映画『戦場記者』の初日舞台挨拶が東京・角川シネマ有楽町で行われ、須賀川 拓監督、ジャーナリストの青木 理、村山祐介が登壇した。
この日のためにロンドンから緊急帰国した須賀川は、「今日はありがとうございます。こうして劇場に入ってみて、最初に頭に浮かんだのは、取材に応じてくれたウクライナの人たち、アフガニスタンの人たちです。これだけたくさんの方たちに観ていただけていますよと伝えたいです」と場内の観客を前に感慨深げに挨拶した。
実はこの日初めて須賀川と会ったというゲストの2人は、本作を観た感想を聞かれると、青木は「記者って実はすごい取材してるんですよ。その中の9割近くはメモ帳の中に消えていってしまうんです。それを新しい形で、たっぷりとした尺で観てもらうとまた違うものになるというのは、ご覧になればわかると思います。素晴らしい取り組みだと思います」とコメント。
村山も「映画を通じて皆さんも感じる部分だと思うんですが、ヤベーヤベー!とか、スゲー!とか、すごい距離感のない形で語りがあって、気づくとアフガニスタンとかウクライナの戦場に一緒に連れていかれるような気になる。そこで須賀川さんが感じた匂いや衝撃が、彼を通じて現場の実体験として観ながら感じることができる。同じような現場で取材している立場なので、ちょっとくやしい思いで観させていただきました」と同業者ならではの視点でコメントした。
業界の先輩である2人の感想を聞いた須賀川は「青木さんからはもっと厳しい言葉が来るんじゃないかと身構えてました(笑)」と笑いを誘いつつ、「映画をご覧になっていただいた方からは称賛の声をたくさんいただいていますが、一方で自分の頭の中の引き出しでしかものは作れてないので、いろいろな方に観ていただいて、『この取材が足りないんじゃないか』、『この目線は良くないんじゃないか』など建設的な批判など、いろいろな声をもらえれば、どんどん次の取材に活かしていきたいと思っています」と恐縮しつつコメントした。
須賀川の取材模様について聞かれた青木は「テレビや新聞などメディアの環境が激変する中で、国際報道ってテレビだと視聴率が取れない。新聞で一番読まれないのが外報面って言われているんです。各社どんどん予算も人も減らす傾向にあるのですが、僕らは未だに旧来メディアから情報を得ることが多いし、ネット上の情報もほとんどが旧来メディアからの情報が1次情報。そうすると人々も世界の情報が分からなくて発想が内向きになってしまう。そうならないようにするためにも、今回の映画が我々日本のメディが直接取材をする大切さを知る機会になると思います。この二人のような方が現地で取材した情報を読めるという、玉稿みたいなことを考えてほしいです」と日本のメディアにおける国際報道の現状を解説した。
村山も「今回の映画でなるほどなと思ったところは伝え方です。これまでのマスメディアの伝え方って一方的に情報が送られてきて、そこで入ってくる情報って幕の内弁当みたいで、バランスを考えて並べられている病院食のようなものでした。須賀川監督のスタンスって最初から最後まで視聴者と同じ方向を向いている。取材のプロセスまでを全部さらけ出して、見ている人は須賀川監督と一緒に状況を理解していく。YouTubeの時代になって、伝え方も変化していく中で、皆さんも実は幕の内弁当の厨房が見たいというのもあるんじゃないかと思うんです。どんな料理人が、素材をどこから持ってきて、どんな思いで調理をして出てきたものなのか。これまではブラックボックスにされてしまっていて、出てきた情報が本当なのか、切り取ったものなのか、フェイクなのか、その判断材料はテレビ局や新聞社の中で処理されてしまっていたんです。そのプロセスが見えるようにできたことで、須賀川監督がそのような思いに至った過程が分かるし、それを見た人がそれぞれの考えを深めていくことが出来る。私自身もプロセスの伝え方を試行錯誤する中で、これはちょっと悔しいなと思いました」と同じ記者だからこそ分かる、報道の在り方について話した。
