漫画家・浅野いにおによる新境地にして衝撃の問題作を原作にした映画『零落』の3⽉17⽇(⾦)の公開を記念して、公開前夜となる3⽉16⽇(⽊)に、主⼈公の漫画家・深澤の妻で漫画編集者・町⽥のぞみ役で出演、さらに今作で映画初プロデュースを務めたMEGUMIと、⽵中直⼈監督のトークショーが開催された。⽵中監督の映画への取り組み⽅や、それを間近で⾒てきたMEGUMI が抱いた印象、また、数々の⼤監督と仕事をしてきた⽵中監督ならではのエピソードも⾶び出す充実した時間が流れた。
◆映画は、浅野いにおの原作との“セッション”
MEGUMI:斎藤 ⼯さんとお話したとき、2018年ごろ、最初に『零落』のお話を⽵中さんがされたと⾔ってました。
竹中直人監督:⼤好きな⼤橋裕之さんの漫画を映画化した『ゾッキ』をやったときに、⼯から「次に何か準備しているものはあるんですか?」と聞かれて『零落』の話をしたんです。そしたら「僕、読んでます。参加したいです」と⾔ってくれて。「だったら深澤やろうよ!」と始まったんです。
MEGUMI:浅野さんご本⼈にはすぐに映画化にOK のお返事をいただいたんですか?
竹中直人監督:僕はすごく強引な⼈間なんです。気が⼩さいんですけど、やるとなったらとことん強引。それで、浅野さんを僕のラジオ番組にお呼びして「映画にしたいんです!」「映像が浮かぶんです」と直接くどいたんです。『零落』のタイトルが縦書きに出るとか、そういったイメージがどんどん浮かんできちゃって。
MEGUMI:このエネルギーが本当にすごい。⽵中さんは、いつも⾃分で⾏動していかれますよね。今回もこの漫画をやりたいんだとなったら、⾃分で持って⾏動していく。あらゆるところにご⾃分で声をかけて。
竹中直人監督:俳優さんにも事務所を通さずに声をかけるのはルール違反なんですけどね。でも事務所を通していると届かないところで終わっちゃうことが多いから。ところでこの前、MEGUMIが今回の企画にプロデューサーとして参加したきっかけが、僕と飲んで話したときの「酔った勢いだった」っていう記事を読んじゃって。「酔った勢いだったの!?」ってビックリしちゃったよ。
MEGUMI:あ、いえいえ(苦笑)。あのときすごく感動したんですけど、やっぱり初映画プロデュースですから。相当の覚悟がいるので、お酒の勢いもあって「やります!」と。今回は⽵中さんの隣で勉強させていただきました。本当にとにかくなんでも早くて、ロケハンも最初はひとりで⾏かれてましたよね。ぬいぐるみ作家さんとか、画家の伊藤陽⼀郎さんとかも全部ご⾃⾝で決めて連絡を取る。とにかくみんなで⽵中さんの頭の中を⼀⽣懸命具現化していくチームでした。
竹中直人監督:今回はとにかく浅野さんとセッションしている意識が強かったんです。浅野さんの絵という絵コンテがあるにも関わらず、僕の頭の中で、映画の映像としての画⾓がどんどん出て来てしまうんです。すべてはセッション感覚。ロケ場所選びも。だから原作の中にはちふゆの⽥舎に海は出てこないんだけど、⾃分が読み終わったときに頭に海が浮かんじゃって。砂漠のイメージとかね。
MEGUMI:ちふゆといえば、趣⾥ちゃん。あれはちょっと⿃肌⽴っちゃいました。
竹中直人監督:完璧でしたね。漫画そのものだった。とにかく浅野さんがOKしてくれることが⼀番だったので、何を決めるにしても浅野さんにLINEしまくっていたのですが、浅野さんもちふゆに関しては「趣⾥さんがいいです」と即返事をくれました。
