第35回東京国際映画祭コンペティション部門選出を皮切りにアジア・フィルム・アワード(アジア全域版アカデミー賞)など世界的評価続々!映画『エゴイスト』が、2月10日(金)より劇場公開した。公開2日目となる本日2月11日(土)には、公開記念舞台挨拶を実施。主演の鈴木亮平、共演の宮沢氷魚、阿川佐和子、ドリアン・ロロブリジーダ、監督の松永大司が登壇、本作にこめた思いを熱く語った!
映画上映後、感極まった様子の観客の間からは自然と拍手がわき起こった。そんなあたたかな雰囲気の中、ステージに登壇した鈴木が「映画はいかがだったでしょうか?」と観客に問いかけると、会場からは大きな拍手が。その様子に笑顔を見せた鈴木は「ついにこの日を迎えたなという心境です。いろいろなことがありましたが、それについては今日、皆さんの前で話せたら」とコメント。続く宮沢も「全国公開されたことをうれしく思います。すばらしいキャスト監督の皆さまと一緒にこのステージに立てること、うれしく思っております」と呼びかけた。
昨10日初日を迎えた本作は、全国で満席となる劇場が続出するなど、好調なスタートをきっている。鈴木、ドリアン、そして松永監督は実際に初日に劇場に足を運び、観客の熱量を体感した。宮沢と阿川もSNSなどでその熱量は感じていたという。そんな中、宮沢は「普段はエゴサーチはしないんですが、この作品ではしています。『エゴイスト』と入れると、映画の感想がバーッと出てくるんですが、その中に(鈴木)亮平さんのツイートがあって。昨日、劇場に行ってきたと書いてあったんですが『亮平さん、誘ってよ』と思いました。スケジュール的に行けなかったんですが」と笑いながら付け加えた。
一方の鈴木は、1月19日に行われたプレミア試写会の際に「『エゴイスト』だけにエゴサーチをしますので、どんどん感想を書いてください」と呼びかけていたが、その言葉通り、「ひとツイートも逃さず。批判も称賛も全部見ました。うれしかったですね」と切り出すと、「ほとんどの方が褒めてくれる内容でしたし、そうでない方もなるほどなと思わせるような内容でした。中でもうれしかったのは、この映画を観た時に、SMAPさんの『夜空ノムコウ』の「ぼくの心のやわらかい場所を~」という歌詞が頭に流れてきたという感想。それをはじめとした、いろいろな感想を拝読できてうれしかったです」と笑顔を見せた。
また登壇者たちにとっても、映画を通じて思うことは多かったようだ。宮沢演じる龍太の母・妙子を演じた阿川は「この役を演じて何かが変わったと自覚するのは難しいのですが、たぶん今回の経験は、この先にジワジワと自分の中で育っていくんじゃないかなと思います。今日ここに来るまでは、昨日の(雪の)天気とは違ったすばらしい青空で。これは東京なのかと思うくらいに空気が澄み切っていて。だから今日、この映画をご覧になった方々が、(劇場の)外に出て、この美しい外の空気と、美しい空を見て。これから新しい時間が始まるぞという思いで闊歩して。おうちに帰ってくださるような。そんなことを考えながら青い空を見ました」とコメント。
さらに浩輔の友人を演じたドリアンは「わたしはゲイ当事者のひとりとして出演させていただいて。同じゲイの皆さんからも感想をいただいているんですけど、その中に『今までの日本映画の中では、描き方にしても、キャラクターにしても、なかなか自分のことと思える映画ってなかったんですけど、この映画に関しては、あまりにも自然すぎて。映画であることを忘れてしまうくらい、本当に自分事だし、明日は自分の身に起こることかもしれないと。本当に今の僕たちの映画だよね』という感想があって。その感想がうれしくて。そうした作品に関わらせていただいたこともすごく誇りに思いました」と晴れやかな表情。「クィア映画としても、日本映画史上まれにみる傑作だと思います」と当事者の立場から称賛の声をあげた。
それを聞いた松永監督も「映画ってひとりでは作れなくて。原作の高山さんをはじめ、(書籍の)編集の方、プロデューサーなど、いろんなひとたちが関わっている。本当にいいチームでやらせてもらっているなと、しみじみと感じております」と語ると、「ありがとう、みんな!」と登壇者たちに呼びかけた。
