2023年3月18日(土)、渋谷シネクイントにて、映画『死体の人』公開記念舞台挨拶が行われ、奥野瑛太、唐田えりか、楽駆、草苅 勲監督が登壇。昨日公開初日を迎えたことやこの作品の込めた想いを、撮影のことを振り返りつつそれぞれ語った。
次代を担う才能の発掘と育成を目的として2016年にスタートした、“まだ存在しない映画の予告編”で審査するユニークな映像コンテスト「未完成映画予告編大賞MI-CAN」。本作『死体の人』(草苅 勲監督)は、その派生プロジェクトとして、日本を代表する映画会社のプロデューサーが過去の入選作を審査した敗者復活戦「MI-CAN3.5復活祭」から見事誕生した作品だ。
演じることにかける想いは人一倍強いものの、<死体役>ばかりの売れない役者の不器用な生き方を通して理想と現実の折り合いをつけることの難しさを、そして<生きることと死ぬこと>という普遍的なテーマを草苅監督自身の俳優経験を活かして絶妙なバランスのユーモアとペーソスで描いたハートフルな人間ドラマとなっている。
この日は朝から雨が降る東京。舞台挨拶には、奥野瑛太(吉田広志 [死体の人] 役)、唐田えりか(加奈 役)、楽駆(翔太 役)、草苅 勲監督が登壇。
前日の3月17日に公開初日を迎えたことに、草苅監督は、「自分の映画がこのような劇場で上映していただき、たくさんの方が足を運んでくれて感無量です。感無量って今まで感じたことはなかったんですけど、これこそが感無量かなと思っています」と喜びを噛みしめるように客席に向かって感謝の言葉を述べた。
前日は、同じ劇場で草苅監督がトークイベントを行っており、実は客席に奥野もいたそう。劇場に客として来た理由を聞かれると「僕はエンドロールに歌が入っているバージョンをまだ観ていなかったし、スクリーンで観てみたいと思ったんです。そうしたら監督がトークをしていました」と明かした。
続けて劇場で本作を観た感想を聞かれると奥野は、「この作品は草苅監督を僕が演じているということもあって、客観的には観れていないんですが、でも、初めてスクリーンで観て、そして公開初日ということで、やっと自分の手から離れてお客さんに届ける時が来たんだなって改めて思い感慨深くなりました。」と語った。
主人公が死体役ばかりという設定は、15年以上前から監督が構想されていたそうで、そのことについて草苅監督は、「僕が役者をやっていたという経験があって、そこでもがいていたことを描こうと思ったんですけど、それだけだと寂しいなと思い、[死体役]ばかりの役者の設定にしたら面白いと思ったんです。かなって。その方がこの作品のテーマにしている“生きること”という死生観に近づくとも考えたからです」と話した。
草苅監督自身を演じることについて聞かれた奥野は、台本を読んだ時点でまだ会ったこともない監督のことについて「たぶんこの人って明るくてユーモアがあって、とても前向きな人なんだろう」と感じたことを明かした。
同時に、草苅監督の前で監督のことを演じる戸惑いの気持ちもいっぱいあり、現場では監督を見ながらどうやったら草苅さんっぽくなるか試行錯誤したという。
実際、撮影時に代わりに草苅監督に演じてもらったこともあるそうで、奥野は、「草苅さんが持っている物事に対する優しい目線が、僕にはちょっと足りないなって思った瞬間があってお願いして、草苅さんと唐田さんがお芝居しているのを見ていました(笑)」と振り返った。
デリヘル嬢・加奈役へのアプローチを聞かれた唐田は、自分との共通点を大きくしていこうという観点で「奥野さんと監督と一緒になってキャラクターを作っていきました。現場でたくさんリハーサルをして試行錯誤しながら」と話し、そして、唐田と“加奈”との共通点を聞かれると、「私は頑固な一面があって、一度決めたらそれをやり遂げたいというところがあるので、加奈が妊娠してからの強さが出ていくところを意識して演じました」と、役づくりに絡めて答えた。
続けて“翔太”役へのアプローチを聞かれた楽駆は、「いわゆる“クズ”な翔太ですが、翔太自身のことというよりは、加奈が強さを身につけるために自分はどうすればいいかと考え、とことん追い込めんでいこうと思いました」と話した。
また、役づくりということでは、奥野と唐田はそれぞれ演じたキャラクターの部屋に泊まることもしたという。
