日本各地で被害を引き起こした台風4号が上陸すると予測されていた7月15日(日)、秋篠宮妃殿下、眞子内親王殿下ご出席のもと、都内ホールにて『ブラインドサイト ~小さな登山者たち~』舞台挨拶付ロイヤル試写会が行われ、あいにくの天候にも関わらず、多くの観客が会場に詰めかけた。
『ブラインドサイト ~小さな登山者たち~』は、チベットに生きる盲目の子供たちが、世界的な登山家たちのサポートを受け、エベレストの北側に位置する標高7000メートルのラクパリ登山に挑戦する姿を描いたドキュメンタリー。劇場公開としては日本がワールド・プレミアとなる本作の特別上映に合わせ、自らも盲目でありながら、チベット初の盲人学校「国境なき点字」を設立してさまざまな活動を続けているドイツ人教育者サブリエ・テンバーケンと、彼女の公私にわたるパートナーで「国境なき点字」を共に運営しつつ、多くのプロジェクトに参加しているポール・クローネンバーグ、そして本作のプロデューサーであるシビル・ロブソン・オアーが来日、鑑賞前に両殿下をお迎えし、上映後は舞台挨拶を行った。
この前日にチベットから到着したばかりのサブリエとポール。「本日はここにいられることをとてもうれしく思っています。この映画を観るのは今回で12回目になりますが(笑)、観れば観るほど良く思えてくる作品です。このたびは“国境なき点字”、チベットの子供たち、そして盲目ということについて皆さんが興味を抱いてくださってとてもうれしく思っています」(サブリエ)、「4~5日前に、この試写会に参加することが決まったのですが、台風に遭えてラッキーでしたね(笑)。この映画も台風と同じような影響力を日本に与えられるといいと思っています」(ポール)と、まずはそれぞれに喜びと感謝を口にした。
標高7000メートル近くに至るまでの登山の模様を撮影ということで、いかに困難を極めたかを語ったプロデューサー。「まず、チベットの大都市であるラサ自体が標高4000メートル近い所に位置しているので、飛行機から降り立った瞬間に肺から空気が抜けていく感じがして、頭がクラクラした状態で撮影しなければなりませんでした。その標高ですでにそうした状態なのに、約7000メートル近い所まで登ったわけですから、どれほど大変なことだったか皆さんもご想像できるでしょう。盲目の子供たちが登頂した標高としては今回が世界記録です。もちろん、子供たちやサブリエ、ポールたちにとっても大変なことでしたが、撮影隊は彼らが登っている姿を撮影するために、重い機材を運びながら先回りして登らなければいけなかったわけで、今回は本当に大変な挑戦でした。でも、素晴らしいチームワークがあったからこそ、この困難を克服できたのだと思います。チームワークということこそ、サブリエが最も伝えたいメッセージでもあります」と、映画の中でも何度も語られたサブリエの言葉を代弁した。
この映画を観た後では誰しも、撮影から2~3年経過した今の子供たちの近況が気になることだろう。「みんな大人になって身長が伸びましたし、声も変わって、ものすごくハンサムになった子もいます(笑)。でも何よりも素晴らしいのは、ほとんどの子たちがすでに自分の夢だったことをかなえられたということですね」と大きな笑顔で語ったサブリエ。「ソナムは通訳になりたいと言っていましたが、一般の学校に通って、55人いる学級でトップの成績で卒業することができたのです。クラスの委員長まで務める人気者で、彼女が卒業するときは先生や生徒たちも涙を流していたそうです。映画にも登場したガイドのサリーの援助もあって奨学金を得て、今度はアメリカで通訳になるための勉強をするところです。タシとテンジンに関しては、映画にも出ていたとおり、チベット最大のマッサージ店を経営していて、タシは店長、テンジンは会計を担当しています。映画で話していたように、冷たい飲み物も売っているかどうかは私もちょっと分かりませんが(笑)。キーラは英国の留学から戻って、現在は、今回のようにポールと私がいないときに学校を運営しているスタッフの一人になっています。ダチャンはすごく背が伸びました。現在北京で、中国の伝統的なマッサージとコンピューターを勉強している最中です。ゲンゼンは、点字図書の出版を目指していて、この映画の点字プレスも作っています。それにコンピューターに大変興味があって奨学金を得たので、まずマレーシアで勉強してから、日本に留学することになっているんですよ」と報告すると、会場からは大きな拍手が沸いた。
最後に、「国境なき点字」の活動について語ったポール。「私たちはいつも一番最初に“将来の夢は何? 大きくなったら何になりたい?”と子供たちに質問します。何が出来るか出来ないかということではなく、何が本当にやりたいことなのかを聞くようにしているのです。学校にやってきたある少年にそう聞いたとき、彼はニコニコしながら“タクシー運転手になりたい”と言ったんですね。彼は盲目なのでそれはちょっと難しいんじゃないかと思いながらも、“それは素晴らしいね”と答えました。そして2年後に再び彼に会ったとき、“君の夢はどうなった?”と改めて質問すると“目が見えないのでタクシーは運転できないと分ったけど、タクシー会社は運営できるね”と答えたのです。そういう風に、彼らの可能性を追求するのが“国境なき点字”の仕事だと思っています」。
「国境なき点字」の活動は今後もさらに、世界的な規模で大きく発展していくことだろう。「私たちは、世界中の発展途上国の視覚障害を持った子供たちが教育を受けられるようにサポートしていきます。発展途上国では視覚障害があると、10人中9人の子供たちは学校に行くことができないという現実があります。私たちたちはそうした現実を変えたいですし、変えられると思っています。そこで、インドのケララ州に国際教育機関を作って、主に発展途上国から視覚障害がある子供たちを集めて、私たちがやっているような点字活動を自分たちの国で自ら出来るように訓練をしていこうと計画しています。視覚障害を持っていらっしゃる方を直接ご存じだったり、私たちのケララ州の施設にご興味がある方がいらっしゃるようでしたら、いつでもご連絡いただければ歓迎いたします」と、観客に向かって語りかけたポールの言葉は、両殿下をはじめ、会場にいた全員の心に届いたことだろう。
本作を観て「国境なき点字」の活動についてより一層の情報を得たいと思った方は英語版のウェブサイト(http://www.braillewithoutborders.org/、外部サイト)を訪れてほしい。
登壇者:サブリエ・テンバーケン、ポール・クローネンバーグ、シビル・ロブソン・オアー
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
公開表記
配給:ファントム・フィルム
2007年7月21日(土)よりシネマライズ、品川プリンスシネマほか全国ロードショー