インタビュー映画祭・特別上映

『斬、』第75回ヴェネチア国際映画祭 囲み取材

© SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

 国際的に名を馳せる塚本晋也監督待望の新作『斬、』。若手俳優の中でも実力・個性共に抜きん出た池松壮亮、蒼井 優をW主演に迎え、監督が初の時代劇に挑んだ本作がいよいよ、11月24日(土)より全国公開となる。第75回ヴェネチア国際映画祭にて公式上映後に行われた、日本プレス向け囲み取材のフル・リポートをお届けしよう。

監督、ヴェネチアには「戻ってきた」という感覚だと思います。海外メディアの取材を受けて、作品に対する手応えや、日本人とは異なったリアクションなどがありましたか?

塚本晋也監督:映画自体がハッピーエンドなわけではありませんし、分かりやすい、「あぁ、面白かった」と笑えて終わる映画ではないので、どんなリアクションがあるんだろうという興味と心配はありました。日本では予想していたような反応で、皆さん『野火』のときと同じように茫然として言葉を失ったりしていたので、「やっぱりな」という感じでしたが。昨日のプレス向け試写は今日の会場(サラ・グランデ ※最大収容人数1032人)よりさらに多い、1400人も入る会場(サラ・デセルナ)で行われて、これまでもプレス試写をちらっと覗いたことはあったんですが、プレスなのでしめやかな雰囲気かなと思いきや、終わったときのリアクションは一般の観客じゃないかと思うほどのノリで歓声を上げてくださって、この映画の内容でこの騒ぎ方は何なのだろうと最初は首を傾げつつも、段々喜びが湧いてきました。
 今日はまだちょっと、どういう反応だったかつかめていなくて、ふわ~っと熱に浮かされたような感じでいますが、すごくほっとはしています。お客さんと一緒に観るときはいつも、自分が面白く感じたときはお客さんにも届いたという思いがあるんですけど、今日は緊張しつつも面白く観られたので、皆さんにも共感してご覧いただけたのかなという気はしました。

俳優の皆さん、ヴェネチアの印象をお聞かせください。

池松壮亮:僕、ヴェネチア国際映画祭は初めてなんですけど、(本島から)こんなに離れた島だと思ってなくて……(笑)。日本では普通、なかなかお客さんの顔を直に見ることはできないんですが、これだけ多くの人が集まって、映画をものすごく崇高なものとして扱っている場だという印象を受けまして、それは大変光栄なことですし、一生懸命創って、一生懸命観ていただいて、真摯な目で拍手を頂けたというのはとても良い経験になりました。ヴェネチアのような国際映画祭に参加させていただくのは思いがけないご褒美のようなもので、僕自身も映画が大好きなので、今回も楽しんで帰りたいと思います。

蒼井 優:私は『蟲師』(2006年)という大友克洋監督の作品で(第63回)ヴェネチア映画祭に初めて来ましたが、その時は今回よりもさらに弾丸だったので、ものすごい時差ボケ状態で参加してしまって記憶が断片的にしかなくて、今回はちゃんと覚えていられるヴェネチアを経験させていただいています……(笑)。この場にいると、早く映画を撮りたいなという気持ちになりました。実際に今、撮ってるんですけど、また一生懸命映画を創ろうという思いにさせられました。

前田隆成:今回初めて映画に関わらせていただいて、監督のご厚意でヴェネチアまで連れてきていただいて、本当に夢のようです。景色がすごくきれいだな~というのもあるんですけど、それよりも、今日のレッドカーペットで躓かないかとか、皆さんにご迷惑かけないかな……などということがずっとずっと心配でしたし、浮かれすぎちゃダメだなというのはあったんですけど……ホントにすみません……! 初めてプレスの皆さんにこうして囲まれて緊張もしてますし、写真撮影ですとか初めてのことがたくさんで……サインも初めてで、ホントに幸せもんだな~と思っております。ありがとうございます!

塚本晋也監督:サインを草書で書いたっていう(笑)。「楷書で書いたんだろうね?」と聞いたら、「ちょっと崩しました」って言うから、首しめそうになりました(笑)。

前田隆成:レッドカーペットで独りでぽつんといると、「おいで」って呼ばれて、「僕でいいんですか……?」って、サインしに行きました(笑)。

池松壮亮:飛行機のなかで、すごい手が動いてたんですよ。練習してたんだなって(笑)。

前田隆成:ちょっと、練習しました……(笑)。

映像も音も素晴らしい環境での上映でしたが、監督の印象はいかがでしたか?

