1967年に放送され、放送直後から抗議が殺到、閣議でも偏向番組、日の丸への侮辱として問題視され、郵政省電波管理局がTBSを調査するに至った、TBSドキュメンタリー史上、最大の問題作と呼ばれた作品が、半世紀の時を経て現代に蘇る。『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』が2023年2月24日(金)より角川シネマ有楽町、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国にて公開となる。
本作の公開を記念いたしまして、本作のメガホンをとった佐井大紀監督と、年間100冊以上の本を読むという芸能界きっての読書家であるスピードワゴンの小沢一敬を招き、公開記念イベントが開催された。寺山修司の魅力や本作に込められたトリックなどについて話した。
小沢一敬がこよなく愛し、人生の教科書としていた作家・寺山修司が、56年前の1967年2月9日にテレビという公共の電波を使った壮大な実験番組「日の丸」。それを佐井大紀監督が半世紀の時を経て2022年の現代にリブードさせた本作。過激で挑発的な街頭インタビューを行った「日の丸」という番組に込めた寺山修司の問題定義、そしてトリックとは? 没後40周年を迎えた今なおも人気を誇る寺山修司の魅力について語り尽くした。
映画上映後、会場にやってきた小沢は「僕は寺山修司さんという方が子どもの頃から好きだったんですが、寺山さんがこういう番組を昔につくられていたことを知らなかったので。いろいろな意味で面白い体験をさせていただいて。うれしい時間でした」と挨拶。今回の映画についても、「僕の思う寺山さんというのは、けっこう軽やかな人というイメージ。それこそ実験、挑戦をする人、というのが寺山さんらしいなと思っていて。だから佐井監督も実験、挑戦をされたのかなと思いました」と続けた。
佐井監督も「小沢さんがおっしゃった軽やかさというのは本当にそうだと思う。日の丸というセンシティブな題材を取り込んで、観ている人の気持ちに波風を立たせるというのは、寺山さんの知的さだと思う。そういうユーモアと、社会に突きつける刃のようなところが、寺山さんの軽やかさ、カッコ良さかなと思っていて。それが寺山さんのなさった挑戦を自分もやってみて体感したところです」と振り返った。
小沢は、寺山のどんなところが好きなのか。「今の世の中ってどうしても情報量が多いから、自分の世界観とかもこういうものだと決めつけてしまいがちだけど、僕の好きな寺山修司さんは、視点を変えれば面白いものはいっぱいあるよ、という気づきをいつもくれる人なんです」と語った小沢は、寺山の代表作である『書を捨てよ町へ出よう』について「あのタイトルには何か意味が隠されているんじゃないかなと思っていたんです。寺山さんって短歌とか俳句をやられているじゃないですか。だから『書を捨てよ町へ出よう』を英語にしたら、『Go City Go(5・7・5)』という、俺の言葉遊びなんですけど。でも寺山修司さんならひょっとして、と思わせる魅力があるなと思いますよね」と新説を提唱し、会場を沸かせる。
そして小沢は、番組内で「日の丸をどう思いますか?」「日の丸の赤はどういう意味だと思いますか?」といった具合に、街ゆく人に向かって、ただただ無機質にたたみかけるように繰り返される質問について振り返り、「クセになっちゃうんですよね」と笑顔。佐井監督も「あれは寺山さんというよりは、ディレクターの萩元晴彦さんが開発した聞き方なんですが、無機質に聞かれることで挑発されるし、聞かれる人間との感情の交換が生まれないから、聞かれている側の心にあるものしか出てこない。そういったものをすべてそぎ落とした時に何が出てくるのか。人によって、表情とか間とか、反応も違ってくる。それを紡いでいくというところがこのドキュメンタリーのテーマというか、重要な部分でした」と応じた。
さらに佐井監督は「この企画を始めた時に、(番組が放送された)1967年というのが東京オリンピックと大阪万博に挟まれた時期で。この2022年も東京オリンピックと大阪万博に挟まれていて。世の中は変わったんだけど、(後の世から)歴史を見ると、近い感じに論じられる可能性があるなと思って。そこを定点観測的に見たら、どういうものが浮かび上がるのかという興味がありました。だから今やることに意味があるなと思いましたね」とコメント。小沢も「この映画はひょっとしたら、(佐井監督のように)また40年後、50年後に、この作品をもとに実験するクリエーターが出てくるかもしれないなと思いました。何かしらのリトマス試験紙的な感じとして」と語ると、「うれしいですね」と笑顔を見せた佐井監督。すると小沢は「僕はこの作品を観られてうれしかったけど、一個だけ悲しかったことがあって。今日、現場に来て、お弁当は日の丸弁当かなと思って期待したら、サンドイッチでした。残念です」と冗談めかし、会場は大笑い。「洋式化が進んでいるのかもしれないですね」という佐井監督に、「そんなメッセージがあの弁当にあったの?」と驚いてみせた小沢だった。
ちなみに本作のベースとなった番組「日の丸」が放送されたのは1967年の2月9日。「なんで2月9日だったかというと、11日に建国記念日が(祝日として)制定されることになっていたから。その時に愛国心を問いかけようとしたということですよね」と語る佐井監督は、「『日の丸』はね『現代の主役』という、現代の『情熱大陸』みたいなドキュメント番組で放送されたんですが、取りあげられたのが岡本太郎とか藤子不二雄とか円谷英二といった人たちで。その流れで、今週の主役は“日の丸”ですと。その発想がすごいですよね。何の説明もなしにあれが流されていたんですから。よく会社が許したなと。自分も曲がりなりにもテレビマンなので、よく企画が通ったなと思いましたね」と感心した様子を見せた。
一方の小沢は寺山の詩集に収録されている「海を見せる」という作品が好きだという。病気でずっと入院していたために、青い海を見たことがないと語る少女のために、男の子がバケツに海の水をくんできて、少女のために持っていってあげるという。だがバケツの中の海水は、男の子が言うように青くはなかった。男の子は、少女から「うそつき」と言われてしまう。そうした話をせつせつと語った小沢は、「これが僕のテーマなの。報われないんだけどやるという。だけど(海のことは)伝えたい。寺山修司のそういうところにあこがれているんですよ。せつないんだけど、軽やかというところで」とコメント。
その言葉を聞いた佐井監督は「本当にすてきですね。すごく“甘い”なと思いました」とスピードワゴンのネタを踏まえた言葉でコメント。小沢も「そういう時に(甘いと)言ってくれるのはオススメですよ」と笑顔で付け加え、会場を沸かせた。
登壇者:小沢一敬(スピードワゴン)、佐井大紀監督
スタッフ&キャスト
監督:佐井大紀
企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜
チーフプロデューサー:松原由昌
プロデューサー:森嶋正也、樋江井彰敏、津村有紀
総合プロデューサー:秋山浩之、小池 博
TBS DOCS事務局:富岡裕一
協力プロデューサー:石山成人、塩沢葉子
出演:高木史子、村木眞寿美、金子怜史、安藤紘平、今野 勉
語り:堀井美香、喜入友浩(TBSアナウンサー)
オフィシャル・サイト(外部サイト)
公開表記
配給:KADOKAWA
2月24日(金) 角川シネマ有楽町、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)