げられないんだけど、生きてきた過去というのは今ここにいる自分の構成要素であり、現在の自分は過去の産物だと言えるよね。僕はグルジアで、直接的な暴力を目にしながら成長してきた。子供の頃に苦痛を感じたり、辛い体験をすると、映画の中にも間接的あるいは直接的に反映しているかもしれないとは思うね。

セバスチャンの行為は結果的に、人を殺すことで自分が幸運を手に入れるという構図の中に組み込まれていますが、人の不幸の上に幸福は成り立つと思いますか?

 セバスチャンの置かれている状況は、自分が利益を得るために意図的に人を殺すというのとは明らかに違っている。例えば、ナンバー6の兄弟の場合は、お金を稼ぎたいがために弟が兄をリングに上げるという残酷な構図になっているけど、セバスチャンの場合は自分の家族を救うために誰かを殺したいと思っているわけではなく、気がついたらそういう状況に追い込まれていただけなので、人の不幸の上に……という表現はちょっと当たらないね。
 ただ、ロシアン・ルーレットのシーンで僕がメタファー(暗喩)として語りたかったことがある。つまり、ロシアン・ルーレットは、他者を排除したいという欲望のメタファーなんだ。殺すまではいかなくても、人は生存競争の中にあって、常に他者を出し抜く必要がある。他者を排除することによって自分がより良く生存できるという概念は、現代においてさえ、人間の本能に組み込まれていると思うんだ。それが現実なんじゃないかな。

セバスチャンがつけている<13>は、こういうゲームをやる人たちが避けそうな数字だと思いますが、それをあえて使った意図をお聞かせください。

 <13>は必ずしも不幸をもたらす数字とは考えられていないんだよ。確かにアメリカでは13階のフロアーはないし、飛行機でも13番という席はない。フランスでもテーブルで会食をする際には、13人では絶対にやらない。でも一方で、フランスでは例えば、“13日の金曜日”には逆に幸運が舞い込んでくるという解釈もあって、ロトの売り上げが激増するんだ。だから実は、二つの意味合いを担わされた数字なんだよ。

せりふに頼るのではなく、映像で物語っているこの作品は、これから映画を撮ろうとする人たちにもすごく刺激を与えると思いますが、アドバイスはありますか?

 アドバイスというのは苦手なんだよね(笑)。ただ、映画制作には二つのアプローチの仕方があると僕は思う。一つはテクニックありきの作り方で、もう一つは自分が感じたことを映像で表現する手段としてテクニックを使うやり方だ。ただ単にテクニックを使うのではなく、自分が表現したいことにそのテクニックがふさわしいかどうかを鑑み考慮しつつ、映画を作ってほしいというのが僕のアドバイスだね。

次回作についてお聞かせいただけますか?

 リメイクは今年、アメリカでクランクインする予定がある。リメイクといっても、テーマは同じでありながら、今回とはかなり違うものになるだろう。今回はモノクロでとてもうまく表現できたから、リメイクでは色を使いつつ、どういう風に雰囲気を出していくか、それはまさに僕にとって大きなチャレンジになると思う。現場で考えながら、いろいろなアイデアを詰め込んで、満足のいく作品に仕上げたいね。
その後はオリジナルを書き下ろすつもりでいる。日常生活を舞台にしたスリラーになると思う。4分の3くらいが夜のシーンで、ただしカラー作品にするつもりなんだ。

 その後も数々の名作を送り出しながらも、そのオリジナリティーと驚くべき完成度を備えた奇跡のようなデビュー作によって記憶に刻まれる監督たちがいる。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』、ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』――この『13/ザメッティ』もまさにそうした系譜に名を連ねる一作に思える。感性を刺激するイマジネーションあふれる映像が物語るのは、無垢と暴力性が相克する、美しくも残酷な寓話だ。ここにあるのは、いわゆる娯楽として見せる暴力ではなく、「暴力を見ながら成長してきた」という人のみが語れる、絶望感に浸された虚飾のない暴力だ。この感覚的な真実は観る者の心をも深くえぐる。ハリウッドで自らリメイクを手がけるときも、果たしてその“真実”を守りきることができるのか、カラー版『13/ザメッティ』を期待と不安を抱きながら待つことにしよう。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『13/ザメッティ』作品紹介

 セバスチャンは、グルジア移民の22歳。ある日、仕事先で偶然、雇い主宛ての謎の封筒を手にする。その中には、パリ行きの列車のチケットが。そして、次々と現れる<13>という数字に誘われ、暗い森の奥に辿り着く。そこで彼が目撃したものは、13人のプレイヤーに大金を賭け“集団ロシアン・ルーレット”でその生死を競わせる、悪夢の世界だった!

原題:13Tzameti、2005年、フランス、上映時間:93分)

キャスト&スタッフ

監督:ゲラ・バブルアニ
出演:ギオルギ・バブルアニ、オーレリアン・ルコワン、パスカル・ボンガール、フィリップ・パッソン、オルガ・ルグランほか

公開表記

配給:エイベックス・エンタテインメント+ロングライド
2007年4月7日(土)より、シネセゾン渋谷ほかにてロードショー!

(オフィシャル素材提供)

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました