日本の文化についても理解がより深まったので、日本で生活をしながら日本の皆さんと一緒に作品を作っていきたいと思っています
台湾映画の今を感じさせるラインナップが実現した「台湾シネマ・コレクション2008」が、今夏行われる。その中の1作品『DNAがアイ・ラブ・ユー』は、『靴に恋する人魚』(05)でデビューした女性監督ロビン・リーの第2作。主役のひとりを演じた日本でも人気のピーター・ホーに、本作の魅力と台湾映画の現状を聞いた。
ピーター・ホー
1975年9月13日カリフォルニア生まれ。幼少時に台湾に移住。98年に歌手デビューし、映画・ドラマ・CMなどで幅広く活躍。日本でも『T.R.Y.』(2002)、『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』(03)、『着信あり2』(05)などに出演し、馴染みが深い。08年に放送予定のドラマ『上海タイフーン』(NHK)に出演している。
本作のロビン・リー監督の前作でありデビュー作でもある『靴に恋する人魚』は非常に個性的な作風でしたが、ご覧になりましたか?
残念ながらまだ見ていませんが、今回の『DNAがアイ・ラブ・ユー』の撮影を通じて、ロビン・リー監督がいかにクリエイティブで素晴らしい監督であるか、よく分かりました。
実際に、ロビン・リー監督はどんな方でしたか?
ロビン・リー監督は僕と同年代ですが、シンプルで明るくエネルギッシュで、精神的にとても若い方です。
どちらかといえば女性2人が中心のストーリーですが、監督からの演技指導で特に注意して欲しいと言われたことはありますか?
特に注意をしたのは、自分が演じたアリクイという人物の二面性をどのように演じ分けるかということです。ひとつは、まるでアイドルのように理想的な王子様像をしっかりと演じていく。もう一方ではそういった王子様キャラを脱ぎ捨て、とても不潔で自分の体や脱ぎ捨てた靴下の臭いをかぐ、寝る時にはいびきもかく。そういう男の二面性をどのように演じ分けるかということでした。
共演者の皆さんとは、撮影の時以外でも親しくされていましたか?
共演した3人の中で、特に親しいのはエディ・ポンです。彼とはとても仲が良く、いつも一緒にスポーツをやったり食事をしたり、まるで兄弟のような関係です。テリー・クワンとは知り合って15年ぐらいになります。彼女は同じ高校の後輩で、学生時代には一緒にコーラのCMに出ました。ユー・ナンとは元々よく知りませんでしたし、一緒のシーンがないので親しくなる機会がありませんでした。
今回演じられたアリクイの役ですが、共感したところ、違和感を持ったところはどこでしょうか?
アリクイはいろいろな事業で成功していますが、その一方で、子供のような心も忘れずに持っています。そういった点は、僕に似ていると思います。違う点ですが、僕は彼のように不潔ではありません。あれほど不潔な男は、めったにいないのではないでしょうか(笑)?
では、どちらかというとご自身は潔癖性に近いのでしょうか?
僕は乙女座の生まれで、乙女座の人は潔癖性だとよく言われますが、それほど潔癖性ではありません。どちらかというと、精神面での潔癖さを求めています。
多くの作品に出演されていますが、演じやすいのは、そしてこれからやってみたいのは、どんな役ですか?
演じやすかった人物は、実際の自分に近いキャラクターです。演技で自分自身を変える必要がありませんから。今後、ぜひやってみたいのは日本の武士や忍者です。日本の時代劇に出演してみたいですね。
多くの日本の作品に出演されていますが、その理由は? 今後も日本での活動を増やしていくつもりですか?
日本のマネージメントオフィスが、今後の日本での活動についていろいろな計画を考えているので、日本との合作や日本映画への出演は増えていくはずです。また、現在制作中のNHKのドラマ『上海タイフーン』は、より多くの日本の皆さんに僕を知っていただく良い機会だと思います。
日本では多くの韓国・香港・中国映画が上映されていますが、今まで公開された台湾映画は少なく、印象深い作品も多くないと思います。今回の「台湾シネマ・コレクション2008」の上映では、台湾映画の今を感じさせる魅力的な作品が揃っていますが、この映画祭についてどのように思いますか?
これまでの台湾映画はアート系の作品が中心でした。台湾の観客向けに作られた、社会の暗い部分を描いたり、風刺的な作品が多かったわけです。でも、『DNAがアイ・ラブ・ユー』は商業的な側面もかなり考慮されていて、愛に興味がある人なら誰でも楽しめる、非常に判りやすいラブ・ストーリーになっています。こういう作品が出てくることは、とても素晴らしいと思います。
ひとくくりでは語れないでしょうが、最近の台湾映画ならではの魅力があるとしたら、それは何でしょうか?
現代の台湾の人たちに、より近づいた作風だと思います。とてもお洒落で現代感覚が盛り込まれているのが最近の台湾映画の特徴で、映画館まで行って観たくなるような映画です。これまでの台湾映画は、彩り的にもグレーのような暗い感じが多かったのですが、『DNAがアイ・ラブ・ユー』をご覧になると判るとおり、とてもカラフルでお洒落です。ネオンがきらめいていたり、リラックス出来る雰囲気もあります。今の台湾映画にはいろいろな色があります。
ご自身も、台湾にいる時にはよく台湾映画をご覧になりますか?