◆ラブホテルの美術には特別な思い⼊れが
MEGUMI:今回、実はスムーズに映画化まで進んだわけではないんですよね。チームが出来上がったあとに流れたりもあって、深く傷ついた⽵中さんをみんなで励ましたり(笑)。そんななかで、⽇活さんとハピネットファントム・スタジオさんでこうして実現できた。感謝ですね。
竹中直人監督:⽇活といえば、⽇活スタジオは僕にとって⼀番居⼼地のいい撮影所だったんです。僕は東宝の⻘春映画で育ったんですけど、でもスタジオは、⽇活スタジオが⼀番居⼼地よかった。何ていえばいいのか分からないんだけど、空気が違う。でっかい⾷堂があって、そこに⾏くと、森⽥芳光とか⾦⼦修介とか、根岸吉太郎とか、ある時代を築いた映画監督たちがご飯を⾷べに来るんです。今回初めて、当時とは違いますが⽇活のマークで本編が始まるというのはちょっと思うところはありますね。⾦⼦秀介監督にはカメオ出演していただきました。
MEGUMI:カメオ出演といえば、今回、ゲストの⽅がエグイですよね。
竹中直人監督:エキストラって監督にとって、とても⼤切な存在なんです。今回は、漫画業界という世界の空気を出せる⼈を、普通のエキストラの⼈を呼んだらつまらないなと思って、⾃分の友⼈のミュージシャンや漫画家さん、編集者の⼈たちなんかに集まってもらいました。久住昌之さんとか、ホフディランのワタナベイビー、ドレスコーズとか、俺のバンドメンバーとか。
MEGUMI:⾼⽊ 完さんとか、贅沢なミュージシャンの⽅たちが早朝に居酒屋にいるというすごい光景でした。本当に来るかなって⼼配でしたけど(笑)。
竹中直人監督:⼼配だったよね。でもみんなちゃんと時間通りに来てくれたね(笑)。あと、⽇活の話に戻るけど、カメラマンの柳⽥裕男とも⻑い付き合いなんですけど、初めて出会ったのが⽯井 隆監督の『⾚い眩暈』というロマンポルノ作品だったんです。ラブホテルのシーンには、⽯井監督へのオマージュが⼊っています。⽯井さんの話をすると、僕は泣きそうになっちゃうんだけど。⽯井さんが⾒たらどう思うかなと思いながら、ネオン管を置きました。⽯井さんに対するオマージュをやりたくて、ラブホテルの美術には、全部飾りを付けています。
◆プロデュース業は「楽しい、エモい、⼀⽣続けたい」
MEGUMI:去年、連続ドラマやショートフィルムを作ったりして、今年も映画もドラマも動いているんですが、私、すっごい好きだなと。プロデュース業。楽しいな、エモいなって。だって、⽵中さんと2⼈で飲んで話していたものが、いろいろな仲間たちが加わって、こうして完成して、誰かに伝わっていって、ちょっと励みになりますとか⾔われちゃったりしたら。なんてエモーショナルな仕事なんだろうと。できる限り⼀⽣続けたいくらいの意気込みを、今は持っております。
竹中直人監督:今回、『ゾッキ』と連続して撮れたというのは、ちょっと⾃分としては驚きの感覚に近いです。MEGUMI がいてくれたからかなと思っています。思えば、僕が映画を撮ることができたのは、映画プロデューサーの奥⼭和由さんのひと⾔でした。『226』のときに⾷事をする機会があって、映画の話ばかりしていたら「そんなに好きなら監督すればいいじゃないか。僕が1億出すよ」と⾔ってくれて。
MEGUMI:ええ! かっこいい!
竹中直人監督:本当ですか!?って。それが31歳のときでした。奥⼭さんのその⼀⾔がなければ、僕が今ここにきてトークしていることもありえなかったと思います。
◆あなたを信頼しますということを提⽰していくことが、我々の仕事
MEGUMI:それにしても⽵中さんの現場は、迷いがなくて仕事が早いんですよね。そこが強烈に驚きました。
竹中直人監督:相⼿を信頼する、ということがベースにあってだと思います。MEGUM を信頼する、斎藤 ⼯を信頼する。だからこのカットで、このアングルで撮る。スタッフを信頼する。信頼するから、みんなも芝居ができる。迷っていたらみんなも揺らいじゃう。信頼関係をいかに築くか。⾔葉にすると嘘くさくなっちゃうけど。あなたを信頼しますということを提⽰していくことが、我々の仕事なんじゃないかなと思います。
MEGUMI:⽵中さん、現場で台本を⼀度も⾒てないんですよね。全部覚えてる。
竹中直人監督:間に台本を挟むのが嫌なんです。たまに監督でも助監督でも、台本と俳優に⽬線を⾏ったり来たりさせっぱなしの⼈がいるんですよ。これをカメラの横でやられると、気になってセリフを間違えちゃう(苦笑)。
MEGUMI:それって結局、台本も役者もどっちも⾒てないですよね。
竹中直人監督:そうなんだよ(苦笑)。とにかく⾃分と役者の間に何かを挟みたくない。監督は台本を持ってるものだというイメージを持っていたときもあったけど、でも五社英雄監督も、新藤兼⼈監督も僕がやってきた監督たちはみんな台本を持っていなかった。いや、実際には持っていたのかもしれないけれど、持っていたイメージがない。間に何かが介在していた記憶がない。⾃分の先にストレートに監督がいて、⾃分を⾒て信じてくれている、そんな気持ちになれた。
MEGUMI:素敵ですね。
竹中直人監督:ところで今回、初めてシネスコサイズに挑戦しました。柳⽥のアイデアだったんですけど、初めての経験だったのでどうだろうと思ったんですが、もう辞められないです。シネスコ撮影は、役者の顔を堂々と切れる。上下顔を⾒せない。⾒せすぎない画が撮れる。めちゃくちゃ感動しちゃった。また映画が撮れるんだったら、もうシネスコじゃないと撮りたくないかも。それくらい⼤胆なカットが撮れることに、今回初めて気づきました。
MEGUMI:今の⽇本って前向きに⾏こうみたいな映画はすごくあるんですけど、これだけの⼤⼈の映画って少ない。これはもう「落ちたっていい、そういうときってあるよね」っていうのを全⾯的に肯定している作品なので、混とんとした時代にぜひ観ていただけたらと思いますね。
登壇者:MEGUMI(出演・プロデュース)、竹中直人監督
原作情報
BIG COMICS SPECIAL『零落』浅野いにお
全1巻発売中 小学館・刊
「何やってんだよ、俺」零落(おちぶ)れた深澤がちふゆを追いかけて逃避⾏ ドレスコーズの「スーパー、スーパーサッド」が流れる本編映像解禁!
零落(おちぶ)れた元売れっ⼦漫画家・深澤が束の間の安息を願って、⾵俗嬢・ちふゆを追いかけて⽥舎へ⾏くシーンを初解禁。⽗親の⾞を借りたちふゆが⾼校の時によく聞いていたという曲を⾞で流しながら深澤を迎えに来る。いつもラブホテルでしか会わない“猫のような⽬をした”⾵俗嬢・ちふゆの⼀⾯しか知らない深澤は、少し⼾惑っていた。さらに⻘い空の下、⾵の⾳が鳴る海岸を⼆⼈が歩くシーンも公開。「⾃由でいるのにも才能が必要なんだと思う」と話す深澤に対し「あなたにその才能が?」と尋ねるちふゆ。深澤は⾃分のなかの想いを少しずつ静かに⾔葉にしていく。
ちふゆが⾞で流している曲は、本作の⾳楽を担当したドレスコーズ・志磨遼平が2014年に発表したアルバム『1』(読み:ワン)に収録された楽曲。3⽉8⽇(⽔)に発売となった7inchレコードには、主題歌「ドレミ」と「スーパー、スーパーサッド」のオリジナル⾳源が収録。なお「スーパー、スーパーサッド(劇中ラジオedit)」を聴くことができるダウンロードコードが封⼊されている。本商品は ELR store(ECサイト)と⼀部店舗で購⼊することができる。
「ドレミ」7inchレコード発売中
ELR store:https://kingeshop.jp/shop/g/gNDS-1065/?elr=44598(外部サイト)
販売サイト一覧
https://evilamag.com//uploads/2023/01/dresscodes_7inch.pdf(外部サイト)
[価格]2,000(税抜価格 1,818)
[形態] 7inchレコード
[品番] NDS-1065
[収録内容]
01. ドレミ (映画『零落』主題歌)
02. スーパー、スーパーサッド (映画『零落』劇中挿⼊歌)
公開表記
配給:日活/ハピネットファントム・スタジオ
2023年3月17日(金) テアトル新宿ほか全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)