この作品で僕の実力を見せたい、アイドルではなくプロの俳優であるということを示したいと思った
闘う狗として育てられた非情な殺し屋、復讐の狗に変貌していく凶暴な刑事。孤独に生きてきた2匹の狗が出会った瞬間、生命を懸けた死闘が始まる――。“香港の三池崇史”と称されるソイ・チェン監督のバイオレンス・ノワール『ドッグ・バイト・ドッグ』。これまでのイメージを一新、残忍なカンボジア人の殺し屋役で鬼気迫る演技を見せ、共演のサム・リーと共に台湾金馬奨主演男優賞にノミネートされたエディソン・チャンが、インタビューに応えてくれた。
エディソン・チャン
1980年10月7日、カナダ・バンクーバー生まれ。
トロントの高校卒業後の98年、香港に移住。シティバンクや地下鉄、ペプシといった話題のCMに出演し、モデルとして注目を浴びる。
2000年『ジェネックス・コップ2』で、映画デビューにして初主演。同作の主題歌で、CDデビューも果たす。同年の三池崇史監督作『DEAD OR ALIVE 2 逃亡者』では、ティーンのアイドルとなる。
また、『インファナル・アフェア』シリーズ(02・03年)では、アンディ・ラウ演じる主人公の青年時代を好演したほか、05年には『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』に出演し、同年、窪塚洋介と共演した『同じ月を見ている』では得意の日本語も披露。06年には、『呪怨 パンデミック』でハリウッド進出するなど、まさにインターナショナルな俳優へと成長している。
その一方で、自らの洋服ブランドや音楽レーベルを手掛けるなど、多彩な才能を発揮している。
今回の役柄は、どんなところに惹かれたのですか?
カンボジア人の殺し屋なんて、これまで演じたことがなかったからだよ。大きなチャレンジだった。これまでは割に普通の役が多かったんだけど、今回は挑戦し甲斐のある役だと思って、すごくやりたくなったんだ。それに、ソイ・チェンはとても期待できる監督だと思ったということもある。
いろいろな監督とお仕事をされていますが、ソイ・チェン監督の演出にはどういった特徴を感じられましたか?
これまで僕の外見のイメージを変えられる監督には出会えていなかったんだけど、ソイ・チェン監督は大胆で、冒険できる人だと感じたね。僕にとって創造性というのはとても大切なものなんだけど、その部分においても監督と共感し合えたので、一緒に仕事が出来て良かったと思っているよ。
過激なアクション・シーンの連続でしたが、一番大変だったシーンはどこでしたか? ケガはしませんでしたか?
アクションは最初から最後まで激しかった。本物らしく見せるためにも、殺陣師にカッチリ決められたものをやるのではなく、大まかに動きを決めた後は、サム・リーと本当に殴り合うスレスレのところまでやったんだ。
ケガについては、タイでロケをしたクライマックス・シーンで、後ろに倒れた際にちょっと負傷してしまった。まさにクランクアップの日で、時間もなくなってきていたので頑張って終わらせようと思った途端のケガで、本当は休みたかったんだけど、ソイ・チェン監督たちの困った顔を見たら、我慢して続けようと決心して、結局完璧なシーンを撮ることができたんだ。終わったときにはみんなが拍手してくれたよ。
演じられたパンというキャラクターとご自身を比べて、似ている部分と違っている部分をお教えください。
似ているのは、生きているうちに何でもやってみたいと思うところ、やられたらやり返すところ(笑)。一番違うのは、パンは失うものは何もないけど、僕は何でも持っているという点だね(笑)。
今回はいわゆる、汚れ役だったわけですが、どのように役に近づこうと努力されましたか?
もちろん、僕はパンとは違う部分が多いけど、財産が5ドルだけであろうと5億ドルだろうと、本質的な部分では理解できないことはないと思うんだ。つまり、僕は芸能界に入ってからこれまでいろいろなトラブルがあったり、怒られるようなことをやってしまった経験もあるので、心の奥底の部分では不安や戸惑いがあって、それを1000倍くらいにしたらパンの性格になるんじゃないかと考えた。アメリカに留学していたときには、すごく貧しい人々を見たことがあるし、タイでロケハンしたときも監督と一緒に、ゴミを拾って暮らしている極貧の子供たちの生活を見て、殺し屋をやってでもそうした生活から抜け出たいと思うパンの心のうちが想像できたし、彼を演じられると思ったんだ。
共演されたペイ・ペイさんは日本ではあまり知られていませんが、どんな方でしたか?
ペイ・ペイはすごい努力家で、ソイ・チェン監督にたくさん質問し、監督も熱心に指導していたよ。監督を心から信頼して頑張って演じていたね。彼女は新人で、これがデビュー作なんだ。すごく将来性のある人だと思うし、この映画で彼女は注目されるだろうね。今後も期待できる女優さんだと思っているよ。
冒頭ではパンはとても冷酷な表情をしていましたが、少女ユウと出会ってからは柔らかな表情に変化していくのが印象的でした。そうした彼の思いをどのように理解されて演じられましたか?
パンは愛を知らない男だった。貧しい生活を経験してから香港にやってきて、人殺しを仕事にしていたんだけど、ゴミの埋め立て地で父親にレイプされたユウと出会うんだ。そのときから彼女は、波乱に満ちたパンの人生の中に飛び込んでいくことになる。彼は最初からユウを愛したわけじゃなくて、二人はだんだんお互いに惹かれ合っていく。ある夜、彼は気づくんだ。ユウは彼に何かを期待しているのではなく、ひたすら彼を守ろうとしているのだと。そのときから彼の中で愛情が生まれ、彼女のことを仲間だと思えるようになるんだ。その後は彼女を大切にして妻にもし、子供も生まれる。その子供は彼にとって宝物であり、その子のために自分自身を変えようとまでする。自分を犠牲にしてもその子だけは守りたいと思うんだよ。
僕自身、芸能界に入った頃はすごくわがままだったんだけど、今は少し成長して、他人の気持ちも尊重できるようになってきた。そうしたところでパンの気持ちが理解できたんだよね。
今は“華流”、つまり中華圏の俳優さんがすごく人気で、エディソンさんはその中心にいらっしゃるわけですが、日本にファンがたくさんいることについてはどう思われますか?
僕たちをアイドル扱いするのではなく、とても知的で映画もきちんと理解してくださるというのが日本のファンの方たちの特徴だね。女の子たちもすごく可愛いし(笑)。
エディソンさんのキャリアにとって、この映画はどんな作品になりましたか?
この作品で僕の実力を見せたい、アイドルではなくプロの俳優であるということを示したいと思った。ハンサムな貴公子ではなく、カンボジアからやってきた殺し屋で、お腹が空けば拾ってでも食べる男という、自分とは正反対の役も出来るということを示したかったんだ。
(取材・文:Maori Matsuura、写真:Cinema Factory編集部)
公開表記
配給:アートポート
2007年8月11日(土) 新宿武蔵野館他にて公開