イントロダクション
1995年、病院勤務医として働いていた際に、「家に帰りたい。抗ガン剤をやめてほしい」と言った患者さんが自殺をした。それを機に、阪神淡路大震災直後、勤務医を辞め、人情の町・尼崎の商店街で開業し、町医者となった長尾和宏。病院勤務医時代に1000人、在宅医となってから1500人を看取った経験を元に、多剤処方や、終末期患者への過剰な延命治療に異議を唱える”異端”。
暦を過ぎた長尾は今も、24時間365日、患者の元に駆け付ける。そんな長尾の日常をカメラで追いかけたのは、新型コロナが猛威を振るう直前の2019年末。転倒後、思うように動けなくなり、以前自分の旦那を看取った長尾を往診に呼んだ女性や、肺気腫に合併した肺がん終末期の患者さんなどの在宅医療を追った。
リビング・ウィル(終末期医療における事前指示書)と長尾の電話番号を書き残し、自宅で息を引き取ったばかりの方の元に駆けつけた際の貴重な映像も交え、昼夜を問わず街中を駆け巡る長尾の日々を追うことにより、「幸せな最期とは何か」「現代医療が見失ったものとは何か」を問いかける、ヒューマンドキュメンタリー。
(2020年、日本、上映時間:116分)
キャスト&スタッフ
監督・撮影・編集:毛利安孝
製作:人見剛史、内槻朗、小林未生和
エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介、見留多佳城
企画:小林良二
企画協力:小宮亜里
プロデューサー:神崎 良、角田 陸
制作会社:G カンパニー
ナレーション:柄本 佑
出演:長尾和宏ほか
ギャラリー
オフィシャル・サイト(外部サイト)
本作を観て、福島で在宅患者への訪問医療をされている医師の仕事を追ったイアン・トーマス・アッシュ監督のドキュメンタリー『おみおくり~Sending Off~』を思い出した。
地域で終末期を迎える在宅患者への訪問医療に携わる長尾医師も、陽気に親しみをこめて饒舌に患者に語りかけ、延命を望まず、住み慣れた場所で最期の日々を過ごしたい人々に、可能な限り穏やかに命を閉じられるよう手を差し伸べている。その医療行為は、患者が救急車で運ばれる医療機関のそれとは相容れぬものであり、ここでは明確に描かれていなくとも、どれほどの軋轢があることかは容易に想像できる。
ある痛ましい出来事が町医者になるきっかけとなったことを研修医に語る長尾医師。どれほどの後悔と忸怩たる思いがあったことだろう。
尊厳ある最期を迎えたいという人々の想いをすくい上げ、それに寄り添う決意と覚悟、「生きる」ことへの敬意――この長尾医師の姿が「けったいな町医者」ではなく、「普通の町医者」であってほしいと願わずにはいられなかった。
(Maori Matsuura)
公開表記
配給:渋谷プロダクション
2月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
(オフィシャル素材提供)