忙しくてそのような機会はほとんどありません。つい先日まで中国大陸で仕事をしていましたし、最近では映画館まで行き映画を観ることはできなくなりました。
今後は、アジアのどのような場所でどんな仕事をやってきたいですか?
日本でお仕事をさせていただく機会が増えれば良いなと思っています。日本人の皆さんとは、とても楽しく気分よく仕事ができましたし、多くのことを学ぶことができました。日本の文化についても理解がより深まったので、日本で生活をしながら日本の皆さんと一緒に作品を作っていきたいと思っています。
台湾での撮影と日本での撮影、どこが最も違いますか?
日本人の皆さんの仕事は、スケジュールどおりまじめに進めていく撮り方ですが、台湾の撮影スタイルはかなりラフで、現場の雰囲気に合わせてアドリブ的な要素も追加していきます。
ピーターさんには、どちらが向いていますか?
それぞれに良いところと悪いところがあると思いますが、日本での撮影は日本方式が良いと思います。例えば、日本では現場での台詞の変更はほとんど無いですが、これは台詞を覚えないといけない自分の立場からすると非常にやりやすいわけです。
何年か前、日本でも韓流ブームが盛り上がっていた頃にお話を伺った際、「日本のドラマのクオリティは、韓国や台湾のドラマより高い」と言われていました。今回、NHKの『上海タイフーン』で日本のドラマの現場に入られましたが、どのような印象でしたか?
何年か前に僕が言ったことを、より強く肯定したいと思います。やはり、クオリティが高いという印象でした。台湾や中国大陸のドラマ作りと日本のドラマ作りを比較すると、台湾のドラマ作りではとにかく時間に追われています。時間=お金ですから、とにかく早く撮ることが最優先されます。日本でも時間内に撮ることは重要ですが、それ以上にクオリティを重視していると感じました。そのために、現場では充分にリハーサルが行われていました。リハーサルをしっかりやると、監督の演出やカメラの位置や撮り方が確認できます。また、日本のドラマ作りは、小道具や大道具、その他の細かい部分に至るまで、気配りがすごいと思いました。例えば、台湾のドラマの現場では、この小道具はこの程度で良い、少人数の人にはばれても、大部分の人にはばれないからいい、といったところがありますが、日本では誰にも分からないようにしています。そういった点まで、日本のドラマ作りは考えていると思います。
日本人としては、うれしいような恥ずかしいような気がします。
これは誇りに思って良いと思います。
最近の日本のドラマでお好きな作品はありますか?
時間がなく、最近は見ていないです。
『上海タイフーン』で共演された木村多江さんはどんな方でしたか?
木村さんは爽やかで優しい素敵な女優さんで、お気遣いがいろいろな面にまで行き届いている方です。例えば、ロケ現場に珈琲を売りに来た軽自動車の移動式店舗を1日貸し切りにして、キャストやスタッフの皆さんに飲み物を提供してくれました。そのように気配りが行き届いた方です。
『上海タイフーン』で共演された俳優さんで、印象に残っている人はいますか?
松下由樹さんは演技がとても上手でした。相手役によって演技は大きく影響されますが、松下さんとの演技はとても上手くいきました。
今後の活動予定は?
まず、来年の2月か3月にアルバムを出す予定で、現在レコーディングの準備をしています。もうひとつは連続ドラマで、これには僕自身も若干投資をする予定です。こちらも準備段階です。
お忙しいとは思いますが、休みの日には何をやっていますか? 以前、『T.R.Y.』の撮影中に写真を撮るのが好きだというお話を伺いパソコンに取り込んだ画像を見せていただきましたが、今でも撮っていますか?
最近では写真をあまり撮らず、主に画を描いています。でも、去年アルバムを出した時には、ジャケットとブックレットに自分で撮った写真を使いました。今後は、写真撮影が僕の副業になる可能性があります。
一番お好きな監督と作品は?
『インディ・ジョーンズ』シリーズとスティーブン・スピルバーグ監督です。でも、今までの『インディ・ジョーンズ』シリーズは大好きでしたが、今回の新作にはちょっと失望しました。たぶん期待しすぎたのだと思いますが、以前の作品と比較すると質が落ちましたね。
最後に、この記事を読まれている皆さんにメッセージをお願いします。
今回の「台湾シネマ・コレクション2008」では、本当に台湾のいろいろな作品が上映されます。その中で僕が主演している『DNAがアイ・ラブ・ユー』は、ラブ・コメディですが、今までにないような新しい映画です。ぜひご覧になって下さい。さらにもう1本をご紹介すると、僕の親友エディ・ポンが出演している『ウエスト・ゲートNo.6』も、ぜひご覧下さい。
台湾若手俳優陣の兄貴分でもあるピーターにとって、自分の出演作のみならず、台湾映画界の活性化についても関心が深い様子。アジア各地での活動も順調なだけに、日本映画界での今後の活躍も期待できそうだ。
(取材・文・写真:Kei Hirai)
公開表記
問い合わせ:エスピーオー
2008年8月23日(土)~9月26日(金)、シネマート六本木他全国順次開催