黒咲勇弥には彼なりの確固とした美学があり、彼なりの“正義”があるんです
日本の改造車が登場し、全米に“チューンナップ・カー”ブームを巻き起こした『ワイルド・スピード』から4年、ついに超ド級カー・アクション・ムービーがチューンナップ大国・日本で誕生した。怖いもの知らずの走り屋たちが超絶バトルを繰り広げる『スピードマスター』。勝つためには手段を選ばない、スピードに取り憑かれたアブないお坊ちゃまを演じて、これまでとは全く異なる顔を見せた内田朝陽が、役柄への取り組みと自らのこだわりについて大いに語ってくれた。
内田朝陽
1982年生まれ、東京都出身。
『死者の学園祭』(2000/篠原哲雄監督)で、主演の深田恭子の相手役を全国から応募した「21世紀 movie star audition」にて、監督以下満場一致でグランプリを獲得しデビューを飾る。
その後TVドラマでも活躍、06年には日本・韓国合作ドラマ「天国の樹」にも出演した。また、映画『昭和歌謡大全集』(03/篠原哲雄監督)出演後、『精霊流し』(03/田中光敏監督)では櫻井雅彦役で初主演を果たし、松坂慶子、田中邦衛といったベテラン俳優の中での光る演技が高い評価を得る。
その後も、『スクール・ウォーズ/HERO』(04/関本郁夫監督)、『蟲たちの家』(05/黒沢 清監督)、『天使』(06/宮坂まゆみ監督)、『アオグラ』(06/小林 要監督)などに出演。『アタゴオルは猫の森』(06/西久保瑞穂監督)では、初の声優にも挑戦している。
今年は朝の連続テレビ小説「どんど晴れ」(NHK)に出演しその名を全国区にした。
『歌謡曲だよ、人生は』(07/第八話「乙女のワルツ」:宮島竜治監督)の公開も控え、実力派俳優の道を着実に進んでいる。
これまでと違ったタイプの役柄だったと思いますが、初めて脚本を読んだときの感想を教えてください。
“僕にこういう役をやらせてくださる監督もいるんだな”と思ったのがひとつと、最初にもらった台本は完成した映画のものとはちょっと違ったんですよ、ストーリーも表現も世界観も。はじめは正直、“ん~……”と思いました。「やらないかも……」と監督に申し上げましたね。これはやりたくないかもしれないと思ったんですけど、ただ、こういう役を僕にくださろうとしている監督には興味があったので、お会いしたときに「これは今後変わっていくんですか?」とお聞きすると、「これから変えようと思っている」とおっしゃったので、その言葉に賭けてみようと思いました。ちょっとギャンブル的な決断だったので、正直不安はありましたね。
内田さんもいろいろとアイデアを出されたんですか?
アイデアを出したのはあくまで僕の役柄に関わる部分だったんですけど、元々の黒咲勇弥はもっとたくましくて、隊長っぽかったんですよ。強くて怖いワル、ボスでした。体温も血圧も高い、みたいな(笑)。それが、台本の書き換えで徐々に世界観が出来てくるにつれて、その体温の高さが浮いているように感じてきました。彼はワルではあっても、一緒の部屋にいても近寄らなければ怖くないタイプの人だったんです。でも僕は、一緒の部屋にいたくない人にしたいと思いました。何をするわけでもないんですけど、何かされるような恐怖感を与える人にしたくて、そういう作りこみを細かくやりましたね。「“一緒にいて、目が合うと何かされるんじゃないかという気持ち悪い人”という前提で、いろいろ思いついたことを書いていいですか?」と言って。ホント、小さいことですよ、変えたことというのは。語尾だったり、人を殴ったときや殴られたときの反応、立っているときの様子だったり、衣装もそうですけど、そうした細かい部分を最初に決めて、あとはその場その場で、「どっちのほうが一緒にいたくない? どっちのほうが気持ち悪いかな」と話し合いながら決めていきました。
とにかく、ジャイアン的な親分というより、ナチス的な感じのある低体温なリーダーにしたかったんですよ。人を束ねるのがうまい、豪快な人じゃなくて、なんかヤバくて敵に回したくないからその人の前では下手になってしまうっていう、本当は部下に愛されていないかもしれないタイプにしたかったんですね。だから、ちょっとヒトラーのことも勉強したりしました。