ただ、奥野は「役づくりというカッコいいものではなく、大きな声で台本を読めるし、お金もかからないので泊まりました。それに僕が小劇場をやっていた頃に住んでいた部屋の“匂い”も感じたんです」と笑いを誘いつつ泊まった理由を明かした。
一方の唐田は、奥野が役の部屋に泊まっているという情報をスタッフから聞き、それこそ役づくりでそういう方法もあるんだと思って泊まってみたという。その唐田の言葉に奥野は「それは勘違いです。僕は役づくりで泊まったんじゃなかったんです」と種明かし。唐田も「勘違いですか?」と笑いながら答えた。
それでも、実際に“加奈”の部屋で生活することによって、「こういう部屋で過ごしていたら加奈が不安な気持ちにもなるだろうなと実感した」とも唐田は感じたという。
限られた奥野と楽駆の共演シーンは、クライマックスの壮絶なシーンでもある。ただ、そのときのナイフの小道具について楽駆は、「ナイフは、(刃先が)出たり戻ったりするんですけど、戻って出たときの‘カシャッ’っていう音がけっこう大きくて、それは演じながら笑ってしまうところはありました(笑)」と裏話を明かした。
そして草苅監督はそのシーンを振り返って「役者の皆さんのベクトルが揃っていて、その中で加奈だけがこの茶番劇に少しアタフタするという、そのバランスだけを僕は見ながら撮りました。思っていた以上に3人は良い芝居をしてくれました」と、奥野、唐田、楽駆の芝居を絶賛した。
奥野演じる“広志”の両親(演:きたろう、烏丸せつこ)は、息子の出演シーンをVHSに撮りためてダイジェストにしている。これについて、キャストの皆さんが同じ経験があるかという質問には、それぞれ次のように答えた。
奥野「僕は俳優業を始めるために上京したときに、親と喧嘩するぐらい反対されました。なのでいまだに許してくれていないのかなって思って実家に帰ったら、資料館みたいになっていて、僕自身が出演を覚えていないぐらいのものまでぜんぶ残してあるんです。ただ、将来これを僕が引き継ぐのかってことが気になっています(笑)」。
唐田「私の家族も私が載った雑誌とかを切り抜いてファイルにしてくれていたり、テレビに出ている画面を写真に撮っていたりしてます(笑)」。
楽駆「祖母の家に資料館ほどではないですけど、どこから見つけてきたんだという写真がたくさん貼られています。一方、母のほうは、他の役者さんのサインは飾っているんですけど、僕のサインはひとつもないです(笑)」。
その“広志”の両親がまとめたダイジェスト映像は、実はいろいろな(実際の)作品のオマージュがあるという。その中で、奥野の顔に柿ピーがたくさんくっついているものは、ブラット・ピットの『セブン』に登場する、スパゲッティに顔を埋めている巨漢の大食をオマージュしているという。
その他にも、どの作品をオマージュしているのか気づいた人はSNSなどで書いてほしいとも呼びかけた。
最後にこの映画がどんな人に届いてほしいと思っているかという質問にそれぞれ次のように答え、舞台挨拶の幕が閉じた。
唐田「私も奥野さんと同じような想いがあるんですけど、頑張っている方の背中をそっと推してくれる映画だと思うので、誰かの救いになる映画になったらいいなって思います」。
楽駆「僕も同じことを感じています。明日も生きていけると思える映画だと思うので、たくさんの方に観ていただきたいですし、世の中の腑に落ちないことを考えている方にも観ていただきたいです」。
草苅監督「観る人によって、違うところに心に届くポイントがたくさんありますので、いろいろな人に観てもらえたらなと思っています」。
奥野「誰もが一度は考えたことがある死生観がずっと通底してある作品です。なので、俳優業をやられていない方でも共感しながら観ていただけると思います。そして、昔、あるいは今、小劇場で一生懸命楽しんでやっている方が観たらどう思われるのかなってことにも興味があります。意見を聞いてみたいです。皆さんもこの作品が気に入っていただけましたら、作品に寄り添って一緒に、育てていっていただけるとほんとに嬉しいです。軽い気持ちで『死体の人』を広めてください」。
登壇者:奥野瑛太、唐田えりか、楽駆、草苅 勲監督
(オフィシャル素材提供、文・写真:三平准太郎)
公開表記
配給:ラビットハウス
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