映画『エゴイスト』のプレミア上映会が都内で行なわれ、キャストの鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、ドリアン・ロロブリジーダと松永大司監督が登壇してクロストークを繰り広げた。
本作は数々の名コラムを世に送り出してきたエッセイスト高山 真の自伝的小説「エゴイスト」の映画化。ファッション誌の編集者・浩輔(鈴木)は、シングル・マザーの母(阿川)を支えながら暮らすパーソナル・トレーナーの龍太(宮沢)と出会い、惹かれ合っていく――。登場人物たちの心情に寄り添うドキュメンタリー・タッチでリアリティ溢れる映像が、親密な時間の温度感や、愛するがゆえに生まれる葛藤を繊細に伝えている。『トイレのピエタ』(15)などの松永大司監督がメガホンを取り、撮影現場にはLGBTQ+インクルーシブ・ディレクターとインティマシー・コレオグラファーが携わっている。
浩輔役を務めた鈴木は「美しい映画が出来ました。2人(浩輔と龍太)が存在する空間を楽しんでください」と挨拶。作品については「浩輔がちょっと自分に似ていると思ったんです。やるべきご縁じゃないかなと思いました」と出演への思いを振り返る。
オファーをもらって、“なんて美しい物語なんだろう”と思い、すぐ出演することを決めたという龍太役を務めた宮沢は、「やっと皆さんに観ていただけます」と感慨深げな様子。「現場では亮平さんというより浩輔さんに引っ張ってもらって、浩輔さんと龍太として信頼関係が生まれていました。僕は浩輔さんに救われた感覚のほうが強いかもしれないですね」と話す。
鈴木は「松永監督の演出方法は、台本にないこともしゃべっていいし、しゃべらなくてもいいし、自由というか、こういう気持ちでここに向かってくれればいいというような演出方法でした。(そういう演出法だと)朝からずっと浩輔のままでいなければならなかった。なので、ずーっと氷魚くんも龍太として見ていました。氷魚くんを氷魚くんとして見られるようになったのは最近ですね」とコメントした。
浩輔と龍太、歩道橋での2人の印象的なキス・シーンについて、宮沢は「浩輔さんが先を歩いていて、後ろから僕が『浩輔さん』と呼んで、振り返ったところをチュッとキスをするシーンなんですが、何回かテイクを重ねるうちに、松永監督から『浩輔さんじゃなくて、亮平さんって言ってみて』と指示がありました。監督は新鮮な、新しい反応を求めたんだと思います」と撮影秘話を披露した。
鈴木も「松永監督はサプライズが多い。撮影まちでボーッとしていたときに、そばにカメラがあって撮られたりしていた(苦笑)」と現場を振り返っていた。
鈴木は撮影について「描写がリアルであるかどうか。世間に与える影響がどうか。ステレオタイプを助長しないかどうかを専門のスタッフがチェックしながら進められました」と話す。宮沢も「アドバイスをいただけるので、(担当のスタッフが)いらっしゃることで自由にお芝居ができた」と話した。
松永監督の熱烈オファーで出演が決った、龍太の母・妙子役を演じた阿川は「演技経験はほとんどありませんが、この人と一緒に仕事をしたら面白そうだなと思って……」と、出演を決めた理由を話す。また、「監督の演出一つひとつが面白かった。鮮度の高さというか、こうやってものを作っていくのかということを体験できました」と撮影を振り返る。また、鈴木が素敵過ぎて時々素の自分になり、見とれていることがあったという阿川。そんなときは監督がNGを出したそうだ。作品については「優しさがキラキラ光っている映画です」とアピールした。
当日、素晴らしい衣装でお目見えした、浩輔の友人役の、ドリアン・ロロブリジーダは原作者の高山 真さんと親交があったことを明かし、「映画化されると伺って、『絶対出ます』と申し上げました。素晴らしいキャスト、スタッフの手によって素晴らしい作品になるお手伝いがちょっとでもできることが光栄でした」と話した。劇中は坊主でスッピンの役なのだとか。
松永監督は「ドリアンは映画初出演とは思えない。居酒屋で25分ぐらいずっとしゃべっているシーンをワンカットで撮ったんですが、本当に楽しくてずっと見ていられました」と絶賛し、「いいチームで映画をつくれたなと感じている」とキャスティングに満足げな様子だった。
最後に、宮沢は「日常の些細な幸せがいっぱい詰まっていて、温かいものを感じてなんて幸せな気持ちなんだろうと感じます。愛とは何なのか、エゴなのか、考えるきっかけになると思います。一人でも多くの人に観ていただきたいです」。
鈴木は「僕にとって大切な作品です。映画の最初と最後に“エゴイスト”というタイトルが出てきます。観終わったあと『エゴイスト』という言葉の印象が少しでも変わっていれば、何かしらの影響を与えられたのかなと思います。感想を教えてください」とメッセージを送った。
本作は、第16回アジア・フィルム・アワードで、鈴木が主演男優賞、宮沢が助演男優賞、そして衣装デザイン賞の3部門にノミネートされている。発表は3月。
登壇者:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、ドリアン・ロロブリジーダ、松永大司監督
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:東京テアトル
2023年2月10日 全国公開