家が病室で、町が病棟や――『けったいな町医者』は、これまでに2500人を看取ってきた在宅医・長尾和宏の命の駆け引きの現場を収めたドキュメンタリー映画。2月13日(土)、本作の初日舞台挨拶に、“けったいな町医者”こと本作被写体の長尾和宏先生と、監督・撮影・編集の毛利安孝が登壇した。
毛利監督は、「今皆さんと一緒に改めて観たんですけれど、『筋の通ったけったいな方だな』と改めて思いました」と挨拶。密着する際に自分の中でルールを決めていたそうで、「僕自身はフィクション畑の人間で、ドキュメンタリーは初めてでした。フィクションの映画と違い、段取りが出来ないので、長尾先生の2ヵ月間を切り取ることだけ考え、とにかく長尾先生の後ろをついていきました。何が起ころうとも、『もう一度やってください』だとかは言わない。患者さんのご自宅に初めて入って、足場にいろいろ物が置いてあっても、それをどかすという行為もしないということを自分に課してやったので、すみません、カメラがブレて見づらいところもあったかと思います」と説明した。
長尾先生は、完成したドキュメンタリーの感想を聞かれ、「私は被写体でもあるんですけれど、患者さんが主人公です。(撮影はしたものの、本編に使わせていただきたいと許可取りに行った際)承諾を得られなかった方がほとんどで、ご承諾をいただいた患者さんとご家族に深く感謝を申し上げます。旅立たれた方々が映っているんですから、ありえない映像だなと思いました。(本作を観たら)在宅医療、尊厳死とはどういうものかと分かっていただけると思います。美談が多い中で、私はけったいとしか言いようがないと思います」と回答。
気に入っているシーンを聞かれた長尾先生は、「全部気に入っていません」と冗談っぽく答え、「もうちょっとまともな医者なんですけれど、けったいなところを集めた映画です(笑)。本当は歌も上手いんですけど、玉置浩二さんに代わりに歌っていただいています」と、カラオケ・シーンで歌っている「ひとりぼっちのエール」が安全地帯の原曲に差し替えられていることにブラック・ユーモアも交えて言及。気に入っているシーンについては「患者さんの言葉は重い。それをどう受け取るか」と真面目に答えた。
長尾先生の著書が原作の『痛くない死に方』主演の柄本 佑が本作のナレーションを務めているが、長尾先生は「柄本さんはしゃべりがうまい。『痛くない死に方』の主演ということで縁をいただきまして、映画(『けったいな町医者』)が引き締まっているように感じました。柄本さんは『痛くない死に方』の撮影前に長尾クリニックに来て下さり、一緒に在宅の現場を1日回ったんです。いろいろな話をしました。すごい感性の方だなと思いました」と大絶賛した。
長尾先生をモデルにした在宅医の役を奥田瑛二が演じた劇映画『痛くない死に方』が来週20日から公開になる。「天下の二枚目俳優が僕の役をやってくれるって言っても、うちのスタッフは、誰も信じなかったんです。携帯をいつも胸ポケットに入れているというのをそのままやって下さいました。奥田瑛二さんに僕の言いたいことを(セリフで)言っていただいているので、ありがたいと思いました」と感謝の言葉を述べた。
最後に、毛利監督から、「映画というのは観客の皆さんに観ていただいて、語っていただいて、考えていただいて、初めて成就すると思います。2019年の尼崎の町医者の2ヵ月間を切り取った作品です。先生たちは、泥臭く地味なことを日々やられていて、頭の下がる思いです。医療従事者の方にも本作を観てもらえたら幸せです。本作は一つの提示です。『こういう医者もいる。あなたはどうしますか?』その問いかけになればという思いで編集しました。リビング・ウィル、尊厳死のことでも構いません。この映画のことでも構いません。心に響くところがありましたら、ご家族、お友達に語っていただければと思います」というメッセージが送られ、初日舞台挨拶は終了した。
登壇者:長尾和宏先生、毛利安孝監督
公開表記
配給:渋谷プロダクション
シネスイッチ銀座にて1週間公開中ほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)