「⽉刊アフタヌーン」で2011 年に連載された漫画家・今井哲也による傑作SFジュブナイルコミックをアニメーション映画化した『ぼくらのよあけ』(10⽉21⽇公開)。10⽉19⽇(⽔)、いよいよ今週末に公開を控え、原作・今井哲也の⺟校である中央⼤学にて特別試写会が⾏われ、今井哲也先⽣と⿊川智之監督が登壇。特別試写会後に学⽣からの質問に答えるトークショーを実施した。
本編上映後に盛⼤な拍⼿と共に登壇した今井先⽣と⿊川監督。⺟校の中央⼤学に久しぶりに訪れたという今井先⽣は「不思議な気持ちです。改めて⼤学にこうして迎えられるのは、⼤学で学んだことを活かした結果でしょうか?」と笑いを誘いつつ⺟校でのイベント登壇に嬉しさが滲み出ていた。⿊川監督は「本⽇はお邪魔しています。こうして実際に映画を観た⽅の前に⽴つのは本当に貴重な機会です」と感慨深く会場を⾒渡した。
Q&Aコーナーが始まり、司会から学⽣に呼びかけると早速挙⼿が。アニメーション研究会の学⽣から、研究会のOBでもある今井先⽣へ「研究会のOBが漫画家になった経歴を知りたい」と質問されると、「学祭前は研究会のみんなと模造紙にポスターを描いたりしていました」と今井先⽣は学⽣時代を振り返りつつ、「元々漫画を描くのが好きで学⽣時代も趣味で書いていて、⼤学4年⽣の時に新⼈賞を獲ったので就活をせずに漫画家を⽬指すことになりました。2年くらい地元の書店でアルバイトをしながらネームを出していましたね。その後『アフタヌーン』でデビューして、『ぼくらのよあけ』は2つ⽬の連載です」と漫画家になった経緯を語った。⼀⽅、⿊川監督は最初から“監督”になりたい少年ではなかったそうで、「(悠真たちと同じ)⼩学⽣の頃はSF映画が好きだったので、ミニチュア作ったり特殊メイクをやりたいと思っていました。⾼校の時に、とある映画との出合いをきっかけに映画監督を⽬指すようになりました」と語った。
続いて、「団地の思い出、地球外⽣命体との接触、⼈間とAIの関わり、の三つのテーマが複雑に関わっている印象を持ちました。アイデアのきっかけを聞かせてください」との質問に対しては、今井先⽣は「原作を書いたのが10年以上前なのでうろ覚えですが」と前置きをしつつ、「最初に“昔地球に来て眠っていた宇宙船を子どもたちが⾒つける”という発端から、宇宙船がしゃべったら?宇宙船も子どもたちもどちら側にもロボットがいたら?などとプロットを作っていきました。私は『ドラえもん』がすごく好きなので、“⼈間とロボットが友達”など、影響を受けているところがあると思います」と当時を思い出しながら語った。また、⿊川監督は原作から劇場アニメにする際に「子どもたちがいきいきしている話にしたい」と強く思い、脚本を担当した佐藤 ⼤とアイデアを出し合いプロットを作り、今井先⽣に話の⾻格を提案した経緯を明かした。
また、今井先⽣の作品をいつくか読んだという学⽣からは「今井先⽣の作品に登場するキャクターは繊細でリアルです。気をつけている点はありますか?」との質問が。今井先⽣は、悩みながらも「作品を作るときは軸になることをメインに、どうしたら⾯⽩くなるのかを考えています。その時々に、シナリオが⾯⽩くなる台詞や性格・⾏動を考えることが多いです。例えば『ぼくらのよあけ』では、子どものキャラクターたちは、⼤⼈にとっての理想像的な子どもではないようにしています。また、作者としてハンドリングは難しくなりますが、子どもにできないことはさせないようにしています」とこだわりのポイントを語った。
司会から「劇場アニメでは悠真の成⻑が特に描かれていますね」と話が向けられると、⿊川監督は「原作を読んで、子どものいきいきとした姿やAIと友達になるところを描きたいと思いました。原作が素晴らしくドラマとしてチャレンジングだなと思ったのは“分かりやすい悪役”が出てこないこと。(悪役がいると)そこでアクションができるので全体の話が組み⽴てやすく、ハラハラドキドキし、分かりやすいのですが、この映画ではそういった悪役はいないけど120分の映画として盛り上げなくてはいけませんでした」と話を構成する上での難点を挙げ、「主⼈公の悠真にとって、分かりやすい敵はいませんが何かと戦っているように感じられるように、映画では原作にはない“団地が取り壊される”という要素を⼊れて、“引っ越しの準備をしない”など悠真なりの信念や反抗を描きました。分かりやすい悪役がいなくても120分のドラマが描けるんだという発⾒がありました」と制作秘話を語った。
続いて今井先⽣に「漫画家⼈⽣で⾟かったこと」を伺いたい学⽣からの質問に、今井先⽣は「締め切りまでに原稿を書くのは毎回⼤変ですね。アニメ化になると嬉しいのですが、アニメサイドからシナリオやデザインなどチェックするものが⼤量に発⽣するので、なんて⼤変なんだ!と思います」と述べ、「『ぼくらのよあけ』は2011年1⽉発売号から連載し、途中に震災があり、製紙⼯場が被災して雑誌が出るかどうか分からなくなった時がありました。それでも、描けば誰かが読んでくれて少しでも元気になってくれるかなと思いながらネームを描いてました」と連載時のエピソードも明かした。
⼀⽅、⿊川監督は、アニメーション制作について聞かれると「⾟くない作業はないですね。産みの苦しみは漫画もアニメも同じだと思います」と苦笑い。「ただ苦しく感じるからこそ、想いを込めて作れるところもあって、『感動した』『好きです』と⾔ってくれる達成感は作品を作らないと得られないです。まだ⾒ぬお客さんに向けて作っている感覚は常にありますね」と作品への向き合い⽅を語った。
「原作から劇場アニメする際に、限られた尺で何を描くかの取捨選択」について問われた⿊川監督は「『ぼくらのよあけ』についていえば、脚本の佐藤さんとディスカッションし、”悠真とナナコの関係性““悠真とナナコの初恋物語”として描く⽅向性にしました。本編を観ていただくと、物語冒頭から悠真を追っかけていて悠真が写ってないシーンはほぼありません。⼆⼈に直接かかわらないエピソードはカットしていきました」と述べ、「作品がいろいろな⼈から様々に解釈されること」については「意図と違う時はありますが、その⼈の解釈があってるかどうかが⼤事ではないと思います。ただ、伝わることの喜びは⼤きいですね」と語った。
「2049年が舞台ですが、団地があり近未来だけどノスタルジーを感じる世界観が印象に残りました。意識された部分ですか?」】との質問に対し、今井先⽣には「古いものと新しいものが混在している世界観は、現実もそうなっていますよね。元ネタは鉄腕アトムですね。古い街並みとロボットが描かれていて……」と明かしながらも、「現実でも、例えば、21世紀になったら建物や道路などが⼀⻫に⼊れ替わるわけではなくて、建物は古くて電話線だけ新しいなどといったように少しずつ変わっていきます。このキャンパスには10年ぶりに来ましたが、新しい建物があったり、建物は同じでも机や椅⼦が変わっていたりしますよね」と本⽇の会場も例に挙げながら⾃⾝の学⽣時代も振り返った。
登壇者:黒川智之監督、今井哲也(原作)
(オフィシャル素材提供)
公開表記
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ
10月21日(金) 全国公開