竹内結子久々の主演ということでも注目されている根岸吉太郎監督『サイドカーに犬』の完成披露試写が行われ、根岸監督と、主演の竹内結子、松本花奈、そして主題歌のYUIが登壇した。
YUIによる『Thank you My teens』そしてこの主題歌である『Understand』のアコースティックライブで幕を開けた完成披露試写。『Understand』は本日初披露ということもあり、観客の興奮も高まったところで、舞台挨拶が始まった。
まず、ひと言を求められた4人は、「今日初めて皆さんにお見せするので、期待と不安でドキドキしています。僕にとって、大事な映画です。この映画が可愛くてしょうがなくて、一刻も早く皆さんにお見せしたいなという気持ちと、あまり大事なのでもうちょっと見せないでおきたいなという気持ちと両方あるのですが、本当に今日は皆さんに初めてお見せします。映画は、作る僕ら、演じる人、たくさんの人たちの努力で作られますが、やはり最後に皆さんに観ていただき、皆さんの心の中に残ることで、初めて映画としてまともなスタートを切れるわけです。今日はそういう意味でこの映画の誕生日だと思うので、皆様どうか大事に見守ってやって下さい」(根岸)、「謎の女・ヨーコ役を演じた竹内結子です。久しぶりの映画出演ということで、肩に力が入らなかったわけではありませんが、監督とお話をさせていただく中で、リラックスしながら楽しんで演じられたと思います。真っ直ぐな目をした薫役の花奈ちゃんがいて、素敵な主題歌があって、夏の夕暮れのようなキュンとする素敵な映画だなと思いますので、どうぞゆっくり楽しんでいって下さい」(竹内)、「薫役の松本花奈です。小学4年生の9歳です。今日は新幹線で、大阪からこだまで4時間かけて来ました。また、大阪にも遊びに来て下さい」(松本)、「主題歌を担当させていただきましたYUIです。素敵な映画の主題歌ということで、映画を見させていただいてから作らせていただきました。監督も、“感じたように”と言って下さったので、映画への想いがこもっている曲を一緒に聞いてもらいたいと思います」(YUI)と、お披露目を迎える喜びを語る。
本作での演技が高く評価されている竹内結子の起用について根岸監督に聞くと、「本当に観ていただければ判ると思いますが、竹内さんが“何か新しいことをやってみたいな”とたぶん思っていた気持ちと、僕らの“新しい竹内さんを作りたいな”という気持ちが現場で一致しました。たぶん、これが新しい竹内結子なんだなと見ていただけるんじゃないかなと思っています。楽しい現場でしたが、いつも“カット、OK!”と言うと、僕のところにやってきて、“大丈夫ですか? 大丈夫ですか?”と毎日のように聞いてきましたね。けっこうめんどうくさいので、“大丈夫だからOK出しているんだ、何て疑い深いんだ”と最初は思いましたが。でも、お互いにすごく繊細に大胆な女性像を作っていったんだと思っています」と答える。
竹内にも、今回演じたヨーコさんについて聞いてみると、「これまで頂いてきた役から考えると、自分に肉付けする素材が本当に少なかったので、どこに自分を持っていけばいいのか、本当に手探りの状態でした。すごく心許なかったので、“今ので、本当に大丈夫なのでしょうか?”といつも監督に確認していました。最初に台本を頂いて読んだときには、ヨーコさんには“どんな激しい人だよ”という雰囲気を感じていたのですが、実際に演じてみると、こういう生き方しか出来ない人もきっといるなという感覚でいました。誰かを参考にしようと映画や小説を見たり読んだりすると、たぶん私はそっちに引っぱられてしまうと思うので、台本と原作を最初に読んだときの感触そのままにやりました」と、今回の役作りの過程を披露。憧れる女性像を聞くと、「どうなんだろう……。カッコイイ女性になりたいと思う自分がいるのですが、きっと素敵だなと思える人は、自分をカッコつけようとか、自分をとりつくろうという姿があまりなく、その姿が、きっと格好良く映るんだろうと思います」と語る。生で聞いた主題歌『Understand』の印象を聞くと、「舞台の袖で、花奈ちゃんとこっそり覗いていました。これだけで今日はここに来て良かったなと思いました」と嬉しそう。YUIも「はい、もうありがたき幸せでございます」と緊張気味に答えた。