監督とお話ししていて、僕がこういう風にしたいということに関しては、ほとんど喜んでくださったのはうれしかったですね。で、やってみて却下されたものも、もちろんたくさんありましたけど、意外に食いついてくださったところもありました。
実は、クランクインまで本読みがなかったんですよ。集まっても本読みしないで解散しちゃったんで、中村(俊介)さんが「……監督、本読みはどうなっているんですかね? 今日は本読みがあるって言われて、ここに来たんですけど」みたいな(笑)。本読みのために集められながら、15分くらい話をしただけでみんな、帰っちゃいましたから。正直、“大丈夫かな、この映画”と思いましたけど(笑)、そのせいで、初日に集まったときに、みんながいろいろなお土産を持ってきていたんですよね。最後の別れがああだったから、みんな“なんかやらなきゃ”と思ったみたいで、本読みをしてヘンに刺激し合っていないし、プレッシャーをかけ合っていないから、それがかえって良かったみたいです。現場でも結局はすごく時間をかけていろいろやりましたけど、結果的にいい形で出来たと思いますけどね。
非常にインパクトのある役でしたが、演じる上で一番苦労したシーンは?
クランクインの日というのが、車を壊すシーンだったんですよ。さすがに、車を壊したことがなかったですし、しかもあんな棒を使ってですから、どうしたらいいんだろうと思いました。車のガラスって、結構割れないものなんですよ。しかもクランクインしたばかりで、黒咲勇弥というキャラクターについて自分の中ではイメージがありましたけど、監督のイメージとのすり合わせができていないので、もしかしたら「それは違う」と言われてしまうかもしれないですし、車は壊さなきゃならないですし、いきなり乱闘はあるわ、芝居をするところもあるわで……。で、その日は監督から何も言われなくて、“ちょっとマズいなぁ~、自分ではいろいろ考えているけど、ふざけているように思われていないかな”と考えたりして、結果的には大丈夫だったんですけど、初日はいろいろな不安がありましたね。
それに、暑かったんですよ。8月ですよ! 真夏にあの格好ですからね(笑)。 タイヤをリサイクルして作ったゴム製のジャケット。監督に「これ、すごいですね」と言ったら、「襟だったら開けていいよ」「いや、あんま、変わんないっすよ」って(笑)。「中途半端に前開けてるくらいだったら、閉めてたほうがカッコいいと思うんですけど、何か方法ないですかね?」と聞いたら、「ゴムだからね~」「……諦めます」と(笑)。さらに真っ黒い車に乗るじゃないですか。あの車は冷房が利かないんで、直射日光を浴びながらサウナにいるような感じでしたよ(笑)。しかも、あれだけメイクをしていて、「目元に汗かいたら、まつ毛が取れちゃうから」とか言われても、「汗かくなって言われても、出来ねーよ!」みたいな(笑)。極力瞬きしないように、薄目にしていましたけどね。
「一緒にいたくないような男」とおっしゃいましたが、一方で彼には共感できる部分もあったのでは?
ありましたね。男性女性問わず、共感できる部分はあったと思います。日本人って、結構心の中に陰湿さを秘めていると僕は思うんですけど、例えば、時代劇に出てくる拷問ですとかいじめ、ホラーで描かれる気持ち悪いシーン、痛そうなシーンなど、見ていて「うわぁ~!」となるようなものを思いつくのがうまいじゃないですか。そういう陰湿な部分って、誰にでもあると思うんですよ。
それと、普通に生きていて、あそこまで内面が極端に振り切れる人って少ないんじゃないかな。全く共感は出来ないんですけど、正しいか間違っているかは全然関係なくて、彼には彼なりの確固とした美学があり、彼なりの“正義”があるという部分では共感できますね。あれもひとつの個性だと思います。
また、彼には「勝つ」ことに対する激しい執着心がありますよね? それについてはどう思われますか?
