女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、監督自身の過去の体験に根ざした母と娘の物語を描いた映画『クシナ』は、早稲田大学大学院の修士制作作品ながら、大阪アジアン映画祭2018に正式出品され、プロの監督の作品を抑え、JAPAN CUTS Awardを受賞。北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTSに招待され、独特の感性と映像美によって支えられる世界観は海外レビューでも高い評価を獲得。
この度、男子禁制の共同体に足を踏み入れる人類学者・蒼子役の稲本弥生と、村長であるカグウの母・鬼熊<オニクマ>役で約15年ぶりの映画出演となった小野みゆきのオフィシャル・インタビューが届いた。
稲本弥生
1984年3月22日生まれ。宮崎県出身。
ソニー主催の発掘オーディションで2万人の中から選ばれ、15歳で上京。数々のCM、舞台、映画などに出演。
現在は、女優、モデル業の他にArt、Fashionの企画製造をおこなう有限会社トライヴェンティの代表を務める。
小野みゆき
1959年11月17日生まれ。静岡県出身。
1979年、資生堂 サマーキャンペーン「ナツコの夏」でデビュー。
主な出演作に『トラック野郎 熱風5000キロ』(監督:鈴木則文)、『戦国自衛隊』(監督:斉藤耕正)、『あぶない刑事』(監督:長谷部安春)、『ブラック・レイン』(監督:リドリー・スコット)、『ハサミ男』(監督:池田敏春)などがある。
閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録したいという人類学者・蒼子役の稲本さんは、均等にバランスのとれた美しい顔が歪な世界に足を踏み入れる現代女性の象徴としてぴったりと、監督があて書きされたと聞きました。今回監督とご一緒して、どう思われましたか?
稲本弥生:以前速水監督が助監督で入っているムービーの撮影でご一緒したんですけれど、フレッシュで、ふんわりしていて、まさかこんなに素晴らしい作品を撮れる方だとは全く思っていなかったです。ふんわりした中にちゃんと自分の表現があり、芯がある方なんだなと思いました。
女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落の村長・オニクマ役の小野みゆきさんは、監督が写真をネットで見て、ご自身のお母様に似ているということもあり、オファーしたと聞きました。オニクマ役のオファーが来て、どう思われましたか?
小野みゆき:すんなり入れました。初めての年寄り役だったので。いつも無理をする年の役しか来なかったので、初めて等身大の役が来たと思いました。
脚本全体の感想はいかがでしたか?
稲本弥生:読み進めるたびにワクワクが止まらなかったです。ただそれと同時に、こんなにスケールが大きいものをはたして撮りきれるのかという不安もありました。
監督は早稲田の大学院の修士制作だったんですよね?
稲本弥生:はい。
クシナ役が、クランクインぎりぎりまで決まらず、クシナ役が決まらないまま本読みをやったとお聞きしました。
稲本弥生:撮影初日に、最後までクシナ役の郁美(カデール)ちゃんが到着していなくて、小野さんと2人でロケバスで、「来るのかな? 来るのかな?」と心配していました。
小野みゆき:主役の郁美カデールさんがギリギリで決まっているので、子ども(カグウ)や孫(クシナ)を心配するオニクマのように、「心配する」ということから始まりました。オニクマがやっていることと変わりなかったので、(オニクマを演じる上で)全然無理がなかったです。
(クシナ役の郁美さんが演技を今まで)やったことがないって言うから、実は監督がセッティングしている時に、ロケバスに行って、こっそりクシナと本読みをしたんですよ。そうしたら、クシナそのものだったんです。それで、「本当によかった」と思って、タタタタって現場にいる監督の元に走って行って、『クシナ、OKですから、すぐ回して大丈夫です』って言って撮影したんです。
稲本弥生:見た瞬間に、すごく美しい少女だったので、不安も吹き飛び、逆に楽しみになりました。無理せず魅了されました。
小野みゆき:そうか、稲本さんからすると、そういうイメージなんですね。私はオニクマとして、どこか村と撮影隊の皆を見なくちゃいけないという長になっていて、私はクシナだけを見ていたんじゃなく、皆を均等に見ていたんです。
稲本さん演じる人類学者・蒼子が入ってきた時は、「敵が村に入ってきた」という感じでしたか?
小野みゆき:敵という見方がもしかすると足りなかったかもしれないです。
オニクマは最初から協力的でしたね?
小野みゆき:そうです。見つかってはいけない集落が見つかっちゃったのですが、長として、逆にジタバタするほうがまずいという計算が働くんです。特に敵対心を持たずに、淡々とセリフを言うようにしました。
蒼子は後輩の原田恵太と村を探し当てるという設定ですが、演じた小沼 傑さんとの共演はいかがでしたか?
稲本弥生:一番印象に残っているのが、富士の樹海で登山中に夜中にテントを立てて野宿をするというシーンなんですけれど、警察の方に集団自殺をしに来た団体と間違えられて、監督が「撮影なんです」と説明していました。
あと、小沼さん演じる原田に「村を乱すな」と怒るシーンがあるんですけれど、その時の刃向かう彼の目つきがとても生意気で、すごく原田だと思いました!
