インタビュー

『PLAY 25年分のラストシーン』アントニー・マルシアーノ監督 オフィシャル・インタビュー

© 2018 CHAPTER 2 – MOONSHAKER II – MARS FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – CHEZ WAM – LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

 2019年サン・セバスティアン国際映画祭に正式出品され、その斬新な試みが話題となったフランス映画『PLAY 25年分のラストシーン』が、11月6日(金)より全国順次公開となる。主人公のマックスが25年間撮りためたホームビデオの映像をつなぎ青春を振り返る手法で、時代の空気感をリアルに再現したアントニー・マルシアーノ監督のオフィシャル・インタビューが到着した。

アントニー・マルシアーノ監督

 1979年11月30日生まれ。
 マックス・ブーブリルと共同で脚本を担当し、監督をつとめた『Les Gamins』(2013年/日本未)がフランスで大ヒットをおさめる。その後、コメディ映画『Robin des Bois, la véritable histoire』(2015年/日本未)でもマックス・ブーブリルとタッグを組む。
 。2020年には、原案、脚本に参加した新作映画『Forte』が本国フランスで公開。2007年には、クラウドファンディングの会社を立ち上げるなど実業家としての顔も持つ。

本作を撮ろうと思ったきっかけは? ホームビデオ映像をつないで過去を振り返るというアイデアはどうやって思いついたのですか?

 僕は過去を懐かしく思い出すタイプで、「過去の過ぎ去った日々を再び体験し、あの頃の自分をもう一度生きてみたい」と思ったのがきっかけです。10代の頃、僕もビデオでいろいろなものを撮影していました。当時は、携帯電話もインターネットも存在しない時代でした。昔のビデオを振り返ると当時の記憶がよみがえり、その頃にタイムスリップするような感覚を味わうことがあります。それで、過去をもう一度体験するための唯一の方法が「架空のラッシュ・フィルムを作る」ことではないかと思ったのです。このアイデアをプロデューサーに話すと、すぐに気に入ってくれました。映画の中のエピソードは、ほとんどが僕とマックス・ブーブリルの実体験に基づいています。

フランスで大ヒットした『Les Gamins』(2013年/日本未)など何度かマックス・ブーブリルと脚本を共同執筆していますが、どんなふうに作業を進めるのですか?

 マックスとは性格は正反対ですが、2人とも同い年で、共にパリで育ったので、共通点は多いです。その上、仕事ではお互いに補い合える関係でもあります。
 作品にもよりますが、段取りは全て僕が進めます。そうこうしているとレストランにマックスがやって来て、「さて今日は何の話?」と言うのです。それから3~4時間、2人で話し込みます。彼はコメディのシチュエーションを思い付くのが抜群にうまいんです。人間を本当によく知っていて、何が人を惹きつけるのかを心得ています。彼のおしゃべりはとどまるところを知らず、僕は時々、プレー中断のホイッスルを吹かなければならないほど(笑)。彼が秒速400個で繰り出すアイデアの中から、気に入ったものを拾い上げ、家に帰って全体の構成を考え、対話形式に仕上げています。

本作ではエピソードと登場人物、どちらを先に設定していったのですか?

 エピソードが先です。何歳でどんな出来事があったか、全部リストに書き出して、そこから登場人物とストーリーを展開させていきました。劇中の登場人物には実在の人物でヒントになっている人もいるんですよ。
 それに、この映画の脚本の書き方は、ちょっと特別でした。“ホントらしいウソを作る”という僕のこだわりがあったので、「今回はなぜビデオカメラのスイッチを入れたのか?」「撮影者は誰か?」「それがどうやって分かるのか?」など、常に同じことを自問しなければなりませんでした。単に会話を撮るためだけにビデオカメラを使う人はいませんし、さらには撮影者自身がカメラに向かって話をします。これは通常の映画とは正反対のことです。それで時々マックスを苛立たせました。せっかくの素晴らしいアイデアでも、そこで主人公がカメラをオンにする理由がなければ、僕は反対しましたからね。

「ラッシュをつないだもの」という形式に、製作側は尻込みしませんでしたか?

 それはありませんでした。映画作りでいつも難しいのは、内容と形式が合うテーマを見つけることです。本作はその点で一貫性がありました。この映画をラッシュ・フィルムで作ることは、観客に懐かしさを感じてもらう唯一の方法でした。俳優の名演や凝った演出の力で無理矢理ノスタルジーを感じさせるのではなく、まるで観客自身のビデオ・ライブラリからカセットを出してきたような印象を与えたかったのです。

主人公のマックスと仲間たちの25年を描いていく上で、少年期(13~15歳)、青年期(16歳~20歳)、それ以降と、世代ごとに演じる俳優が変わっていきますが、違和感がなくて驚きました。キャスティングは大変だったのではないですか?

 脚本をまだ書き終えていない段階から、キャスティングを始め、9ヵ月ほどかかりました。3つの世代の俳優が似ていないといけないので、大変でしたね。同一人物を演じる3人の中で1人だけが良くても採用できないので、もしダメなら、3人がみな一様によいというグループを再び検討する……ということの繰り返しでした。
 また当初は、物語に真実味を与えるため、主演には有名な俳優を使わない方針でしたが、マックス・ブーブリルという俳優は自分が知る限り、もっとも自分で考えて動ける俳優なんです。カメラが目の前にいても自分らしくいられて、映画の中で自分の人生を生きることができる、彼以外にそういうことができる俳優を僕は知らない。だから彼を起用しました。

主人公の母親役を演じた『カミーユ、恋はふたたび』の監督・主演のノエミ・ルヴォウスキーも印象的でした。

 母親役のノエミも父親役のアラン・シャバも偉大なフランス人の俳優。ぜひ一緒に仕事がしたい人たちでした。アランとは以前仕事をしたことがあり、出演を快諾してくれました。ノエミは初めてでしたが、ぜひマックスの母親を演じてほしかった。彼女は感受性が豊かで、ほとんど言葉を発しないで、いろいろな感情を表現できます。観客はノエミの視線や細やかなしぐさだけで多くのことを理解できる。そのことがこの映画では非常に大事なことだったんです。

本作を観ていくと、いつもカメラのどこかにマックスが思いを寄せるエマがいますね。描き方は緻密に計算したのですか?

 もちろん! 非常に緻密に計算しました。まず観客の視線の中に必ずエマがいる。その女優を変えてしまうと、説得力がないので継続性を大事にしました。そのため思春期も大人も演じることのできる同じ女優が理想で、若く見えて2世代演じられるアリス・イザーズをキャスティングすることで、これが可能になりました。
 また言葉を発することなく、どうやってマックスがエマを好きなことを表現するか。マックスのように、いつもカメラの後ろにいる勇気のないタイプは、ビデオを通してしかその気持ちが表現できない。マックスは本当は何がしたいのか分からないまま常に撮っているが、観客には彼が何をしたいかが分かるよう、それを映像だけで示さないといけなかった。

監督が映画監督になったきっかけを教えてください。

 映画監督になったのは、出会いや流れにのって、というのもあります。今回『PLAY 25年分のラストシーン』を撮ってみて、自分には言いたいことがあって、映画を撮ることでそれを伝えられる、と分かりました。また自分がどうして映画を撮るのか。自分にとって映画を撮ることは、とても個人的で普遍的なことだということに気づきました。

これからご覧になる観客へメッセージをお願いいたします。

 この映画は、この年齢になったらもう二度とできないことを、もう一度体験したいと思って作りました。初恋、家族や仲間との話、18歳や20歳の時のバカンス、それ以外にも1998年のフランス・ワールドカップや2000年のミレニアム・パーティなどの思い出……自分の人生のたくさんのそういう時をもう一度体験してみたかった。みんなにもこの体験をしてほしくて、それでビデオを撮っている主役の立場で(主役の目線で)観られるように作りました。そうすることで、各人が自分自身の人生をもう一度振り返ることができるようになると思ったからです。
 この映画を観ると、皆さんも自分の人生を振り返られるのではないかと思います。ぜひこの映画を観て、泣いたり、笑ったり、人生について考えてくれたらうれしいです。

公開表記

 配給:シンカ/アニモプロデュース
 11月6日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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