高き志と誇り、純粋な理念を胸に自由を謳歌し、互いに切磋琢磨しながら人格を高め絆を深めてきた旧制高校の学友たち。そんな理想に燃える若く純粋な青年たちの青春が、戦火の中で無残にも潰える。戦争によって永遠の決別を強いられた、旧制高校で学んだ学友たちの在りし日と現在の姿が描かれた、熱き血潮の青春群像ドラマ『北辰斜にさすところ』。
本作の完成披露試写会が12月3日(月)、都内ホールで行われ、主演の三國連太郎とバンカラな旧制高校生を演じた緒形直人、本作の製作に情熱を傾けた製作の廣田 稔が、上映前の舞台挨拶に駆けつけた。
「今日は大阪からまいりました。61歳を迎えた、まだ若憎です」と挨拶した廣田はまず、「神山監督や(原作者の)室積 光さんとご縁を頂き、今日本が抱える問題を考えると、ぜひとも旧制高校の映像を残しておきたいと思いました」と製作の経緯を語る。「神山監督とはもう3作目になりますが、前作『草の乱』の打ち上げの席でお話を頂きまして、“次は学生役だから、早く撮りたい”と言われつつ、2年くらい待ちました。今よりず~っと若々しく映っていますので、楽しみにしてください」と笑いを誘う緒形。そして、「私が一番年上で、84歳でございます」と語り出して大きな拍手を受けた三國は「いろいろ頑張ってやりましたので、この映画はきっと皆さんに満足していただけると思います。日本の映画界に寄与できる作品だと信じております」と、謙虚な語り口ながら大きな自信をにじませた。
自身も中国への出征経験がある三國。「当時、僕の学校にも配属将校がやってきて訓練をしたわけですが、そうしたことに疑問を抱いた僕は中学1年で学校を辞め、放浪をしました。今はまた、当時と似た空気が生まれるつつある気がして恐怖を感じています。何が何でもそうした戦前の状態を再現させないように、自覚をもって力を合わせましょう。そうすれば、きっと孫の世代でも日本は良い国として存続しているのではないかと思います。過去の体験をもう二度と繰り返さないように、皆さんにも頑張っていただきたいです」と、時勢への懸念と共に平和を守ることへの確固たる想いを口にした。
撮影中のエピソードを聞かれた緒形は、「僕は学生役で高下駄を履いていたんですが、それで霧島登山をさせられたときにはさすがにビックリしました(笑)。上のほうまで登って撮影しましたが、高下駄で登った人はなかなかいないだろうと思いますね。何とかやり遂げましたが、帰りはもうフラフラでした」と秘話を披露。彼に高下駄登山をさせた神山監督については、「ひとことで言うと、お酒が好きな監督です(笑)。今回は熊焼酎が周りにいっぱいありましたので、ひたすら飲んでいました。ただ、映画に対する情熱はすごく熱く、“スタート!”“カット!”のかけ声の力強さが大好きでしたね」と語り、それに賛同する三國は「僕がこれまでに聞いたことのない声の張りでした。その勢いは今作に表れていると思います。神山さんは新藤兼人監督のお弟子さんですが、新藤さんに負けないような映画を今後も作っていかれるといいなと期待しております」と監督にエールを送る。
弁護士業の傍ら、製作委員会の発起人となり、製作の実現に尽力した廣田は、完成した映画の感想を聞かれ、「私は映画というものを全く知りませんでしたが、映画に関わる皆さんが全身全霊を傾けて努力されている姿に心から感動しました。その皆さんの熱い想いを、映画の行間で感じていただけましたらうれしいです。そして、観客の皆さんも感動を味わうと共に、その感動を家族と分かち合い、生きることへの感謝という言葉につなげていただけることを願っています。そのメッセージを伝えるには十分なものが出来上がったと自負しております」と映画に懸ける並々ならぬ想いを伝えた。
最後に、今回の映画のキャッチである「伝えたい志がある。残したい想いがある。」という言葉に懸け、それぞれの志や想いを問われた三者。「皆さん方が映画をご覧になって、本当に伝えたいものを創造し、ご自身のお子さんやお孫さんたちに伝えていただきたいです。私たちは映画のテーマをわざと抽象的な文言で表現し、中身は書いていません。中身は皆さんの中にあります。良いことは自信をもって声にし、後世に伝えていただきたいというのが、製作委員会の伝えたい志と想いです」(廣田)、「男の心意気を伝えたいです。また、激戦の地で戦いながらも、男たちには自分を待っている人たちへの想いがありました。彼らのそんな心の叫びを、男性はもちろん、女性に感じて帰っていただきたいなと思います」(緒形)、「僭越ながら、若干の志を抱きつつ、これまでたくさんの映画に出させていただきました。戦後、佐世保に上陸して鉄道で実家に帰るとき、小高い丘の上にある広島の駅から見た、あの真っ赤に焼け爛れた町の光景が目に焼きついています。あの風景を決して再現させないためにも、ぜひ皆さんにお力を貸していただきたいです」(三國)と、深い想いをこめながら口々に語り、舞台を後にした。
登壇者:三國連太郎、緒形直人、廣田 稔(製作)
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
公開表記
配給:東京テアトル
2007年12月22日よりシネマスクエアとうきゅう他、全国順次公開
(オフィシャル素材提供)