松本花奈もYUIのライブを楽しみにしていた1人。「柔らかくてふわっとした感じで、感動してさぶいぼ(鳥肌)が出て来た」と嬉しそう。久々の竹内との再会について感想を聞くと、「前とあんまり変わっていなくて、良かったです」と大物ぶりを発揮。「憧れる女優は?」と聞かれれば、「なりたい人はまだいないけれど、好きな人は、女の人だったら、竹内結子さんとか室井滋さんとかで、男だったらウエンツ瑛士さん。後、ジョニー・デップさんとか、俳優さんかどうか判らないけれど、高田純次さん」と場内を爆笑で包み、竹内も「いや、もう、素晴らしいですね。高田純次さん、私もちょっと熱く語れるようになればいいな」と言うほどだ。
主題歌『Understand』の作詞・作曲も担当したYUI。「最初にこの映画を観たときは、何とも言えない切ない感じが胸に残り、余韻がずっとあったので、その感じを家に帰ってすぐに曲にしたいなと思って曲作りに入りました。映画の最後の方に、ヨーコさんと薫が河原を自転車で走っているシーンがありますが、そういう優しい気持ちになるシーンを曲に込めていきたいなと思い作っていきました。監督とは、一度お話させて頂いたときに、“感じたことをそのまま曲に”と言って下さったので、感じたことをいっぱい曲に込めていこうと思い作っていきました」と、いつものように朴訥と語る。根岸監督も、「僕も舞台の袖で拝見していましたが、最初に歌うのではなく、ずっとあそこに座って待っていただき、映画が終わったら歌ってくれればいいのにと思っていました(笑)。この映画は20年前のひと夏の話で、20年前の小学生を花奈ちゃんが演じているのですが、YUIさんが歌っているのを見たら、20年後に薫がYUIさんになって歌っているような気がして、何かじーんと来ましたね」と嬉しそうだ。
この映画のひとつのキーにもなっている夏休みの思い出について、まず根岸監督に聞いてみると、「やはり、最後に一度に宿題が襲ってくるということですね。人は、最初の方に宿題をする人と、最後に間に合わなくて新学期が始まってからまだやっている人の2種類に分かれると言いますが。だから、人に、“あなたはどういう人なのか?”と聞くときに、このどちらのタイプなのか聞くことがあります。僕は、後の方なんですよ。もう収拾がつかなくなって、学校が始まって1週目には(宿題を持ってくるのを)忘れたふりをするというほどなので、夏休みというと、まず宿題のことを思い出します」と、意外な答え。他の3人も同じタイプだと聞くと、「まぁ、そういう人たちが集まって作っちゃった映画ということだね。だから、勉強をしているところは時々出てくるんだけど、あまり一生懸命やっている感じじゃないね」と納得した感じ。竹内も「本当に、宿題に追われる最終日には、泣きそうな勢いで無理矢理日記を書いていたりとか。小学生の頃、唯一海に連れて行ってもらったときに、海に入ろうとしてちょっとした岩から飛び降りたら失敗したらしく、どうやら水中の岩で足を切っていたのでしょうね。何かおかしいなと思いつつしばらくジャブジャブ泳いでいましたが、何か足がしみるので海から上がったら、向こう側で待っていたウチの家族が、血相を変えて“あんた、足、足”って言うから、どうしたんだろうと思ったら、ここをざっくり切っていて、波打ち際からポツポツポツポツと自分の血が落ちているんですよ。それを見てから先の記憶が無くなっているということがありました。