『戦場のメリークリスマス 4K修復版』の公開を記念し、お笑い芸人のビートきよしと映画評論家で映画監督の樋口尚文をゲストに迎えたトークショーが開催された。『戦メリ』に出演していないにも関わらず、今回のイベントに登壇した経緯や、デヴィッド・ボウイらとの思い出を振り返った。
第36回カンヌ国際映画祭で、そのテーマを巡って大きな話題を巻き起こした本作は、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしなどの本業が俳優ではない個性的なキャスティングで描かれる戦闘シーンが一切登場しない異色の“戦争”映画。日本軍俘虜となるジャック・セリアズ少佐を演じたデヴィッド・ボウイの美しさと存在感が随所で際立ち、坂本龍一扮するヨノイ大尉が次第にセリアズに惹かれていくさまが描かれる。東洋と西洋の文化の対立と融合という複雑なテーマゆえに企画は難航し、製作費は膨らんだが、ビートたけしがラジオやテレビでネタにしたことで話題が独り歩きするなど、従来の映画プロモーションとは違う展開になったことも功を奏して、配給収入10億円の大島 渚監督最大の大ヒットにつながった。2023年に大島渚作品が国立機関に収蔵される予定のため、今回が最後の大規模ロードショーとなる。
上映前、老若男女でいっぱいになった客席からの盛大な拍手に迎えられ、ビートきよしと樋口尚文が登場。
相方のたけしは出演した一方で、きよしは本作に登場しない。しかし今回のトークショー・イベントのオファーが来たことついて第一声、「なんで僕が呼ばれたのか不思議でしょうがない」と述べ、会場は笑い声の中、明るいムードでトークショーがスタートした。
続けて、「ぼくも本当は出演する予定だったんですよ」と話し始めるきよしに、「出演していたはずのきよしさんが出てらっしゃらないことについては、いろいろな都市伝説があるので、今日は真相をぜひ語っていただきたい」と前のめりに尋ねる樋口。
それに対しきよしは、バラエティ番組「笑ってる場合ですよ!」にレギュラー出演していた当時、大島監督から映画出演のオファーがきたことを回想し、なんと生放送中に「戦争映画に出るんなら頭刈っちゃえって、坊主にさせられたんですよ」といきなり驚きのエピソードを明かした。
そうして坊主となり、撮影地ラロトンガ島へと向かったきよしだが、島での夕食中、「うちの娘と結婚してくれ」と現地の住人にお願いされる出来事が。当時のラロトンガ島では、男性は別の島に出稼ぎに出るため、女性ばかりだったという知られざる背景を明かすとともに、「(既婚者だったから)結婚したら、重婚で刑務所入れられちゃうからね」と話し、会場の笑いを誘った。
また毎晩ほとんどの映画関係者が集まる夕食会場には、デヴィッド・ボウイが毎日のようにギターを持参し、目の前で歌を披露したという贅沢なエピソードも登場。実際に会ったボウイの印象を聞かれたきよしは、「大変気さくな方で、映画で見てもかっこいいですけど、近くで見たらすごくいい男でかっこよかった」と懐かしそうに語った。
飛行機の都合できよしのラロトンガ島滞在は1週間のみだったそうだが、連日の雨天により、撮影はなかなか進まず。ようやく晴れた最終日に大島監督から、「きよしさん、これね、ワンカットしか出番が撮れないんだよ。だからこれ……全然出ないほうがいいんじゃない? 全然出ないで帰ったほうが、ネタになるでしょ。ギャラはあげるから」との提案が。それに対しきよしは、「いいですよって喜んで帰りましたよ」とサラリと明かした。そして大島監督の予言通り、40年がたった今、出演していない映画のトークショーに登壇するという”ネタ”になっている。
先に決まったたけしの戦メリ出演の話を聞いて、どう思ったのか?という樋口さんの質問に対しては、「大島監督は異色の俳優を並べて撮りたかったんでしょうね」と語り、生放送中に丸刈りになり、撮影地まで赴くも出演せず帰ってくるという自身の境遇については、「現地で出番前に頭刈るならまだしも、坊主頭になった意味がなかった」と感想を述べ、笑いに包まれながらイベントは幕を閉じた。
そんな『戦場のメリークリスマス 4K修復版』は、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、立川シネマシティ、アップリンク吉祥寺ほかにて連日満員御礼の大ヒット上映中。
登壇者:ビートきよし(お笑い芸人)/樋口尚文(映画評論家・映画監督)
『戦場のメリークリスマス 4K修復版』
監督・脚本:大島 渚
脚本:ポール・マイヤーズバーグ
原作:サー・ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影の獄にて」
製作:ジェレミー・トーマス
撮影:成島東一郎
音楽:坂本龍一
美術:戸田重昌
出演:デヴィッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉、内田裕也ほか
(1983年、日本・イギリス・ニュージーランド、上映時間:123分)
協力:大島渚プロダクション
公開表記
配給・宣伝:アンプラグド
1月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次“最終”公開中
(オフィシャル素材提供)