登場人物がちゃんとリアルに存在して、生きている人間のように見える映画が好きなんです
実話怪談集「新耳袋」の原作のファンで、「怖いものが大好き」という篠崎 誠監督会って、映画について話を聞くことができた。
篠崎 誠監督
1963年生まれ。立教大学・心理学科卒。96年公開の『おかえり』で商業映画監督デビュー。ベルリン国際映画祭最優秀新人監督賞はじめ、海外で11の映画賞を受賞。一昨年より、自らの企画で、ショート・ムービーオムニバス『刑事まつり』を始動。その他の主な監督作として北野武監督を追ったドキュメンタリー『ジャム・セッション 菊次郎の夏<公式海賊版>』、『忘れられぬ人々』、『犬と歩けば チロリとタムラ』、『天国のスープ』、『殺しのはらわた』、『0093女王陛下の草刈正雄』など。新作は『東京島』(8月28日全国公開)。著作「恐怖の映画史」(青土社2004年黒沢 清との共著)がある。
ずっと「新耳袋」の監督をされたいと思われていたそうですが、念願がかなった感想から教えていただけますか?
原作も全部読んでいて、TVシリーズが始まってからは知り合いの監督が何人も撮っているので、僕も撮らせて欲しいと言っていたんですが、なかなか誘っていただけなくて(笑)。今回、TV版とあわせて監督させてもらうことになりました。撮影は、とても楽しかったですね(笑)。
脚本家・三宅隆太さんはシックス・センスの持ち主だと伺いましたが、実際にお会いしてどんなお話をされたのでしょう?
「ツキモノ」は三宅くん自身の体験が生かされているんです。街中でしゃがんでいる人がいて、具合が悪そうだったので声を掛けたら、その人が人間じゃなかったと言っていましたね。どうも子供の頃は、人間と人間じゃないものの区別が出来なかったそうです。それは家までついて来たそうです。だから中途半端な気持ちで声を掛けてはいけないと言ってました。
ヒロインを演じた真野恵里菜さんについてお話していただけますか?
脚本が出来る前からヒロインは彼女に決まっていました。怖い映画は観るのも苦手と言ってましたが(笑)、根性があって、勘のいい女優さんです。うわべだけ形で演じるのではなく、ちゃんと相手の反応に合わせて気持ちで動く。自分からアイデアも出してくれましたしね。彼女が身近な人とうまくコミュニケーションが取れないというときの些細な表情を大切に撮りたいと思いました。
2編の見どころを教えていただけますか?
「ツキモノ」は大学が舞台になっていて、アクション(動き)もあって、アメリカ映画のようなびっくり箱をひっくり返したような面白さがあります。
「ノゾミ」はしっとりしたかつての日本の怪談映画のような味を狙いました。
話につながりはありませんが、2本に通じるのは、真野さん演じるヒロインがずっと孤独を感じているんですね。そんな時、心のすきまに何かが忍び込んできて怪しいことが起きるということです……。
監督ならではの恐怖映画へのこだわりはありますか?
チャンスがあれば今後もホラー映画は撮って行きたいですね。自分の中にまだたくさんのネタがあります。言えないですけどね(笑)。それと、心から笑える映画やバカらしい映画も好きなので、撮りたいですね。最近観た映画では『ローラーガールズ・ダイアリー』が良かったですね。いい映画でした。僕は、登場人物がちゃんとリアルに存在して、生きている人間のように見える映画が好きなんです。
怖い映画で監督がお勧めのものはありますか?
外国作品では、ロバート・ワイズ.監督の『たたり』やトナルド・サザーランドが出演している『赤い影』などが好きな作品です。日本映画では鶴屋南北原作の『東海道四谷怪談』です。戦前から数え切れないほど映画化されているんですが、どの作品も面白い。特にお勧めなのは天地茂さんが主演した、中川信夫監督の『東海道四谷怪談』と若山富三郎さんが主演した、加藤 泰監督の『怪談 お岩の亡霊』です。どちらも映画ならではの面白さと怖さ、美しさに溢れてます。
美しくて怖いといえば、もう1本。赤座美代子さん主演の、山本薩夫監督の『牡丹灯籠』も傑作です。残念ながらDVDにはなっていないんですが。
今まで身近で起きたことで一番怖かったことってどんなことでしょうか?
脚本の三宅君と違って、あまり怖い経験はないですね(笑)。でも、「ツキモノ」の撮影中に、誰も触ってないのに照明が消えたことがありました。電球が切れたわけも、ブレイカ―が落ちたわけでもない。同じようにこの映画の最終仕上げをしている時に、スタジオでやっぱり、それこそみんなの見ている前で、部屋の灯りがスーッと落ちていきました。あとで考えたら、「ツキモノ」で、悪霊にとりつかれた女性が現れる予兆として、照明がおかしくなるって設定にしてたんですよね。単なる偶然だとは思いますけど、さすがに二度もあるとね(笑)。
どんな撮影現場でしたか? 『新耳袋』には禁じ手があると伺いましたが?
撮影現場ってかなりの肉体労働で、いつも時間に追われています。だから怖がってる余裕がない(笑)。みんな笑いながら撮っていましたよ。禁じ手については、観ていて不快になるほど、残虐なシーンや血しぶきはなしということです。
最後にメッセージをお願いします。
敷居の高い映画ではありません。ホラーマニアの方というよりもむしろ、ホラーがニガテとか喰わず嫌いの方に観てもらいたいですね。余計なおしゃべりをしすぎたかも知れません。是非気軽な気持ちで観ていただいて、思う存分映画館で悲鳴をあげていただけると嬉しいです。
お会いした監督は、怖い映画を撮った人とは思えない柔和な表情をした優しい方。楽しそうにお話してくださいました。立教大学の映像身体学科で教鞭をとっているという監督。大学構内での撮影には学生たちがこぞってエキストラとして参加。監督は、きっと人気の教授なんでしょうね。
映画初出演で、初主演を果たした人気アイドルの真野恵里菜。2編に主演、異なる2役を熱演している。彼女が歌う主題歌にも注目したい。
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:キングレコード株式会社
2010年9月4日(土)より、シアターN渋谷 他で全国順次公開