女性初のアカデミー賞®監督賞に輝いた『ハート・ロッカー』、作品賞を始め5部門にノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティ』など、新作を発表する度に大センセーションを巻き起こしてきたキャスリン・ビグロー監督。全世界が注目する時代を牽引する監督の最新作は、1967年7月23日、アメリカ史上最大級の<デトロイト暴動>の渦中に起こった衝撃の実話「アルジェ・モーテル事件」を描き出す『デトロイト』。この度、監督が本作について語ったインタビューが到着した。
キャスリン・ビグロー監督
1983年の『ラブレス』で長編映画監督としてデビューしたビグローは、『ニア・ダーク/月夜の出来事』(87)で吸血鬼を描いた後、『ブルースチール』(90)、『ハートブルー』(91)、『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(95)と、スマッシュヒット・アクションを放った。
2002年には、ハリソン・フォード、リーアム・ニーソンを迎え、ロシアの原子力潜水艦を舞台にした実話『K-19』に挑んだ。
そして、約1500万ドルという低予算で『ハート・ロッカー』(08)を撮り上げ、アカデミー賞®で作品賞を始め6冠に輝いた。更にオスカー5部門ノミネートの『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)も大センセーションを巻き起こした。
名脚本家マーク・ボールの脚本を、骨太で豪快なアクションと魂をえぐる鮮烈描写で映像化、世界の観客を圧倒してきた。
また、キアヌ・リーブス、ジェレミー・レナー、ジェシカ・チャスティンのブレイクポイントとなる作品を演出した実績から、俳優の新生面を引き出す手腕が高く評価されている。
実話に挑み、実在の人物も何人か登場しますが、ご留意されたのはどんなことでしたか?
今回のように、現実のストーリーを語る場合には、語り手として歴史とそれに関わった人々、生存者にも亡くなった人たちにも、自ら責任を持つ心構えが必要です。
実際にアルジェ・モーテルの事件の被害者となった3人(メルヴィン・ディスミュークス、ラリー・リード、ジュリー・アン・ハイセル)はコンサルタントとして制作に参加していますね?
この映画の製作準備の中で最も貴重な体験は、不幸な事件を経験しながらも生き抜いてきた人々との時間を過ごせたことです。彼らのおかげで、事件当夜の状況を細部に至るまで解明することができました。50年経った今も、彼らの多くは事件の話になると動揺を隠せないことは明らかでした。それは当然のことです。
今回も徹底してリアルな臨場感を追求されたと伺っています。オーディションから即興的な演技を求められたとのことですが?
キャスティング用のシナリオは脚本を模したもので、状況に応じて臨機応変に対応しなければならない部分を残してありました。俳優たちの機敏な対応や想像力の高さを確認するためです。また、流動的な状況でどれだけ彼らがリラックスして演じているかを評価することができました。この方法で、私はキャストを選定したのです。今回出演が決定した俳優は皆、例外なく深みのある演技力を備え、豊かで複雑な感情を、スクリーンを通して伝えることができる人たちでした。
凶悪な警官を演じたウィル・ポールターは泣きながら演技を続けたと聞いていますが……。
キャストたちが、演じる時に抱く感情には気に掛けていました。特にウィルにとっては、役柄としても精神的につらいものだったはずです。
事実とフィクションのバランスを取るに当たって、難しかった点は?
事実にフィクションを加える場合、批判の的になることは避けられません。『ハート・ロッカー』の場合はイラク、『ゼロ・ダーク・サーティ』の場合はオサマ・ビンラディンの捜索が実際に起こったことではあるものの、私の映画はフィクションであり、ドキュメンタリーではないと分かります。『デトロイト』について言えば、1967年7月について30時間のミニシリーズという形で作ることも可能なはずです。映画にするということは、事実を凝縮し物語を作り上げることが必要になります。しっかりとリサーチをして事実を知り、その中から正確な判断によって物語を作り上げていくことが必要です。この事件の場合、たくさんの記録が残っていました。だから事実を埋めるための大きな工作、でっちあげをする必要はなかったのです。
3作品連続で政治的な作品が続きましたが、またアクション映画を撮りたいとお考えですか?
この分野で仕事をする機会をもらった自分は幸運だったと思います。ただアクション映画のジャンルについていえば、もっと内容の濃いアクション映画が出てきてほしいですね。現在の私にとって、映画で社会的な話題性のあるテーマについて取り組むことに切実さを感じます。大切なことだと思います。映画のような媒体をとおして大きな観客に触れることができるのは、少なくともその機会をもらえるのは、映画監督として嬉しいことです。映画が成功するかしないかに関わらず、そのテーマの話題性を広げるという点で有意義なことだし、責任のあることだと思いますから。
ジャーナリストにしても同様です。ある種の責任が自分の仕事にかかってくる。事実を確認する必要もあるし、書いていることがどれほど信頼性があるのかを確認することも必要。また、そこに自分の角度というものを加える点も大切だと思います。
映画『デトロイト』の可能性をどのようにお考えですか?
芸術(映画)の目的が変化を求めて闘うことなら、そして人々がこの国(米国)の人種問題に声を上げる用意があるなら、私たちは映画を作る者として、喜んでそれに応えていきます。この映画が、少しでも人種に関する対話を促すための役に立つこと、そしてこの国で長きにわたって根強く残っている傷を癒すことができることを願ってやみません。
公開表記
配給:ロングライド
2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
(オフィシャル素材提供)