男女双方の気持ちが分かるよう上手に描いている作品なので、家族皆で映画館に観に来ていただきたいと思います
1年前に大阪で公開されロングラン上映となった『かぞくのひけつ』が、いよいよ東京で公開される。『かぞくのひけつ』は、井筒和幸、根岸吉太郎、森崎 東らのもとで助監督を務めた小林聖太郎監督のデビュー作。大阪出身の小林が一般的な大阪人を描こうとメガホンを取っただけあり、大阪ならではの緩くて笑えて温かい魅力が溢れた作品だ。周囲の女性たちに翻弄される主人公の高校生・賢治の恋人・典子を演じたのが大阪育ちの谷村美月。続々と出演作が公開されている日本映画界期待の星が、大阪の魅力でいっぱいの本作について語ってくれた。
今回演じられた典子は、大阪のおばちゃんの予備軍のような元気で強い女の子ですが、典子と自分自身と比べて似ているところと似ていないところは?
同い年の男の子に対しては典子のようにはっきり話せませんが、家では多少きついぐらいハキハキしゃべるので、そういうところは典子と似ているかもしれませんね。
典子のように、好きな男の子をラブホテルに引っ張っていくようなところは?
それはないです。そこまで積極的ではないです(笑)。
相手役の久野雅弘さんの板に付いた“へたれぶり”はなかなか見事でしたが、実際にはどんな男の子でしたか?
そのままです(笑)。だいぶ前に久野さんが出演されている『ごめん』(2002・富樫 森監督)を見たことがあるので、この作品でご一緒する前から知っていたのですが、まさかそのままだとは思わなかったですね(笑)。スタッフの皆さんが心配されるぐらい、そのままでした。
撮影中のエピソードで、特に記憶に残っていることはありますか?
最初の頃、控え室で久野君と私の2人だけで待っていた時に、長い沈黙があったことです(笑)。ずっと沈黙の中で、二人でぼっ~としていました。このことを一番良く覚えています。撮影も後半になると久野君もすごく話しかけてくれたので、私も普通に話せるようになりましたが、ちょっと普通の男の子は違う雰囲気を持った方なので(笑)、どう接しようか最初は戸惑いました。
映画の中で、谷村さんが久野さんを含め3人の男の子を一度にひっぱたく場面がひとつの見どころでしたが、あのシーンの撮影は1回でOKが出ましたか?
1回ではなかったですね。数え切れないほどやりました。
実際にひっぱたいたのですか?
はい。監督さんも「本当にひっぱたいて良いよ、手加減しなくて良いから」とおっしゃったのでやらせていただきましたが、終わる頃には久野君かもうひとりの男の子か覚えていませんが、どちらかの頬がすごく赤くなっていました。氷でずっと押さえていたので、何か悪いことしたなと思いながら見守っていました。
この映画のテーマのひとつは男の子から見た女性の不可解さですが、谷村さんから男性を見て感じる可解さはありますか?
全てが理解できないですね(笑)。何を考えているのか分からないです。弟やお父さんを見ていると、いつも思います。お母さんとはけっこう息が合うので、弟やお父さんを見ると、本当に“何を考えているのだろう?”と思います。
共演者の皆さんが皆大阪出身で、舞台も十三ということもあり、大阪のテイストがいっぱいの作品ですが、谷村さんから見た大阪や関西の魅力はどのあたりにあると思いますか?
温かい人ばかりということでしょうか。私も、関西在住だからといってそれほど関西を知っているわけではないですが、大阪では、知らない人に話しかけても皆が知り合いだという気持ちになれます。どこか出会ったことがあるようで、みんな積極的ですし、話しやすい人がいっぱいいます。他人とは思えないような親近感がわく人ばかりですね。
この作品はだいぶ前に撮影されましたが、その後、多くの映画に出演されています。今年だけでも『檸檬の頃』『魍魎の匣』『茶々―天涯の貴妃―』と出演映画の公開が目白押しで、“谷村美月=映画女優”という印象が強いですが、ご自身にとって映画に出演することの魅力は何ですか?
一つひとつの作品は、出演すること自体に重みを感じるほど重要だと思います。複数の作品に関わりながらいろいろな現場に行くと、その現場によって雰囲気が違いますし、その雰囲気の中に入らないと知ることができないことがたくさんあると思います。映画の現場では、本当に映画が好きな人の集まりなのだなと感じることが多いですね。それぐらい誇りを持ってやっている人が多い中に私も加わることができるのはすごく素敵なことなので、これからも映画には常に関わっていきたいと思います。
最後に、この映画をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
男の人はとても共感できると思いますが、すごく熱い映画だと思います。皆が言いたい放題で、ばたばたした日常をそのまま描いているのですが、こういうばたばたした家族は素敵だと、最近すごく思うようになりました。私は女性なのでどうしても女の目線で見てしまうのですが、主演の男の子を私の家に置き換えると、弟がこういう気持ちなのかなと思ってしまうぐらいです。男の人の気持ちも分かるし、女の人の気持ちも分かる、上手に男女双方の気持ちが分かるように描いている作品なので、家族皆で映画館に観に来ていただきたいと思います。
(取材・文・写真:Kei Hirai)
公開表記
配給:スローラーナー
2007年12月22日よりユーロスペースにて公開