難しく暗い役柄も演じられるということを、皆さんにも自分自身に対しても証明できた作品だった
愛に飢え、裸足で夜の街をさまよう美しき夢遊病者と、彼女に魅了される青年との危険なアヴァンチュールを描いた『情痴アヴァンチュール』。『8人の女たち』『スイミング・プール』などに出演して、フランソワ・オゾン監督の秘蔵っ子として注目され、『ピーター・パン』ではハリウッド映画進出も果たした、キュートなフランスの人気若手女優リュディヴィーヌ・サニエ。フランス映画祭2007での本作上映に合わせて来日した彼女が、女優としても女性としても充実している“いま”について語ってくれた。
リュディヴィーヌ・サニエ
1979年7月3日、パリ近郊、ラ・セル=サン=クルー生まれ。子役としてスタートし、パスカル・トマ監督の『夫たち、妻たち、恋人たち』(89)で映画デビュー。以後、テレビや舞台で活躍。フランソワ・オゾン監督の『焼け石に水』(2000)で最も期待される女優に。ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞したオゾン監督の『8人の女たち』(02)にも出演し、03年セザール賞有望若手女優賞にノミネートされた。続くオゾンの『スイミング・プール』(03)ではシャーロット・ランプリングとダブル主演を務め、04年セザール賞助演女優賞にノミネート。同年、P.J.ホーガン監督の『ピーター・パン』のティンカー・ベル役でハリウッド・デビュー。オムニバス映画『パリ、ジュテーム』(06)ではアルフォンソ・キュアロン監督篇に出演している。他の代表作に『可愛いリリィ』(03年、ビデオ・タイトル『リリィ』)など。
06年には日本のエステティック会社TBCのコマーシャルで、日本のお茶の間に登場。
本作で共演のニコラ・デュヴォシェルとの間に05年3月、女の子を出産した。
本作について、グザヴィエ・ジャノリ監督はプレスの中で「現代の世相を反映した人間心理を描いている」と語っていますが、リュディヴィーヌさんはどう感じましたか?
この映画は確かに、ドキュメンタリー的なところがあるわ。夢遊病者の症状がとてもうまく描かれていると思う。芸術的な部分でも妥協はしなかったけど、私たちは何よりも真実味を追求したの。例えば、私が演じた夢遊病者の発作だけど、あれはほとんど現実に基づいているのよ。また、おっしゃるようにこの映画からは、現代の世相を反映した人間心理というものを見出すこともできる。人間の心の中には絶えず、意識と無意識との間の葛藤があって、その葛藤のバランスが崩れたときに人は崩壊に向かい、立ち直れなくなると思うの。それこそ、この映画が語っていることだわ。
今回の役柄は自分自身の内面を奥深く掘り下げて、欲望やダークな側面をさらさなければいけないこともあったと思いますが、そういう役を演じたとき、実生活に影響はありませんか?
今回はむしろ、実生活の方を操作して、その影響を役柄に反映させるやり方をとったの。つまり、実生活でわざと体を疲れさせて、この役柄のもろく傷つきやすい雰囲気を作り出したのよね。
でも確かに、ある意味では実生活に影響を及ぼしたかもしれない。この種の映画では最初から最後まで、自分があたかもシャボン玉の泡の中に閉じ込められているかのような感覚にとらわれるものなの。特に今回は4分の3をベルギーで撮影したこともあって、その間はほとんど友人たちや家族と会うこともなかったので、こうした状況で演技に集中してのめりこむと、どうしても役が自分から離れなくなってしまう。歴史劇だったら、かつらをかぶったり、普段とはまるで違う衣装を身につけるから、撮影が終わってそれらを脱いでしまえばすぐに自分に戻れて、普通に家に帰ったり友達とご飯を食べに行ったりできるんだけど、今回の場合は、全ての撮影が終了しても、この役から離れるのは少し時間がかかったわ。どんな役柄のときもそうなわけじゃなくて、今回は本当に特別な経験だったの。
仕事でストレスがたまったとき、どうやってリフレッシュしますか?