小野みゆき:小沼君は出番を待っている間にいつも衣装を縫っていました。本作では、着物を着物として着ないで、ちょっと崩して着ているので、現場でさっくり切って縫わなくちゃいけないんです。小沼君が「僕、ファッション系の学校に行っていたんで、縫えますよ。やりましょうか?」と言った時に私もいました。村のシーンでは、他に男の出演者がいないんです。控室が1つしかないので、小沼君は、配慮して、隅っこにいました。
小沼君が怒るシーンは、ちょっと狂気があるんですよね。普段飄々としているからこそよかったですね。
オニクマの娘は、14歳の時にクシナを生んだカグウです。カグウを演じた廣田朋菜さんとのシーンはいかがでしたか?
小野みゆき:とても不思議な雰囲気があるのよね。子どものまま大人になったようにも見えるような、不思議な感じなんです。蒼子と対照的という意味で、女優さんとしていい意味で、若干のやさぐれ感があるんです。役柄の中では、オニクマが厳しいから、それに反発をしなくてはいけないので、気持ちから入ってきていたところがあるんですよね。「ここから出たい」「うんざりしている」というのが少し見えるんです。そういう意味では面白かったです。現場の会話の中では一番素を出さなかったかもしれないです。素が見えづらい、ちょっと暗い感じで。でもリハの時はそうではなかったようにも思うので、やっぱり役を作ってきたんですね、女優さんだから。カグウにしか見えなくて。非常にやりやすかったです。
稲本弥生:対面すると、小野さん同様に彼女も強い目力の持ち主です。2人と闘うのはそれはそれは、じっと目を見られるだけでも足がすくみました。
小野さんは、ノーメイクで出演してほしいと言われたと聞きました。
小野みゆき:オニクマとカグウは完全にノーメイクでした。素顔と言っても普通は素顔用のメイクをするんですけれど、素顔と素顔に見えるメイクでカメラ・テストをして、監督が「シワ間が大事」とのことで、完全な素顔で撮影することになりました。
ノーメイクに抵抗感はなかったですか?
小野みゆき:ちゃんと生きていれば、ちゃんとしたシワが刻まれるはずと思っています。
実際にロケ地に行った印象はいかがでしたか?
小野みゆき:長年仕事をしてきましたが、「東京から近いところによく見つけましたね!」というようなロケ地でした。初日からロケーションに対するこだわりを感じました。自分たちの映画に合うロケーションを探してきて、「写真通りじゃん!」というような感じの場所でした。きちんと準備をしているんだなと思いました。
本作で一番難しかったところはどこですか?
稲本弥生:少女に魅了されるというところです。私は3児の母なので、自分の子どもと同じくらいの年の子に魅了されるというのが、精神的に葛藤があったので、そこをどう落としこむかに苦労しました。
大阪アジアン映画祭で賞を受賞したと聞いた時はどう思いましたか?
稲本弥生:喜びと驚きがあったんですけれど、出来上がったものを観て、素晴らしい作品に仕上がったと思っていたので、納得している部分もありました。
小野みゆき:驚いたけれどすぐに、喜びの気持ちよりも「いいから獲れたんだよね」と納得しました。
読者の方にメッセージをお願いいたします。
稲本弥生:自然、ストーリーもそうですし、監督が今回は自分と母親とのわだかまりだとかを描いたとおっしゃられていたので、そういういろいろな愛の形を考えて大切な人を思って見ていただけたらなと思います。母親だったり、女だけの村に来た男性という立場からも楽しめますし、どんな方が観ても楽しめると思うので、ぜひ劇場まで足を運んでください。
小野みゆき:私はプライベートでダンスを習っていて、マフラーをひらひらさせたりだとかを手伝うことがあります。古民家の2階で撮影をした時に、映り込むカットがあって、下がっていた紐を監督がくるくる巻いて、ちょろっと下げたんです。どうなっているのかなと見たら、すごくよかったんです。こういう画が大事じゃないですか。たかが紐ですが、紐を綺麗に映りこませることができる、瞬間の画を切り取ることができるという方が撮った画は安心します。綺麗な画を撮る監督さんはいっぱいいるんですけれど、本作は、儚げな感じなんです。きれいなんだけど、薄っぺらくなく、不思議なリアルさがあるんです。それが今回の映画の特徴です。
私は有名なカメラマンと何十年も写真を撮っているから、作りこまれているとわかるんですが、本作は、作り込んでいて、ファンタジーっぽいんですけれど、水がぽとって落ちるのも、不思議な感じなんですけれど、リアルな感じがするんです。確かに日本は今までファンタジー映画は少なかったですね。日本もちゃんとこういう映画を作るようになったのかと思ってもらえると思います!
公開表記
配給宣伝:アルミード
アップリンク渋谷にて公開中 全国順次公開
(オフィシャル素材提供)