「勝ちたい」という思いって、みんな隠すのがうまいだけで、絶対ありますよね? 彼は勝ちたいんですよ、シンプルに勝ちたいんです、たとえズルをしても。「要するに、小学校の頃に50メートル走で2位になったらすごく悔しいみたいなもんじゃないですかね?」と監督とは話しました。彼の場合は、それくらい単純な「勝ちたい」なんであって、とにかく人に負けるのが嫌なんですよ。それは理解できますね。普通はその感情をうまく消化する方法をみんな身につけますけど、彼は身につけていないし、最初から身につける気もないわけです。彼はひたすら負けるのが嫌だから、負けないできたんですよ。それも考えようではひとつの立派なあり方で、要は逃げてきていないですからね。何がなんでも勝ち続けるということにこだわって、負けたことがないわけですから、それはそれですごいですね。普通はもめないようにとか、負けても次があるとか、いろいろな解消方法がある中で、彼はシンプルに負けたくないから負けない、何をしてでも勝つというやり方であの日までずっと来たわけですから、その執着心というのはすごいと思います。
共演された方々とのエピソードがありましたらお教えください。
例えば、中村(俊介)さんは僕とは対象的な役でしたが、主演として真っ直ぐ一本通った芝居をやられる方でした。僕は芝居をしていて、自分がやりたいからやっているのか、あるいは必要だからやっているのか、過剰にやりすぎているのか、たまに分からなくなってしまうときがあったんです。それはすごくいけないことなんですけど、個人的に楽しんでしまっているのか、映画の中で勇弥として楽しめているのか分からなくなったとき、中村さんがシンプルにお芝居をやっているところを拝見して、“あ、今自分はやりすぎていた”とか“これはこうやるべきなんだ”とすごく良く分かりましたね。主演としてガチッと決めてやってくださった中村さんのお芝居のおかげで、自分のあるべきポジションが分かったという感じでした。勇弥のような、派手な動きの多い役でもだらしなく見えなかったのは、中村さんが作ってくださった空気感というのがすごく大きかったと思います。
鮎貝(健)さんについては、鮎貝さんはもともとMTVでVJをやっていらっしゃったんで、番組を良く拝見していたんですよ。それこそ、僕の大好きなマリリン・マンソンのインタビューも鮎貝さんは何回かされていて、僕はマンソンの話をフツーにミーハーに聞いてました(笑)。
(北乃)きいちゃんは、本当にみんなのヒロインでしたよ。みんなおっさんだったからね(笑)。何かと言っては「可愛いね~」とか言って、「気持ち悪いよ、言い方が!」みたいな(笑)。
蒲生(麻由)さんは、カッコ良かったっすよね。(蒲生さんが演じた)リオの車は中が広くって「ずるくね~!?」って言ってました(笑)。シートがすげ~座りやすそうで。僕の車なんて、無駄が一切無いって感じで、シートも硬いし……。
みんなで車の乗り比べとかしましたね。「勇弥の車は勇弥っぽいね。ピッチピチだね」「リオの車は楽だね」みたいな(笑)。それぞれいろいろあるんですけど、自分の車のエンジンのかけ方は自分しか分からないんですよ。エンジンの音とか聞きたくて「ちょっとかけてみていい?」とか、全然興味のなかった連中が、途中でマニアみたいになってきて(笑)。僕の車のエンジンが一番かけづらくて、いったんスイッチをオンにしてコンピューターのチェックが全部終わってから、クラッチ踏み込んでブレーキ踏んで、しばらく待ってからエンジンを回さないと、電源やガソリンが全部に行き渡らないんですよ。電源が1個入ると変な音がしてくるんですけど、そこで大体みんな焦って、ガッ!と回しちゃうんです。そうすると、何分間かしばらくエンジンがかからなくなってしまう。みんなかけられなくて「ちょっとこれ、どうやってかけるの?」と聞かれて、「あぁ、それ、オレにしかかけらないから」って……(笑)。自分の車に関しては、同じことをみんな、言ってましたけどね(笑)。
今回は車も主役ですが、もともと車はお好きだったんですか?