でも、“つばを付けておけば直るわよ”みたいな感じだったので、私はたくましい子供だったのかなと思います」と竹内家のひと夏の思い出を披露してくれた。現役小学生の松本は「あまり出かけたりしないから、いつも朝から夜の6時頃まで近くの公園で友達と遊んでいたり、おばあちゃんの家に行ったりしています」と、意外と地味。YUIも「夏休みに海に行って夜釣りをしたら、タコを釣ってしまったのですね。わぁっと言ったら、隣の夫婦の人がビニール袋を持って針を外してくれて、“(タコを)あげる、あげる”と言った思い出が。その後は、その夫婦の人がタコを持って帰って、うん」と笑いを誘うエピソードを語ってくれた。
タイトルでもあり、この映画にも登場しているのがサイドカー。当日、会場のロビーにも展示されていたが、映画の中で乗車した松本に乗り心地を聞くと、「隣にバイクが付いているから、荷物みたいに運ばれていく感じがして、すごい楽しかったです」とユニークな答え。根岸監督は、「すごいですよ。人が体験したことがないような感じというか、すごく低いところに目があって全部前が開けているじゃないですか? だから、変な話だけど、ゲームの世界みたいになっちゃって。周囲の景色が低いところでどんどんどんどん飛んでいくので、普段の生活では感じたことがないような体験ですね。だから、最近は自慢しているんですよ。“ヘリコプターに乗ったことがあってもサイドカーには乗ったことはないだろう?”というと、たいてい皆“ハイ”って言うのですが。本当に皆さん、チャンスがあればぜひ一度体験して欲しいと思います」と、感動を思い出した様子。映画の中でバイクに乗ってはいる竹内は、「私は運転している古田新太さんの後ろにくっついていたので、きっと花奈ちゃんの乗っていたサイドカーの部分から外を見たら、視界の低さが地をはうような感じなのですかね。体験してみたいなと思いつつ、撮影が終わって“ちょっと乗っても良いですか?”と聞いたら、“もう、夜が遅いので帰って下さい”と。“ああ、じゃあ、またにします”と言っていたら、機会を逃してしまいました」と残念そうな様子だ。
最後にこれから映画をご覧になる観客へひとことづつ求められると、「そうですね、あぁ、今日からか……。きっと、この映画をご覧になった方は、余韻に浸りながら、恐らく、自分の幼かった頃と重ねて何かを思ったりするかもしれません。それは切なかったり嬉しかったり、いろいろな記憶があったりすると思いますが、う~ん、何だろうなぁ、“私にもこういうときってあったな”って思っていただけたらありがたいなと思いますし、ご覧になった方はきっと薫のことを本当に好きになるような映画になっていると思います。よろしくお願いします」(竹内)、「ヨーコさんがすごいカッコイイので、そういうところを見て下さい」(松本)、「映画を見て感じたことを書いていった曲なので、映画のまま一緒に聞いてもらえたらと思います。よろしくお願いします」(YUI)、「もうすぐ夏休みですね。もちろん、これから夏休みを迎えられる方もいるでしょうし、夏休みなんて全く関係ないという方もいるかもしれませんが、おそらく、夏休みとは遠く離れた人でも、夏休みという言葉を聞いたときに、何か懐かしさとほのかな期待が胸の中に涌いてくると思います。そういう夏休みという特別な気持ちが涌いて出てくるようなことをこの映画の中でもう一度感じてもらって、これから夏の日差しが強く照っていく中で、時々この映画を思い出していただければ、幸福だと思います。今日は本当にどうもありがとうございました」(根岸)と語り、この日の舞台挨拶は終了した。
(取材・文・写真:Kei Hirai)
公開表記
配給:ビターズ・エンド、CDC
2007年6月23日(土)よりシネスイッチ銀座・渋谷アミューズCQNにて公開、6月30日より全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)