ある日、ある時、ダブリンの街角で、穴の空いたギターを奏でながら歌うストリート・ミュージシャンと若いチェコ移民の女性が出会い、心を通わせた二人からメロディーが生まれていく――。音楽によって結ばれた男女のほのかな愛と友情の物語『once ダブリンの街角で』の公開を前に、アイルランドで人気を誇るバンド、ザ・フレイムスのフロントマンであるグレン・ハンサードと、彼のソロ・アルバムでもコラボレーションしているチェコのミュージシャン、マルケタ・イルグロヴァという主演の二人が来日、10月25日(水)、都内の屋外アリーナでプレミアライブを行った。
グレンは映画にも登場したボディに穴の空いたギターを抱え登壇、マルケタがピアノに向かうとすぐにライブが始まった。映画の中では二人が楽器店で初めて即興的に協演をする印象深い曲「Falling Slowly」、スタジオ録音のシーンで使われる「When Your Mind’s Made Up」は映画同様にグレンが熱唱、マルケタ演じる女性の曲として映画に登場する「If You Want Me」は、マルケタがグレンのギターを抱えて切々と歌いあげた。
ライブを終え、大きな歓声を受けて満足げな表情の二人は、初来日の印象を聞かれ、まだ19歳の初々しいマルケタは「おととい着いたばかりで、朝起きるとどこにいるのか分からなくて、窓から高層ビルを見て“あ、ここは東京なんだ”と思うの。なんだか夢の中にいるみたい。日本は私の家からすごく遠い所にあるから。とても素晴らしい経験をしてるわ」と答え、グレンの第一声は「食べ物がおいしい!」。「ダブリンとはまるで違う風景だよ。日本は庭があったり小さな木造りの家が並んでいると想像していたら、東京はコンクリートの建物ばかりで、伝統的な日本のイメージとは違っていたね。でも、日本にはずっと憧れていたから来られて本当にうれしいよ」とニッコリ。
この映画に出演した感想を聞かれたマルケタは、「演技をするのは初めてだったけど、演じたキャラクターが自分と近かったことは助けになったわ。良い経験をさせていただいたけど、演技はもうやりたくないかな……」と照れたように微笑む。今回の物語には実体験が含まれているというグレン。「僕は13歳から18歳までストリート・ミュージシャンをやっていて、お金を盗まれることもよくあったし、ストリート・ミュージシャンを集めてバンドを組んだのも、銀行にお金を借りに行ったのも僕自身の体験なんだ。ただ、キャラクターはちょっと僕とは違うけどね」。
今回のライブでもグレンが使用した穴の空いたギターには、誰もが興味を引かれることだろう。「これは日本のメーカー“Takamine”のギターで、長年使っているんだ。昨日ギターケースを開けたとき、“ようやく母国に帰ってきたんだね”と思ったよ。18年間も使っているから穴も空いてしまったけど、監督のジョン・カーニーに“映画に出てくれ”と言われたとき、自分が演奏し慣れている楽器を使いたかったので、このギターにしたんだ」と語ったグレンに、MCがスペシャルゲストがいることを告げた。
そこで登場したのが、(株)高峰楽器製作所の片山一朗代表取締役で、手には新しいギターケースが。自社のギターを、穴が空いてしまうほど愛用していることを知って感銘を受けた片山氏が、新品のタカミネ・エレクトリック・アコースティック・ギターをグレンにプレゼント。「“Takamine”のギターはスピーカーを通したら、他とは比べものにならないくらい音が良いんだ」と言い、それ以上は言葉にならないほど感激した様子のグレン。そんな彼を微笑ましそうに見つめる片山氏は、「私どものギターを長年使用してくださり、しかも美しい映画、美しい音楽によって、同社のギターを世界に紹介してくださって、私こそ感謝を申し上げます。今度はこの新しいギターを使って美しい音楽を作ってください」と流暢な英語で語りかけた。その言葉に対して、「古いほうも使い続けますよ」とグレン。フォト・セッションでは、マルケタが古いギター、グレンが新しいギターを手に、片山氏とともに満面の笑みを浮かべて写真に納まった。
登壇者:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
公開表記
配給:ショウゲート
2007年11月3日(土・祝)、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー