2013年10月、高齢者売春クラブが警視庁に摘発された。クラブの会員数男性1000名、女性350名、最高齢は88歳。まさに超高齢化社会の日本が抱える、老人の孤独死、介護問題、おひとりさま問題などの不安が反映された事件――この事件をもとに、『ソワレ』の外山文治監督がオリジナル脚本を手がけた社会派群像劇『茶飲友達』。
同作は、『カメラを止めるな!』を製作したENBUゼミナールのシネマプロジェクト第10弾で、『ソワレ』の外山文治監督が、2013年に起きた高齢者売春クラブ摘発のニュースから着想を得て、超高齢化社会の現代日本が抱える閉塞感や寂しさなど様々な社会問題を描いたオリジナル映画。主演の岡本玲をはじめ、本作のワークショップ・オーディションには応募総数677名の中から選ばれた33名のキャストが参加(その年齢差57歳!)。撮影前に行われたクラウドファンディングでは、制作応援サポーター767人、目標額をはるかに超える800万円超が集まるなど、すでにインディーズ映画ファンの間では注目を集めていた。
2月4日から渋谷ユーロスペース1館で公開された本作は、平日もシニア層を中心に動員は好調で、週末は連日満席の大盛況。3月3日現在、公開から1ヵ月も経たずに51館もの公開劇場が決定している。さらに、3月10日からはいよいよ関東首都圏でも拡大公開がスタートする。
まさにカメ止めブームの“シニア版”というべき社会現象を巻き起こしている中、3月3日(金)より、TOHOシネマズ シャンテでの拡大上映が始まった。同日16:00の回上映後の舞台挨拶に、主演の岡本 玲、共演の磯西真喜、瀧 マキ、百元夏繪、外山文治監督が登壇し、詰めかけたたくさんの観客を前に、舞台挨拶を行った。
高齢者売春組織“ティー・フレンド”を運営する主人公・佐々木マナを演じた岡本は、反響を受けての実感を求められると「予想を大きく超えて、こんなに広がっていくと思ってはいなかったです。皆様からアツい感想をいただいて、映画というものは、こうやって皆さんのところに届いていくんだな、育っていくんだな、巣立っていくんだなと初めて実感しました。本当にすごいです! 皆さんのおかげです」と喜びを爆発させた。
一方、ティー・ガールズのひとり、松子を演じた磯西は「思いがけない人から『観ました』と連絡をもらっています。その上、観てくださる方の年齢やジェンダーで、本当に感想がさまざま。こんな嬉しいことが起こるなんて」、ガールズのナンバーワン・道子を演じた瀧は「この作品が若い方たちにどう届くかなと心配だったんですが、若い方たちもたくさん観てくださっている。その反響でいま、こうしてシネコンのステージに立てているのが嬉しいです」、同じくガールズのひとり・千鶴子役の百元は「撮影現場の空気感が伝わっているんだと思います。これから全国の劇場を網羅したいと思います!」とそれぞれ実感を語った。
外山監督も「1ヵ月前はお客さん入ってくれるのだろうかと思っていました。そもそも2月は大きく取り上げられる名作がたくさん公開されていたのもあり、『茶飲友達』は映画業界にあまりマークされていなかったような気がします。このささやかな映画がどこまで広がるかは未知数だったので、今の状況には全員びっくりしています」と、熱気あふれる会場を見渡しながら万感の表情。
印象的だったシーンの質問に対して、岡本と磯西はマナと松子がお別れするシーンを振り返る。磯西さんが「ものすごく複雑でしたね。リハーサルの時にすごく泣けちゃって……。でもそういうものじゃないような気もしたので、とても難しいシーンでした」と話せば、岡本も「あのシーンは、役柄の自分と、本当の自分のバランスが取れなかったです。本当に寂しくて涙が止まらないんだけど、涙を流したところでお客さんに何が伝わるのかという葛藤もあって、とにかくすごく難しかったんですよ」と述懐。外山監督も「監督としてああいうシーンに立ち会うことは滅多にないので、撮り直しが効かないものを扱っているのだなと思いました」としみじみ。一方、ナンバーワンの道子を演じた瀧は「台本をいただいた時に、道子はあたしだって思っちゃったんですよ。普段は全くそんなこと思ったことないのに……すみませんね(笑)。お客さんとのシーンでは、岩崎宏美さんの『聖母たちのララバイ』が頭の中に流れてきちゃって、“あたしは聖母なんだ。この人たちを救ってあげているんだ”という気持ちで演じていました」と振り返り、ポスタービジュアルにも写真が起用された百元は、「あのシーンは、“優しさのかたまり”にしようと思ったんです。その優しく接しようという気持ちが伝わったのか、写真に使っていただけたのは嬉しいですね。あと、『手を見れば歳が分かる』と言いますけれど、写真の手にも年齢が表れていますよね」とニッコリ。
高齢者売春というシリアスでセンセーショナルな題材が取り上げられることも多い本作だが、撮影の舞台裏は一転、和やかでチームワークも良かった様子。岡本が「ティー・フレンドが崩壊していくシリアスなシーンで、みんな真剣に集中しているのに、外山監督が今のにこやかで柔らか~い感じで、なぜかカチンコを持ったんですよ(笑)。その様子がなんだかおかしくて……」と明かすと、外山監督も「役者のそばにいようと思ったんですよ。シリアスな雰囲気をなんとかしようと思って(笑)。岡本さんには止められましたけど」と苦笑い。また、瀧は「ティー・ガールズの溜まり場で、私は緊張しているんですけど、シニアの役者さんたちはみんな緊張せずに、ずっと茶飲み話をしていました。そこに若い人たちも加わっておしゃべりに花が咲くこともあって、外山監督に『みんなを静かにさせて』って言われていました」とニッコリ。
改めてこの盛況を受けて岡本は「撮影中は、どうやったらこの作品が世に出ることができるかを、みんなで手探りしながら考えていました。今の熱気は、その“体温のある感じ”が観る方たちにもちゃんと伝わっているんだと思います」。外山監督は「数日前にある人に言われたんですが、(ここまで盛況なのは)寂しさや孤独を抱えている人たちが『この寂しさは、自分だけの悩みだけではないんだ。触れ合いたいと思っているのは自分だけじゃないんだ』ということをきっと映画を通して確かめたかったんだと思うと言われ、そういうこともあるかもしれないと思った次第です」と語り、舞台挨拶を締めくくった。
登壇者:岡本 玲、磯西真喜、瀧 マキ、百元夏繪、外山文治監督
公開表記
配給:イーチタイム株式会社
2023年2月4日(土) 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)