村山の話を受けて須賀川は「メディアに対する不信感が社会に蔓延していて、これまでの報道ってちょっと偉そうで、できた幕の内弁当を『これ美味しいんで食べて下さい』っていうスタンスだったんですよね。メディアの仕組み上、制限があって全部は見せられなかったんですけど、「なんで信じてくれないのか」という強い思いもあったんです。だったら全部プロセスを見せてしまえと。YouTubeで出すものはほぼ無編集で、編集点を作らないようにしゃべり続けるんですが、語彙力が少なくて「ヤベー」とか「スゲー」しか言ってないんですよ(笑)。日本語の勉強を頑張らないといけないのですが……。プロセスを見せることによって、切り取った部分が本当にそういうことなんだと、一切湾曲したり誇張してないということを、もう一回信じてもらいたいという思いで取材しています」と自らの取材信条を冗談を交えつつ語った。
青木は本作の1番好きなシーンについて聞かれると、「映画の冒頭で須賀川監督が『ニュースなんてしょせん消費されるだけでしょ。だから半分これ意地でやってるんですよ』と言っているシーンがありますが、現場を走り回るモチベーションって何なのかなと。さっき須賀川さんと話したら、警察周りの取材もされていたそうで。僕も警察周りの記者をやっていたんですが、そんなに面白いものでもないし、使命感と言われたらそれもちょっとピンとこない。なんなのかなと考えてみると、そうか、意地かと。あの“意地”という言葉が好きで、なんで須賀川さんは紛争地を走り回ってイスラエル当局にマイク向けたり、べらべらしゃべって駆け回ったり、なんでこんなことしてるのかと。やっぱり意地なんですか?」と須賀川に話を振ると、「まあ意地ですね(笑)」と苦笑いで答えた。続けて須賀川は「意地で伝え続けないと、絶対に伝わることのない物語ばかりだと思うんです。ただ使命感だけだとたぶん持たないですね。使命感は大切だと思います、紛争地の実態を伝えることで、支援機関に話が伝わったり、議論になったりというということを期待はしていますが、崇高な使命感だけではやっていけないというか。もちろん中村(哲)先生のような天使のような方も。じゃあ何故、現場にこれだけ居続けるかとういうと、やっぱり意地なんですよね。そこに気づいてくれてうれしいですね」とコメント。さらに青木は「今回の映画で、ガザでイスラエル軍のピンポイント爆撃でビルが倒壊して、家族を失ったお父さんの映像を見ると、僕のような活字で取材してきた人間からすると、どれくらい読者に伝えることが出来るのか。相当難しいと思います。あの映像を観ると、当たり前だけど同じ人間がこういう目にあっているということが伝わる。そこを使命感なのか意地なのか分からないけど、記者が走り回っている。あの映像の強さはちょっとうらやましく思いますね」と、須賀川の取材スタイルを称賛した。「褒めすぎですか?」との青木のコメントには「褒められすぎてちょっとドキドキしています」と恐縮しっぱなしな様子の須賀川監督だった。
須賀川は最後に「この映画は皆様に届けたいという思いがゴールなんですが、この先、皆さまが人生のどこかで支援の懸け橋になるかもしれない、お子さんに話をするかもしれない、友達に話をするかもしれない、否定でも肯定でもどちらでも良いです。知ることによって次のムーブメントを起こすきっかけになります。この映画がきっかけになって、未来に起きる戦争・紛争を減らしたい。その力は絶対にあると思います。その最初のきっかけになって欲しいと思って作りました」と報道の力で戦争を無くしたいと希望を込めて挨拶し、イベントは終了した。
登壇者:青木 理(ジャーナリスト)、村山祐介(ジャーナリスト)、須賀川 拓監督
(オフィシャル素材提供)
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配給:KADOKAWA
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