冗談を言ったりしてふざけるわ(笑)。あまりに緊張した状態のときにはできるだけ、遊び心、子ども心を保つように心がけているの。もちろん、8歳の子どものようにはなれないけど、緊張をほぐすためには遊び心が必要なのよ。
今作で共演され、お子さんの父親でもあるニコラ・デュヴォシェルさんの、俳優として男性としての魅力をお聞かせください。昨年のフランス映画祭で来日したサラ・フォレスティエさん(注:『HELL 私の名前はヘル』でデュヴォシェルと共演)にインタビューしたとき、「彼は“フランスのジェイムズ・ディーン”と呼ばれていて、フランスの女の子たちが憧れるタイプの男性なの」とおっしゃっていましたが。
(笑)どこから始めようかしら。まずは、俳優としてのニコラについてお話しするわ。私がここにいるのもそのためだから。
ニコラと初めて会ったのは2002年の短編『Les Freres Helias』で共演したときだったんだけど、彼はまだ映画の経験が少なかったにもかかわらず、当時からすごい存在感があって圧倒されたの。動物的な本能に導かれて演じていると感じさせるところなんか、確かにジェイムズ・ディーン的だと言えるかもしれないわね。それ以来、ずっと「また彼と共演したい」と言い続けていたんだけど、今回ようやく共演できそうなシナリオがあって、実現したというわけ。この作品で一緒に仕事ができて、とても誇らしかったわ。フランス映画界で彼は、同世代の中でも稀なほど才能にあふれた俳優だから。
男性としては……それはどうでもいいことね(笑)。女性が憧れるタイプなのかな……どちらかというと、男性の取り巻きの方が多い気がするけど(笑)。女の子たちも確かに…………まあ、女の子たちのことはどうでもいいわ(笑)。
本作に出演したことで、女優として女性として得たものや、変わったことはありますか?
この役を演じることによって、皆さんの私に対する見方が変わったということはあるかもしれない。これまではどちらかというと、純然たるコメディーというわけではないんだけど、ちょっと表面的な役柄を演じることが多かったから。こういう風に心理面で深く掘り下げた暗い役柄も演じられるんだということを、皆さんにも自分自身に対しても証明できたという意味でも、私にとってはとても大切な役だったわ。それにもちろん、演じるのにとても難しい役柄だったので、それだけに喜びも大きかったの。
変わったことは……、この映画に出演した直後に妊娠して、ママになったことね(笑)。それが一番大きな変化だわ。
お子さんが生まれてから、仕事の上で何か変化はありましたか?
ん~、特にはないわ。仕事が終わってからみんなで飲みに行って、遅く帰るということはなくなったかも(笑)。それが一番大きいわね。まあ、女性にとって出産というのはとても大きな変化だと思うので、そういう意味での変化はあったけど、それが仕事に影響しているかというと、特には感じていないわ。私は外見上はとても若く見られがちなんだけど、女子高生のような役よりも、これからはもっと成熟した女性を演じていきたいとは思うわね。
最後に、これから映画をご覧になる方々に向けてメッセージをお願いいたします。
こんにちは。『情痴アヴァンチュール』をぜひご覧ください。(日本語で)見てね! どうもありがとう!!
映画の中で見るよりもずっとスリムで、真っ白なワンピース姿がとってもキュートだったリュディヴィーヌ。今年28歳で、しかも一児の母とはとても思えない、ティーンエイジャーのような若々しさだ。フランス映画祭初日のレッド・カーペット直前ということもあって、慌しい中で行われたインタビューだったが、終始リラックスした様子で明るく応じてくれた。難しい質問にもよどみなく答え、フランソワ・オゾン監督と映画論議をするというだけあって、頭の回転も抜群。とにかく、可愛さ炸裂!の彼女だったが、その後のオープニング・セレモニーでは一転、美貌を際立たせるセクシーな衣装に着替えて強烈な色香を振り撒き、本作でも共演したブリュノ・トデスキーニをはじめ、同じ舞台上にいた男性陣の目を引きまくっていたのはさすが……。
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
『情痴アヴァンチュール』作品紹介
恋人と同棲し始めたジュリアンは、ある晩、裸足で街をさまよう女性に出くわす。何かを訴える瞳に吸い込まれるように、ジュリアンは後を追うが、すぐに夜の街に消えてしまう。翌日、再び彼女を見かけるが、昼間の彼女はまるで別人のように美しくエレガントだった。やがて彼は、この美しいガブリエルが、夢遊病者であることを知る。彼女との出逢いは、彼を予期せぬ危険なアヴァンチュールへと導いていく――。
果たして美しきスリープ・ウォーカー(夢遊病者)と、彼女の秘密に魅了されていく青年が迎える結末とは……。
(原題:Une Aventure、2005年、フランス・ベルギー、上映時間:107分)
キャスト&スタッフ
監督:グザヴィエ・ジャノリ
出演:リュディヴィーヌ・サニエ、ニコラ・デュヴォシェル、ブリュノ・トデスキーニ、フロランス・ロワレ=カイユほか
公開表記
配給:東芝エンタテインメント
2007年3月31日(土)より、シネマスクエアとうきゅう他にて全国順次ロードショー
(オフィシャル素材提供)