家が病室で、町が病棟や――『けったいな町医者』は、これまでに2500人を看取ってきた在宅医・長尾和宏の命の駆け引きの現場を収めたドキュメンタリー映画。長尾のベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」の映画化『痛くない死に方』(高橋伴明監督、2月20日公開)で、柄本 佑演じる主人公の在宅医・河田の先輩である、奥田瑛二扮する長野浩平役は、この長尾をモデルにしている。主演を務めた柄本 佑は、『痛くない死に方』の撮影前に、長尾の往診を見学し、本ドキュメンタリーのナレーションのオファーを快諾した。2月18日にブックマン社より発売になる、映画「痛くない死に方」読本(定価1100円+税)より、『けったいな町医者』監督・撮影・編集の毛利安孝のオフィシャル・インタビューの一部が届いた。
毛利安孝
1968年生。大阪府東大阪市出身。
映画監督の浜野佐知に師事。数多くの助監督を担当する。主に高橋伴明・黒沢 清・廣木隆一・磯村一路・塩田明彦・清水 崇監督作品に付く。2010年『おのぼり物語』で長編監督デビュー。
その後『カニを喰べる。』(15)、『羊をかぞえる。』(16)、『天秤をゆらす。』(16)、『逃げた魚はおよいでる。』(17)、『探偵は今夜も憂鬱な夢をみる2』(19)、『さそりとかゑる』(19)を監督。
テレビドラマの演出も多数手がけNETFLIX配信『火花』、LINE LIVE配信ドラマ『僕らがセカイを終わらせる…たぶん』などを手掛ける。
今後の公開待機作に、『トラガール(仮)』がある。
映画『痛くない死に方』では助監督として参加。
高毛利監督は、映画『痛くない死に方』では、助監督としてお仕事されました。
助監督のオファーをいただいた時には、末期がんで命を落とす井上という役で下元史朗さんが出演されるのが決まっているとお聞きしました。そして宇崎竜童さんにもオファーされていると……。『TATTOO〈刺青〉あり』という僕たちがものすごく影響を受けた映画を思い出して、もう震えましたね。『TATTOO〈刺青〉あり』から40年たった男たちの「生き様」をもう一度観られるのだと、スタッフというよりはファン的心境でワクワクしました。
『痛くない死に方』を撮り終えたあとで、原作者の長尾和宏先生を追いかけたドキュメンタリー『けったいな町医者』の監督をされています。
当初は短いDVD特典くらいの長さの映像をオファーされましたが、1、2週間で撮るなら、それは「取材」に過ぎないだろうと。いや、この先生、2、3ヵ月追ったらドキュメンタリーとなりうる、これは面白いぞと直感したんです。そこは僕の、作り手側の興味です。
どこまで演出というものが介入して良いのか否か、常々疑問を持っていました。そんな僕なりの答えとして今回の撮影は、とにかく、ただターゲットの背中を追おうと思ったんです。長尾先生が動く3歩後ろをただ追う。先生に何かしてもらう、動いてもらう、準備しておいてそこに入ってもらう、そういう演出や指示を一切排除することを自分にルール付けました。
毛利さんご自身も、長尾先生と一緒にたくさんの死を目撃されましたね。
人の死はフィクションではいくらでも扱えたのですが、本物の死は、やはりショッキングです。ひと様の家の、実際の死を目撃するというのは、本当に重いことです。
長尾先生を撮るということは、先生が見つめる死をも赤裸々に撮るということ。死をそのまま映すということが、この作品にとって是か否かはまだ分かりませんが、こうした悩みにぶち当たるのは、作り手の宿命ですから。いいか、悪いか、それは観る方々に委ねるしかないのです。
読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
このドキュメンタリーは、長尾和宏というけったいなひとりの医師と、その医師が生きる尼崎の町と人々のある期間を切り取っただけのものです。今この瞬間も長尾先生は胸ポケットに忍ばせた携帯電話で患者とつながっています。そんな一人の医師の日々を通じて、現代医療について、死について、そして生きていくことについて、何かを感じ取ってもらえれば幸いです。
公開表記
配給:渋谷プロダクション
2月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほかにて公開
(オフィシャル素材提供)