僕、車のことは全然分からなかったんですよ。RX-7とかRX-8とか名前は知っていましたし、ロータリー・エンジンとか、FDとFCがあるということも知っていましたけど、どう改造するとか細々したことは全く知識がありませんでした。でも乗ってみて、ああいう風にいじられた車ってちょっと不思議なんですよ。全然感覚が違うんです。
実際に運転はされたんですか?
撮影とは全く別に、横に乗せてもらったり、ちょっと自分でも運転してみたりはしましたけど、本当に怖いんですよ。何か、“爆発するんじゃないか、この車……”みたいな感じがあって(笑)。まるで、生き物みたいなんです。馬とかみたい。……っていうことを、車オタクみたいに言っている自分がいるわけですが(笑)、ちょっと乗ってみると、結構誰でも同じ感覚になるんじゃないかな。僕もそれまではあまり興味がなかったんですけど、面白かったですよ。
これを機に、車にこだわってみたくなりませんでしたか?
僕、凝り性なんで、1回ああいうのをやり出したらヤバいと思うんで、手を出さないようにしてます(笑)。車の運転は好きですよ。でも、スピード狂じゃないので。音楽聴きながらボーッと走っているのが好きなほうですから。
撮影期間はどのくらいだったのですか? 埠頭での撮影はいかがでしたか?
撮影期間は1ヵ月くらいだったかな。埠頭は富津岬でした。たくさん車が集まってきましたよ。本物のレース・チームの人たちが。僕が乗っていた車のチューンナップは見えないところの部分で結構優等生だったんですよ。だから、みんな見に来ていましたね。また、あの颯人のFCはR-Magicという会社がチューンナップしたんですけど、ホントに理想の形で作ったFCだったんですよね。RX-8の一つ前のRX-7で、旧型なんですけど新型に勝つみたいな。たぶん、あのFCが馬力もスピードも最高だったはずです。その次が僕のFDなのかな。たぶん、最速で時速300キロは出るみたいです。そこまで出るには時間がかかると思いますけど。
走り屋を演じてみて、いかがでしたか?
本当に怖いもの知らずですよ。度胸がある。だって、200キロとか出たら、マジで怖いですからね。富津で借りた道路でそれくらいのスピードを体験させていただいたんですけど、メチャメチャ怖かったですよ。「ホント、止めてください!」みたいな(笑)。加速がつくと体が椅子に沈む感じで、地面に近いのでスピードを体で感じますし、それでドリフトとかされると、もう事故でスピンしているのと同じ感覚ですよ。体力も筋力も必要ですし、首にかかる負担がすごいですから。根性あると思いますよ。
ご自身の出演シーンで“カッコいい!”と思うシーンと、“ここ、カッコ悪いな……”と思うシーンがありましたら、教えてください。
“カッコいいなぁ”と思うシーンは、芝居とは全く関係ないところで、レースのシーンですね。ブルーバックだったのでどんな画になるのか分からなかったんですけど、完成した映画を観て“おぉ、カッコいい~! すげー運転うまい!”と思いました(笑)。“カッコ悪いな”と思うシーンは、基本的に勇弥はちょっとダサい……んで、どっか(笑)。カッコ悪い動きをしょっちゅうするんですよね、“わ、キモッ!”みたいな(笑)。レース・シーンはどこもカッコいいと思いました。あと、放火する一連のシーン、ちょっとPV風になっているところは僕、すごい好き。あとは基本的にはカッコ悪い(笑)。恥ずかしい。映画館で冷静に観てしまうと、“何やってんだろ、オレ”みたいな(笑)。
ファッションとかも結構ズレてましたよね?
