記者会見映画祭・特別上映

『スパイの妻』第77回ヴェネチア国際映画祭公式記者会見(日本会場)

©2020 NHK, NEP, Incline, C&I

 映画『スパイの妻』が9月9日(水)、イタリア・ヴェネチアで開催中の第77回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映に先立ち、リモートで実施された公式記者会見に引き続き、黒沢 清監督、主演の蒼井 優、高橋一生が日本の報道陣向けに質疑応答を行なった。

 コロナ禍で現地に行くことができなかったことについて、蒼井は改めて「残念です。自分たちが手塩をかけて作った作品がヴェネチアの観客に触れるという、あのとんでもない緊張感も含めての映画祭なので、そこに行けないということを実感するとともに、この状況でも映画は海を渡るという喜びを噛みしめて、今日を過ごしたいと思います」と無念の胸の内を明かす。そして「元に戻らないことがたくさん起きましたし、いまも世界のどこかで起き続けているけど、その中でもこういう形で映画を喜ぶ瞬間があり、映画祭の灯が消えないようにつながっているということ――いつもなら燦々とした太陽の下で映画を喜び合えるのに、今回は囲炉裏を囲んでいるような、小さな暖かな灯かもしれないけど、それが今年限りであることを祈っています」と静かに思いを口にした。

 高橋は現地でのプレミア上映に向けて「撮影でとても有意義な時間を過ごさせていただいたので、その作品が皆さんのお目に触れるのは感慨深く、嬉しいことです」と喜びを口にし、「外国語が飛び交ってる中での質疑応答で、内容の鋭い、意義のある質問をされる方もいて、改めてこれがヴェネチアの空気なんだと、なんとなくここ汐留で感じていました(笑)。残念だなという気持ちもありますが、いまこの瞬間、リモートであっても参加させていただけていることを光栄に思っていますし、汐留からヴェネチアにというのを楽しんでいました。非常にいい経験ができたと思っています」と前向きに感謝の思いを語った。

 黒沢監督は「(中継が)繋がってイタリア語が聞こえてきた瞬間に『ヴェネチアだ』と思ったけど、(会見が終わって)通信が途絶えると『汐留だなぁ……』と(苦笑)。現地に行っていれば、会見が終わってもヴェネチアで、いろんな質問をされたり、熱気を感じたり、それが映画祭の醍醐味なんですが……」と冗談を交えつつも無念さをにじませる。それでも、会見での現地記者からの鋭い質問に映画祭の熱気を感じたよう。「作品が難しい質問の一番良い答えになってくれることを祈るばかりです」と語っていた。

 また「社会と個人の対立」をテーマとして明かした黒沢監督だが、そうしたテーマの持つ現代性について問われると「それは現代の観客が、それぞれ見つけていただければと言うしかないですが、社会の中の個人、引いていえば『自由』、あるいはやや大げさですが『正義』といったテーマは、時代を超越し、いつの時もどんな人間にも関わり合いのあるものだろうと思います」と語る。

 また、高橋と蒼井について、「国際映画祭の場で世界に向けて誇れる魅力は?」との質問に黒沢監督は「どこも素晴らしいけど、声が特に素晴らしい! 声が素晴らしい人は、後ろを向いてても、遠くにいても、場合によっては画面にいなくても存在感が強烈にこちらに伝わってきます。声のすばらしさに関しては、世界のどの人が見ても、『この人はどんな人なんだろう?』と興味がわく強烈な魅力を持ってる2人だと思います」と称賛を送る。

 蒼井は、『岸辺の旅』以来の黒沢作品となったが「私は、黒沢組に長く滞在するというのが自分の中の目標でした」と明かし「今回、相手が一生さんで、反省するところがたくさんたくさんあって、勉強になったこともあるし、『こういうふうになりたい』というものを、お芝居を始めた時と同じくらい感じた時間でした。映画に出られる限り、この経験をどうにか還元していきたいと思います」と濃密な撮影の日々を振り返る。

 黒沢作品初参加となった高橋は「黒沢さんも蒼井さんも、本当にご一緒できてよかったし、勉強になりつつ、刺激された方たちでした。終わってほしくないくらい素晴らしい時間を過ごさせていただきました」と充実した表情で語っていた。

 最後に蒼井は本作について「何が自分にとって幸せなのか? 自分は狂っているのか狂ってないのか? 世間が狂っているのか? いろいろな角度で物事を考えられる作品だと思います」と力強く映画をアピールし、会見は幕を閉じた。

『スパイの妻』は10月16日(金)より公開。

登壇者:黒沢 清監督、蒼井 優、高橋一生

 (オフィシャル素材提供)

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 2020年10月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!

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