イベント・舞台挨拶

『別れる決心』トークイベント

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 いよいよ公開を今週に控え、TOHOシネマズ 六本木では、パク・チャヌク監督の『別れる決心』『お嬢さん』2本立て上映を開催! 上映後には、在米映画評論家の町山智浩をオンラインゲストとして招き、最新作『別れる決心』を徹底解説した。

 まずは、映画を観たばかりの観客からの質問を募集し、最初に《この映画では、主題歌に『霧』という曲が使われ、霧の街も描かれていますが、これはソレ(タン・ウェイ)とへジュン(パク・ヘイル)2人の心情を表しているのでしょうか?》という質問が。町山はドイツでの本作のタイトルは『霧の中の女』であるとした上で、「劇中では、主人公のへジュンが目薬をさすシーンや目のアップのシーンなどが度々出てきていて、この映画は『見る』ということを大きなテーマにしているのですが、一方で互いが愛し合っていても『見えない』という矛盾したことも描いています。それは、歌詞にもある霧の中を進んでいると目を開けていても何も見えないという恋愛の心理状態を表していると思います」と返答。本作は、たくさんの伏線や隠し要素が詰められていることも話題で、繰り返し見たくなるとの声も多い。
 続いてトークに移ると、町山は「この映画は、ディテールを積み上げて作り上げられている作品で、パク・チャヌク監督は今まで強烈なバイオレンスとセックス描写が多かったのですが、本作ではそこはかなり抑え目です。今回、監督は【普通の人の映画】を撮りたいと言っていて、スウェーデンの刑事小説『刑事マルティン・ベック』シリーズで描かれるような普通で真面目な刑事が恋に落ちていく映画を撮りたいというのが最初の発想だったそうです」と本作の成り立ちについて紹介。さらに監督は、【『愛している』と決して言わないラブ・ストーリー】を作りたいとも語り、脚本家のチョン・ソギョンには『逢びき』(1945・デヴィッド・リーン監督)を見ておくように伝えたということも明かした。続けて町山は、「『逢びき』では、たまたま出会った男女が、ふとしたことをきっかけに恋に落ちてしまう瞬間を描いていますが、セリフは無くても観客に恋に落ちた瞬間が分かる作品です。愛しているとは言わずに人が恋に落ちていく様子を描きたかったのだと思います。本作ではヘジュンが、ソレを取り調べる際に高級寿司を頼むシーンがあることについて、『好きな人には高級な寿司を頼む』という表現もありましたね」と話し、パク・チャヌク監督のギャグのセンスも光るシーンもあると語った。
 さらに、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958)との類似点も言及されているが、町山は「監督自身は特に意識していなかったようなのですが、チョン・ソギョンさんは『意識した部分はある』と答えていました」と紹介。同作の登場人物・ミッジは、ヒッチコック監督の妻であるアルマ・レヴィルを投影しているとされているが、ヘジュンの妻のキャラクター構築はミッジを参考にしたのだという。


 続けて、本作を見ていて印象に残るものの一つとして『色』を挙げ、「ソレの部屋の波の柄の壁紙や、彼女の着ている緑色のような青色のようなドレスだったり、とにかく全編通して【緑色】が出てきます。それ以外には、最初の死んだ夫のコートや、ソレの洋服だったり、真っ赤な血であったりと緑の補色である【赤色】も多用されたり、緑色のプールに真っ赤な血が描かれていたりと、緑と赤が常に画面に映し出されています」と紹介し、「この【緑】というのは、ソレの壁紙からも分かるように【海の底】を表していて、ソレが不眠症のへジュンを寝かしつける際に、『海の底をイメージして、クラゲになれば喜びも悲しみも感じません』と呟くシーンがありますが、これは彼女がそういった存在になりたいということを表しているのでしょう」とソレの心理について解説した。
 さらに、冒頭の射撃のシーンについては、「よく見ると、後輩の銃弾は乱れていますが、へジュンの銃弾は百発百中です。さらに、へジュンはたくさんのポケットのある洋服を着ていて、そこから必要なものを次から次へと出してみせます。彼は、用意周到で射撃も上手く、整理整頓をきちんとしているすごく優秀な刑事なんです」とへジュンのキャラクターも分析。続けて、「だからへジュンは未解決事件というのが許せない性格で、自分の部屋にそういった事件の写真を貼っているのですが、それを見たソレは未解決事件に嫉妬をするという非常に変な恋愛関係ですよね」とした上で、「この二人は愛し合っているという確認もしなければ、話し合ったりもしないので、お互いに何を考えているかも分からないんです。でも、そのように“霧の中を進んでいるような時”や“未解決事件”の時が、“愛”であると描いている映画なのだと思います」と本作を解説。イベントは盛況のうちに終了となった。

登壇者:町山智浩

(オフィシャル素材提供)

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ
 2023年2月17日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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