そうそうそうそう、かなりヘン(笑)。
内田さんもアイデアを出されたんですか?
そうですね。白手袋で、その上から指輪をはめるとか、あのメガネの感じとか、ちょっと浮いてる感じがいいと思いまして。あの分離感が(笑)。「これ、牛乳分離してるけど、飲める?」みたいな感じが欲しかったんです(笑)。コンタクトもね、一方が真っ黒でもう一方が灰色。ヒトラーの他には、デヴィッド・ボウイも参考にしました。あとは、ゲイリー・オールドマン。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』とかも。というか、むしろ、ティム・バートン本人(笑)。意外なところで役に立ったのは、『60セカンズ』。昔見た車ものの映画で面白かったですし、ニコラス・ケイジがあの中でやっている役って、勇弥とは全然違うんですけど、「自分のじゃない車が調子良いのが嫌だ」っていう(笑)、車を乗る人の執着心という点ではすごく分かりやすくて。
今挙げたのはどちらかというと見た目の印象で、内面的な部分は台本を読んだときに思いついたまま演じている場合がほとんどです。後から見たときに“あ、『レオン』のゲイリー・オールドマンみてーだな”とかいろいろ思っただけで、もともと僕、『レオン』のゲイリー・オールドマンが好きでしたし。本来は、アブない映画よりも『グーニーズ』みたいなほうが好きなんですけど(笑)。そういえば、『グーニーズ』も参考にしたな。あそこに出てくる人たちって、結構微妙なことをしてるんですよ。メチャクチャ細かいことをいろいろやっていますし、いつも同じメンバーで出てきますよね。今回もいつも同じメンバーで、おなじみの顔ぶれでおなじみの何かが起きる、みたいなことがやりたくて。単純に自分が面白いと思った映画を見返して、ヘンなヤツが出てくると勇弥の参考にならないかなと考えたりしましたね。
でも、どうして『グーニーズ』をあんなに見たんだろ? 全然関係ないんですけどね。……あぁ、たぶん、邦画のディープ感じゃなくて、『グーニーズ』みたいなライト感があったらいいなと漠然と思っていたんですよ。押しつけがましくない、娯楽映画になったらいいなって。
他に『ワイルド・スピード』や『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』のような車ものの映画は参考にされましたか?
『ワイルド・スピード』は見ましたけど、意外に参考にするものがなかったんですよ。たぶん、CGを作る人とか監督さんのほうが参考になるものはあったと思いますね。カッコいいなと思ったのは、音楽とかスピード感とかですけど、車って音楽がすごく合うんですよね。今回の映画には僕が作った曲も流れています。監督から「音楽やってないの?」と聞かれて、「たまにやってますよ」と言ってCDをお渡ししたら、「使いたい」とおっしゃって。勇弥の父親が経営しているカー・ショップの中で流れている音楽は僕が作ったものです。
楽器はやってらっしゃるんですか?
いろいろやります。ギターとかベースとか、キーボード、ドラムまで。ギター以外はあまり得意じゃないですけどね。
自分の思い通りにならないとき、内田さんはどんな行動に出ますか?
僕は、思うようにならなければ落ち込むだけです(笑)。欲しいものは出来るだけ手に入れようとしますけど。
今、欲しいものは?
すっごい夜景がきれいに見えるマンションとか(笑)。あとは、自転車。最近、自転車に乗るのが好きなんですよ。飛行機とかも欲しい(笑)。
製作記者会見のとき、監督が「どうして人は車を愛するのか問いかけたい」とおっしゃっていたようですが、その気持ちが分かりましたか?
分かりましたね。スピードには中毒性がありますし、車をいじり出しちゃうと特にそうです。自分の中の探究心とかオタク心、闘争心といったものが全部満足させられるんですよ。物をいじれるし、スピードが出せるし、競争が出来るし、いろいろ飾れるし、自分を主張できるものが作れてしまえます。自分だけの空間ですよね。しかも、勝負が出来るので、ハマる要素が多いんですよ。
内田さんにとって、そういうものはありますか?