そして最後のメッセージを求められた鈴木は、「この映画には答えがないと思うんです。観ていただいた方がこれを愛と思うか、エゴと思うか、依存しあっているだけの関係だと思うのか。本当に人それぞれだと思います。もしかしたら、これからの人生のどの瞬間に観るのかということによっても、捉え方が全然違う映画なんじゃないかなと思います。分かりやすいものを提示するのではなく、いろいろなものを提示しているこの映画を誇りに思っております」とコメント。
さらに「これまで何度か、この映画は作られないんじゃないかという瞬間がありました」と続けた鈴木は、「僕も原作に感動して、ぜひやらせていただきたいとまわりを説得して。演じさせていただくことになったのですが、届いた台本を見て、監督に『これじゃやれない』と電話をしたこともありました」と告白。さらに「その時に監督がおっしゃったのが、『僕を信じてくれ。僕が作るのは、この脚本から役者がリハーサルをして、演じているのを観て、どんどん生き生きとしたものにしていくんだと。僕の作品はこの台本だけでは伝わらないんだ』と一生懸命説得してくださったんです」と明かしてみせると、「この映画を観て、皆さんの表情を観ていると、本当にあの時、監督を信じて良かったなと思います。こんな作品が出来上がるとは思いませんでした。ありがとうございます」と松永監督に謝辞を述べ、頭を下げた。そんなやり取りに、会場からは大きな拍手がわき起こった。
そんな鈴木の瞳はいつしか涙でうるみ始め、さらに言葉を絞り出すように、「この作品を生んだのは高山 真さんという方で。その方がいなかったら、今日ここで皆さんにお会いすることはありませんでした。残念ながらこの映画の最終決定を聞くこともなくお亡くなりになってしまったのですが、ひとりの人間が遺したものが、いかにいろいろな人に影響を与えるのか。人生って突然終わることもあるけど、ひとりの人間が世の中に与える影響ってすごいなと、今日あらためて思っています」とコメント。さらに「高山さんはあまり天国という言葉は信じていないと思うんですが、それでも今日は天国の高山さんに感謝したいと思います」と呼びかけ。高山さんを生前からよく知るドリアンも、その鈴木の言葉に思わず涙ぐんでいた。
さらに宮沢が「1年半ほど前に撮影して。その時は僕たちのすべてを注いで、熱い気持ちで挑みました。どの作品もそうですが、公開されるまでにはたくさんの不安があって。僕たちがやったことが果たして正解なのか。ちゃんと届くのかという不安があって。時には押しつぶされそうになった瞬間もありました」と正直な思いを吐露すると、「だからこうやって皆さんの前でこうやってこの作品を公開できることがしあわせでいっぱいです。たくさんの方に届いているのもうれしいですし、この作品は10年後、20年後、30年後も生き続けて、より多くの人に届く作品だと信じています。『エゴイスト』という作品は走り始めたばかりなので、多くの方に届くことを願っています」とメッセージ。
そして松永監督が「亮平も言うとおり、いろいろな解釈がある映画だと思いますし、それは覚悟の上で作りました。だからこそ多くの人に観てもらって、考えて、議論してもらって。その考えは違うんじゃないかとか、その考えはいいかもしれないなど、議論してもらうこと、考えてもらうことが、僕らがこの作品をひとつの意義だと思います。純粋に考えてもらえるようなきっかけになればいいと思います。この先は皆さんの力でこの作品を育てていただけたら」と呼びかけた。
登壇者:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、ドリアン・ロロブリジーダ、松永大司監督
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:東京テアトル
2023年2月10日 全国公開