塚本晋也監督:映像は、昨日のプレス試写も今日もとっても良くて、音も素晴らしく、ダビングでは音響の北田(雅也)さんが音を細かくつけてくれましたが、それがかなり細かいところまで聴こえていたので、とても良い環境で最初の上映が出来て本当によかったです。

上映後、スタンディングオベーションを受けたお気持ちをお聞かせください。

池松壮亮:まだなんか、ふわっとしてますけど、ただただ光栄でしたね。自分が自信のもてる作品でこうしてヴェネチアに連れてきていただき、それを実際に観ていただいたのは、とにかく光栄だったとしか言いようがありません。

蒼井 優:この作品のもっているテーマを考えると、ただ楽しく観るような映画ではありませんから、あの拍手の意味って何なのかなと、今まだぼんやりしています。拍手をしてくださった皆さんがおうちに帰って、お風呂に浸かるとき……あ、ここではお風呂には浸からないのか……(笑)、寝る前とかに『斬、』のことを、(タイトルの)「、」の後のことをご想像してくださったら幸いだなと思います。

塚本晋也監督:ヴェネチアにはこれまで作品を8回ももってきているんですけど、いつも反応は全く想像がつきません。今回は今までの中でも一番想像がつかなかったものですから、もしかしてシーンとしちゃうかも……と思って、「一応、シーンとしちゃう可能性があるので、覚悟しておいてください」と、あらかじめみんなには言っておきました。ああいった内容の映画なので、にこやかに拍手ということはまずないなとは思っていましたが、池松さんがおっしゃっていたように、真剣な表情をこちらに向けて拍手してくださったので、短い撮影期間ではありましたが、重要なテーマやいま現在の不安とか、自分なりにいろいろなものをこの映画の中に入れたつもりですので、そういうものはもしかしたら伝わったのかなという気はしました。逆に、昨日のプレス試写でのプレスとは思えないノリの良い最後、あっちのほうが不可解ですね(笑)。あれ、なんだったんだろう?って感じで。今日のほうが自然に感じたんですけど、昨日のも嬉しかったですぅ(笑)。……なんか、ほとんど前田くん的な雰囲気になってきました(笑)、8回目とは思えない、「初めて!」みたいな。

前田隆成:そもそも映画が終わった後に拍手をするというのは日本で経験したことがなかったので、拍手をもらえたのも初めてのことで(笑)、本当に嬉しかったです。「今ここに立たせてもらっている」ことの幸せをひしひしと感じました。「今、生かされている」と思ったんです……はい、すみません(笑)。ありがとうございます!

今年はヴェネチア国際映画祭75周年ということで、オテル・デ・バンで映画祭の歴史が展示されていますが、その中でも、黒澤監督の『用心棒』をはじめ、いろいろな日本の時代劇も紹介されていました。『用心棒』は男優賞(1961年、三船敏郎)、北野 武監督の『座頭市』も監督賞(2003年)を受賞していて、日本の時代劇に親しみのある映画祭だと思いますが、監督は8回目で初めて時代劇をもってきたということについては、どのような反応を得ましたか?

塚本晋也監督:時代劇を出したということに関しては、映画祭の方々から特に反応はなかったですね。確かに今まで時代劇は創ったことがなかったんですけど、時代劇自体はもともと大好きでした。市川 崑監督の『股旅』(1973年)という映画がありますが、ショーケンさん(萩原健一)をはじめ、70年代の若い人たちがそのまま浪人としてあの時代に行ってしまったようなあの感覚がすごく好きで、自分がもしいつか時代劇を創るとしたら、今の感覚をもっている若い人が、様式美じゃない時代劇に飛び込んじゃったとき、どう感じるんだろうというのをやってみたいと思っていました。そんなとき、池松壮亮さんという、観念的ではなく、とてもリアルで自然な現代の若者像を体現していらっしゃる俳優と出会って、その池松さんが時代を超えて江戸時代に行ったらどうなるんだろうという興味を、俄然掻き立てられたんですね。
 今回時代劇を創ろうと思ったのは、それがまずベースなんですけど、一方で黒澤 明監督がとにかく大好きでして。『七人の侍』はマスターピースすぎて大好きですけど、『用心棒』とか『椿三十郎』も好きで、『椿三十郎』なんて最後の殺陣の真似を友達とやっていたくらい夢中になりました。あと、テレビで70年代に『新・座頭市』(主演:勝新太郎)というカルト的な作品を放映していたんですが、原田美枝子さんとか根津甚八さんとかちょっとクセのある俳優さんたちが毎回ゲストで出演したりして、素晴らしく見ごたえのあるドラマで大ファンだったので、時代劇そのものにはずっと興味があったんです。ただ自分がやるとしたら、時代劇に込めたい僕なりの思いもあり、今回池松さんとやれるということになって、一気に盛り上がったわけです。
 蒼井 優さんは、プロットを書いているときにごく自然に浮かんできました。池松さんも大変な方なのに、蒼井さんも大変な方で、“大変”2名が、僕の映画のようなちっちゃな器の作品で大丈夫かな~と思いながら、恐る恐る……(笑)でも内心は絶対!という気持ちでお伺いしたら、意外に早くをお返事を頂けたので、このお二人がいらっしゃれば、お二人のセッションを見ているだけでこの映画はきっと面白くなると確信してやりました。蒼井さんも時代劇の世界に来たときにはきっと、いわゆる昔こういう人がいたんだろうなというのとは違う、普遍的な女性を演じてくださるだろうと期待もありました。

時代劇に出演されていかがでしたか? 監督はいつも予算がないとおっしゃいますが、それを感じさせないクオリティだったと思います。時代劇は資金がないと創れないものだという思い込みが覆された作品でした。

池松壮亮:塚本監督のスタイルはインディペンデントで、確かにその塚本監督が時代劇をやると聞いたときに、『野火』のときもそうでしたけど、インディペンデントで時代劇に挑むという気概にまず、ぐっと来ますよね。誤解を恐れずに言うと、黒澤監督はじめ、僕もすごく好きな時代劇があるからこそ、もう時代劇はいらないんじゃないかと思っていたんですよ。あれほどの傑作があるのに、何故創り続けるんだろうとずっと思っていて、でも今回は、時代劇である必要性を感じたんですね。時代劇じゃなきゃ、これはダメなんだ、と。時代劇をやるということが目的になってしまうとやっぱり映画として破綻してしまいますし、エンターテインメントとして時代劇というジャンルが成り立つことも分かりますし、それを好む方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、個人的な好みを聞かれると、何かを伝えるために時代劇というツールを使って、こうして公開できたというのは、時代劇をやった意味がすごくあったなと思います。

監督、俳優としても円熟の域に入られている気がしますが、監督からご覧になって、俳優・塚本晋也はどういう存在ですか? 今回は大変なハマり役でしたが、今後も役者は続けられますか?

塚本晋也監督:使いやすい、便利な、何でも言うことを聞いてくれる俳優ですよ(笑)。僕、自分の映画では割とヘンテコな映画に……と自分で言っちゃいけませんけど(笑)、ヘンテコな映画は自分の頭の中にあるイメージなので自分でやったほうがやりやすいようなときがあって、今まで自分自身を使ってきたんですけど、『野火』のような、本当に多くの人々に見せたいような映画のときには、本当は僕なんかじゃなくて、信頼できる著名な俳優さんにお願いしたいという気持ちもあったりします。創りたい映画によって、自然に自分が出なきゃと思うときと全然必要のないときがあって、その時々です。
 ですが今回は、その二つのカテゴリーに属さない映画で、どちらとも言えないですね。お二人に出ていただいた時点で、やっぱり多くの方々に観ていただきたいという気持ちも強いですけど、プロデューサーが「それならオッケー!」と言うような映画ではないことははっきり分かりながら創っていますし、その中で自分もこれくらいのポジションでいるというのは自然というか、これまで培ってきた流れの中では自然な感じだなという気はしています。ただ、これからも役者をやりたいかというと……、それはよく分からないんですね。

ご自身が出演するのは「自画像を描くようなものだ」とおっしゃっていましたが、その思いは今もあるのですか?

塚本晋也監督:自分が出るときは、やはりそういう思いもありますね。この映画に関しては、何らかの結論を導き出すために構造的に脚本を書いたわけではなくて、ただその時その時に心に浮かんだ筋を「これでいい、これでいいぞ」と意味を考えずに書き進め、出来た後に意味を発見したりしたわけですが、書いているときには(自分が演じた)澤村ってああいう役だとは思っていなくて、「ちょっといい役だな……」なんて思ったりして(笑)、でも終わって観てみたら「ひでー野郎だ!」と気づいたんですね。で、最初いい役だと思っていたのが、後で「ひでー野郎だ」と気づくってことにも実は大きな意味があるわけです。今までの時代劇では大概、あの澤村が時代劇の中でみんなが見たい役なんですよ。時代劇の善玉って、結構何十人もぶった斬っちゃいますよね、悪人たちを。その悪人たちだって親もあれば子もあるのに、悪い人だからって、親玉を筆頭に全員ぶった斬っちゃいます。そんな、いわゆる善玉の主人公をみんな応援して見るわけですが、相手となるのは大人たちが「これは悪い人です」と決めている人たちで、そういう人たちを斬っていいという大義名分が与えられると、みんなやっていいと思い込んでしまう。そのことにこそ、疑問がありますね。本当にその人たちを斬ってよかったの?という疑問が強く湧くんです。今はここまでにしておきますけど、ここから大事な、いろいろなテーマにつながっていくような気がします。

今回も音楽を担当したのが石川 忠さんでしたが、制作中に亡くなられてしまいました。その後も監督ご自身が引き継いで完成させましたが、いま監督ご自身が石川さんにお伝えになりたいことは?

塚本晋也監督:この映画を創っているとき、今回も石川さんにお願いしました、「今回もひとつよろしくお願いします」と。いつもは映画が出来てから音を付けてもらうので、途中経過は全くご存知ないまま、映画をご覧にならないで去年の暮れに亡くなられたので、シンプルに考えると違う人にお願いしなくちゃいけないんですけど、石川さんが亡くなったことがピンと来ないというか、どうしても納得がいかなかったんですね。それで、まずは石川さんのCDになっている音楽を聴いて、映画に貼っていくんですけど、だんだんもっと聴いてみたくなって、CDになってなくてかつて映画に使った音楽を貼っていきましたが、それでもちょっと足りなくて、最後には石川さんの奥様にお願いして、未使用の制作途中だった音楽も全部引っ張り出して、最後に貼っていった時にやっと、出来上がった感じがありました。その作業工程は、決して感傷的な意味じゃなくて、「石川さん、これ、どうですかね~この部分よりこっちのほうがいいと思うんですけど」「う~ん、そうだねぇ、こっちのほうがいいんじゃないの?」なんて会話しながら一緒に貼っていった感じがあるものですから、亡くなったというのは未だにピンときていなくて。
 今日車でレッドカーペットに向かっていったときに、池松さんが先頭でしたから、池松さんの登場に合わせてあの音楽が向こうから聞こえてきました。こちらはまだ車の中だったのでガラス1枚隔てていたんですけど、十分聞こえてきたので、結構大音響だなというのが分かって、「石川さん、来てるよまた」と思って心が奮えましたね。石川さんにちょっと感謝が伝わったんじゃないかなという気がしました。

※第71回ヴェネチア国際映画祭『野火』レッドカーペットにて。
公式上映中のことをお伺いしますが、ヴェネチア映画祭の大スクリーンで日本映画を観るのは特別な思いがいたします。皆さんはご自身の出演されている作品が上映されていることに、どのような感慨を抱かれましたか?

池松壮亮:ヴェネチアにいることを一瞬忘れそうになりましたね。でも、ふと気づくと、会場にはたくさんお客さんがいらして、隣には塚本さんや蒼井さんが座っていて、なんとも不思議な気持ちでした。あの場にいられたのは、まず塚本さんのおかげで、こういう経験をしますと、言い過ぎかもしれませんが、映画って人類の英知なんだなって思いましたね。どう感謝していいか分かりませんが、普段なかなか感じることのできない思いが胸に迫ってきました。

蒼井 優:映画祭に慣れているお客様ですと見る目が厳しいので、「帰る人が少ないといいな」と思いながら、お客様の後頭部を見たりしてたんですけど(笑)、ほとんどのお客様が真剣に観てくださっていて、その緊張感が「あぁ、映画祭に来ているな」と実感させられました。それに、奇妙な感じでした。みんなでボロボロになりながら撮っていたものを、今はこんな豪華な服を着させていただいて観ているというのは、ヘンな感じがするものだなとも思いました。

塚本晋也監督:僕の映画はスタッフも少ないちっちゃな映画で、撮影現場も大変ですが、そこに果敢にも飛び込んでくれた俳優さんが、池松さんと蒼井さんと中村達也さんと、この若い前田隆成くんたちでした。とても過酷な状況のなか、とても協力的にがんばってやってくれたので、そういう俳優さんたちへの感謝の気持ちをこういう場で返せたらいいなと、いつも思ってるんですね。あんまり口にはしませんが。言うとそれが前提になっちゃって、「あいつの映画に出ればヴェネチアに行けるぜ」とみんなに期待されても困っちゃうんで(笑)。だから、あんまり言わないようにはしてるんですけど、まあ、こんな年齢にもなっちゃいましたし、この先何本撮れるか分からないですから、もう言っちゃいますと、いつもそういう思いはあります。今回も、ここには二人(池松・蒼井)に必ず来てもらいたいと思っていました。かもめが舞う青空のもと、ヴェネチアからリドに入っていく水上ボートのあの何とも言えない爽快感、初めて来たときに「すごい! もう天国気分!」と感激したので、あの気分を自分だけじゃなくて、関わってくれた、泥んこまみれになった俳優さんたちにも味わってほしいと思っていました。だから、それが果たせてほっとしたというのはありますね。
 前田くんに関しては、二人がメインだから、さあ、連れていくかいかないか……と迷いました(笑)。達也さんが来るなら呼ぶかなと思ったんですけど、結局達也さんは来られなくて、でも前田くんも本当にがんばってくれましたし、大きな感謝の気持ちもあるので、呼ぶことにしました。それに、若い俳優さんが自分の映画で育つというのも楽しみだったりしますね。前は自分のことしか考えてなかったんですけど、今は次世代が羽ばたくというのは嬉しかったりするもんですから、前田くんもこれから大きく羽ばたいてほしいと思って、来てもらいました。

前田隆成:今回監督にここに連れてきていただき、あんなにたくさんの人に観ていただいて、嬉しいのはもちろんですが、「市助」という役を頂いて脚本を読んだときから、何かを成し遂げたいんだという意志が伝わってきて、市助が江戸に行って強くなりたいと願ったことは、僕自身まだ若くて、大阪から上京してもっと成長したいと思っている気持ちとピタッと重なるものがあって、だからこそ、たくさん拍手を頂いて、監督にも「羽ばたいてほしい」と言っていただくと、これからも志高く、この映画に出られたことを誇りにして、恩返しじゃないですけど、自分の脚でしっかり立てるよう精進していけたらなと思いました。本当に感謝しています。その気持ちでいっぱいです。ありがとうございます!

登壇者:塚本晋也監督、池松壮亮、蒼井 優、前田隆成

 選択の難しい状況の中で追い詰められてゆく、若者らしい心の揺れと不安、恐怖を、観る者の心に生々しく刻印する池松壮亮の悲しみを秘めた瞳、無邪気と艶を身にまとった蒼井 優の佇まい。この両者が監督の想いに存分に応えて、自身の意思とは無関係に動乱の時代に絡めとられていく若者たちの姿を体現し、時代劇というスタイルを借りながらも、今の時代に共振する問いかけを放っている本作。観た後は必ず、「、」の後に思いを馳せることだろう。

 それにしても今回は、監督自身の静謐ながら鬼気迫る演技にも目を奪われた。今後は俳優・塚本晋也も追いたくなった。公式上映を一緒に観ていた友人たちから上映後、「あの澤村を演じた俳優、誰だれ!?」と開口一番に聞かれ、2階でスタンディングオベーションに手を振っている監督の姿に、「あれ、澤村やん!」とビックリ!というオチが。役者としても一般客の心を思いっきり鷲掴みにしてしまった監督だった。

 囲み取材後、ニコニコと「この後は、いつもの可愛らしいパーティをやりますんで、アルコホルをば……(笑)」とプレスに声をかけてくださった監督に、澤村の影はひとかけらも残っていなかった。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

公開表記

配給:新日本映画社
2018年11月24日(土)よりユーロスペースほか全国公開

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