僕はギターです。あと、アンプとかエフェクターとか。PCもそうです。音楽を作れますから。PCを自分で組み立てたりもします。ギターも今、オリジナルのものを作ってもらっているんですよ。(コンコンと机を叩いて)こんな風に木を叩いてみたりして選んだり(笑)。本当はそこまでやることないんですよ。そこまでこだわっても、イコール良いギターというわけではないので。可能性が高くなるだけです。ただ、そういうことをするのが、単純に楽しいんですね。「これ、節があるので別のヤツありますか?」みたいな(笑)。単なる自己満足です。それは分かっているので、自分の気に入った木とパーツで、自分の設計で一から作り上げたものが出来上がって、それで音が出せたら楽しいというだけ。実際にレコーディングをするときはメーカーものを使ってます(笑)。「やっぱり、フェンダーはいいな」なんて(笑)。
一番好きなミュージシャンは?
マリリン・マンソンです。ミュージシャンというよりアーティストとして。以前は音楽としても大好きだったけど、彼の本も好きですし、映画監督もやられているので、僕はぜひ彼の映画に出たいなって思っていて、今年来日するんですけど、何としても会って「映画に出してください」って言おうと思って(笑)。
ご自身の作った音楽も渡したいのでは?
渡したいですね~。ただ、普通に僕、仲良くなる自信がある(笑)。彼はとにかく、アーティストとしてスペシャリストだと思いますよ。彼の描く絵も好きですし。あの人の芸術家肌のところが、男としてすごくカッコいいなと思うんですよね。音楽で第一線にいても、絵を描いてみたり、ベルリンで空間デザインをやったり、映画を撮ったり。そして、何をやっても高いレベルに行くので、そういうところは本当にカッコいいですね。
ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーにも近いですね。
そうですね。もともとはトレントがマリリン・マンソンをスカウトしたわけですから、完全に影響は受けてますよね。彼らってみんな、“真剣に遊ぶ”人たちだと思います。ファンをいい意味でだますというか、自分たちの術中にハメて、そこから逃がさないようにしてくれるというか。僕はすごくマンソンの作る世界観にのめり込んだ時期もあって、スペシャリストの大先輩として尊敬しています。アメリカのアーティストはやっぱりイッてるな、と思います。日本ではなかなか許されないですからね。僕は何と言われようが、あの人を見習って生きていきたいと思うんですよ。そういう話をすると「良くない」と言う方もいるんですけど、僕は尊敬して間違いのない人だと確信しています。
どんな方々にこの映画を観ていただきたいですか?
僕、車に興味がなくても面白かったので、車映画も車も興味ないなという方々にも観ていただけたらうれしいです。結構観られると思いますよ。
この作品を通じて、何を伝えたいですか?
特にないです(笑)。ひたすら楽しんでいただきたいですし、こういう日本映画もあります、ということを伝えたいですね。“こんな映画も日本にあるんだ”と思われたらいいです。
最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。
内田朝陽です。8月25日から始まります映画『スピードマスター』、ぜひ観に行っていただけたらうれしいです。よろしくお願いいたします。
端正なルックスにスタイル抜群、手足が長い! とにかくカッコ良かった内田朝陽さん。お話を伺ってあらためて、とても真剣にこだわりをもって演技に取り組まれていることが分かり、また、マリリン・マンソンに対する見方にも個人的には全く同感するものがあって、そのお話を伺っただけでも、アーティストとしての立ち位置が理解でき、これから年齢を重ねてどんな役者さんになっていくのだろうと、本当に楽しみな方だと思った。
こんな内田さんが思いっきりキレた演技を見せている『スピードマスター』のド迫力、ぜひ劇場で体感してほしい。
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
公開表記
配給:ショウゲート
2007年8月25日(土) 池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー