田中裕子を主演に迎えた久保田直監督最新作『千夜、一夜』が10月7日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開となる。先日、「第27回釜山国際映画祭」ニューカレンツ・コンペティション部門の正式招待が決定した本作、9月5日(月)にはヒューマントラストシネマ渋谷にて舞台挨拶付きプレミア上映イベントが開催され、尾野真千子、ダンカン、安藤政信、久保田直監督が登壇し、各々が本作に込めた想いを観客の前で語った。さらに、新潟県佐渡市で行われた撮影の様子なども明かされ、本作公開前のとても貴重なイベントとなった。
※主演の田中裕子は体調不良のためイベントを欠席。
観客の温かい拍手に包まれ、キャストと監督がステージに登壇。初めに一言ずつ挨拶が行われた。尾野は開口一番に「ようこそ! 本日お越しくださりありがとうございます」と元気な笑顔でコメント。続けてダンカンが「皆さん、『今日は田中裕子さんはいないのかよ』と怒ってないですか?」と語り始め、「その代わりといってはなんですが、皆さんぜひ幸せになってください」とポケットに仕込んでおいた“幸せになれる壺”を掲げると、キャスト陣から「映画と壺は全く関係ないですから!」と総ツッコミが起き、会場が一気に和やかな雰囲気となった。続けて安藤も「僕の役は男としてはあまり胸を張れない役ですが、壺でも買って幸せになります」とダンカンの“壺ネタ”に重ねてコメントした。本日が最速プレミア上映という記念すべき日に、キャスト陣の晴れ晴れしい笑顔で舞台挨拶が始まった。
まずMCから久保田監督へ、本作の着想となった“失踪者リスト”についての質問がなされた。監督は「約20年くらい前に“失踪者リスト”が話題になったときに、行方不明者の顔写真がならんだポスターが強烈に印象に残りました。その中には、事件や事故に巻き込まれたのではなく、自分の意思で蒸発した人がいたということを知り、興味を持ちました。前日までいつもと変わりなく過ごしていたのではないか、なぜ消えてしまいたいと思ったのか、残された家族はどんな思いで待っていたのだろうか、と関心をもち、この“失踪者リスト”に家族の本質が見えるかもしれないと思いました」とコメント。前作『家路』と二度目のタッグとなる脚本・青木研次と話し合いを重ねて制作を進めていったという。
田中演じる登美子は30年前に失踪した夫をひとり待ち続ける女性。そんな登美子の前に現れるのが、2年前に失踪した夫を探す奈美だ。この役柄について、演じた尾野は「田中さん演じる登美子は待ちますが、私は違う選択をします。その選択が次の一歩を踏み出す女性として現実的なのかなと思いますが、演じながらも“これであっているのかな”と迷いながら演じました。すごく難しい選択だと思います。皆さんだったらどの選択をするのでしょうか……。ぜひこの映画を観て一緒に考えていただけたら」とコメント。
そんな登美子と奈美のほかに、ダンカンが演じた春男も、想いを寄せる女性の気が自分に向くのを“待ち続ける”男性。ダンカンはそんな春男について、「共感する部分はあります。劇中では登美子を待っていますが、私生活でも数年前に亡くした妻のことをもういないと分かっていても、待ってしまうときがたまにあります。ある意味ずっと待ち続けているので、登美子の気持ちがとても分かります」とコメント。
本作の予告でも春男が登美子を追いかけたり、二人で海で揉み合う場面など印象的なシーンがあり、この二人の関係性も本作の見どころのひとつとなりそうだ。
一方で安藤が演じた洋司は、ある日突然、理由もわからず失踪してしまう役柄。一足先に映画を観たライター・評論家からは、安藤のそのふと消えてしまいそうな儚げな雰囲気に妙な説得力を感じた、という感想が相次いでいる。その役作りについて、安藤は「無意識にやった気がしますね。普段も周りの人から『(安藤さんは)すぐにいなくなる』といわれたりするので……」とコメント。
次に本作の“待つ”というテーマについて、キャストそれぞれ「待つことは得意か?」と聞かれると、尾野は「苦手です。人を待ったことそんなにないけれど、俳優という仕事は“待ち時間”がつきもの。撮影の合間に何時間も待つことはありますが、仕事であれば頑張って待ちます」とコメント。俳優としても活躍するダンカンも同じ悩みを抱えており、以前、撮影の待ち時間に海辺で寝ころんでいると、肌が真っ黒に焼けてしまい、シーンが繋がらなくなり、監督に怒られたことがあるそう。続けて安藤は「映画と全く関係ありませんが、僕がずっとチャンスを待ち続けた写真展を開催することになりました! ぜひ拡散お願いします」とコメントすると会場から拍手が!
最後に久保田監督から、「本作は当初、なかなか出資集まらず、クランクインまで6年かかりましたが、撮影開始してから5日目に、新型コロナ感染拡大に伴い、撮影が中止になりました。一度撮影がストップしたら再開するのが難しい中で、田中裕子さんと長い時間話し合って中止に至りました。そんななかで裕子さんが皆さんの手を取って涙ながらに“健康でいて。健康でいてさえすれば必ず……”と皆さんに向かって声をかけてくださいました。尾野さんも泣きながら“私も絶対に裕子さんと一緒に仕事したい”とおっしゃっていて、あの光景は忘れられないものです。この年月をかけたからこそ良い作品ができたと思います。そういう意味では“待って待って出上がった作品”です。ぜひ待った甲斐があったと思って見ていただきたいです」というコメントすると会場は本日一番の温かい拍手に包まれ、今回のプレミアイベントは幕を下ろした。
登壇者:尾野真千子、ダンカン、安藤政信、久保田直監督
ギャラリー
配給:ビターズ・エンド
10月7日(金) テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開
(オフィシャル素材提供)