そこに存在しない“誰かの想い”が見える不思議な力を持った青年の切なくも美しい物語。映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』(4月14日公開)の大阪先行上映が行われ、3月31日(金)に大阪ステーションシティシネマで舞台挨拶付き先行上映イベントを実施。満席の会場に、主演の坂口健太郎と伊藤ちひろ監督が登壇した。
上映を観終われたばかりの観客に、「公開が4/14で少しだけ先ということで、まだこの作品が僕らの元から巣立っていない中でこのように鑑賞いただけるのは、何か秘密を共有している感じがしてワクワクします。大阪は久しぶりで、先ほどタコ焼きやイカ焼きを食べました。大阪は、軽やかで賑やかな楽しい街だという印象で、過去に舞台挨拶で来たときには、大阪の皆さんの大きなエネルギーを感じました」と挨拶。大阪を満喫している様子をみせた。
目の前に存在しない“誰かの想い”が見える不思議な力で周囲の人々を癒す主人公・未山役の坂口は本作の魅力を「観た日であったり、誰と一緒に観たかで感想が左右される作品って面白いなと思います。時間が経ったら捉え方も変わるだろうし、また観ていただけると、その時のその人の感覚でまた違った捉え方で観ていただけるだろうし、そういう楽しみ方ができる面白い作品ができたなと思いました」と、何度観ても楽しめる作品であるとアピール。
本作は、「一体、未山は何者なのか?」という秘密が紐解かれていく中で、思いもよらぬラストが待っているが、ラストについて伊藤監督は、「私自身も思いもよらぬラストとなりました。脚本を書きながら、最後こんなことになってしまった、と。最初は未山という存在がよく分からないと思うんですが、“彼という存在が何者なのか”を探りながら観ていくうちに次第に未山という主人公を知りたくなっていくと思うんです。最後まで未山のことを知りたいと思ってもらえる映画にしたく、ラストをあのような形にしました」と説明した。
本作の魅力のひとつが、“そこに存在しない誰かの想い”が見える不思議な力を持つという未山のキャラクター設定。未山というキャラクターについて伊藤監督は「未山はいろいろな人やものと共存する存在です。なので未山は目に見えない“誰かの想い”も含め、すべてのものが見えるのかなと思います。そして、すごく人の気持ちを理解することができる。“共感”の最大級のところに未山がいます」と未山像を解説すると、演じた坂口は、「感じながら、素でやりました」と言って会場を沸かせた。「坂口さんって、人の心をさらっていくというか、人の心を見抜いくのが得意ですよね」と伊藤監督から言われた坂口は、「この作品は、ちょっとしたアテ書きのような感覚で書いてくださったと聞いています。僕と未山は同一人物ではないですが、僕のニュアンスも入ってこのようなキャラクターとなり、ある種の発見でもあったし、驚きでもありました。だから未山を演じるにあたり、僕自身人の念を感じられるかというのは分からないですが、人の気持ちは分かります。でも、むしろ分からないからこそ魅力的に映ったりする瞬間もあると思うんです」と未山像をどう捉えて演じていたかを振り返った。
「自分に未山のような特異な能力があったらどうするか?」と聞かれると、坂口は「知りたくないかな(笑)。知らないから、より相手のことを知りたくなると思うんです。人の気持ちが分かる、人の想いが見えてしまうということに対しては“見たい”とも思うし、人の念や想いが存在するということを僕は信じているし、そうあってほしいと思うので、人の想いが一瞬でも見えたりすると嬉しく感じます」と語る。
お気に入りのシーンについて坂口は「詩織さんの髪を結わいているシーンです。髪を結わいてもらう行為自体がとても無防備じゃないですか。それを当たり前のように、きっと普段から、思いの方向が一致している二人の関係性だからこそ、そういうことができるし、当たり前のようにそういうことができてしまう二人の関係性がとても素敵だなと思いました」と話す。
未山を演じるにあたり気を付けた部分に関して坂口は「監督からは、“未山として存在するということを大事にしてください”と言われました。存在感を出すということではなくて、存在をしてほしい、と。難しかったです。最初は難しいなと思いながら撮影に臨んでいましたが、次第に未山としてただただ存在するということの意味が分かってきました。セリフが多い役ではなかったので、何をもって未山の気持ちを知ればよいのかは、ちょっとした表情や目線や初めて言うセリフなどを、どういう間を使って言おうか……という部分は考えていました。監督の世界観の体現はしたかったので、頂いたオーダーをどう嚙み砕いてどう演技に入れるかというのは苦労しました」と振り返る。伊藤監督からは特にこだわったシーンとして未山の寝ているシーンを挙げ、「未山の寝る姿は、生と死の狭間にいるような眠りをしてほしいとうオーダーはしました。本来役者さんは、何もしないで存在するという芝居が一番難しいと思うんです。素でいればいいということではない。ナチュララルに見せるお芝居は考えることができると思いますが、何もしないで表現するというのが、ものすごく難しいことだと思いますが、坂口さんはそれを体現してくれました」と語り、「皆さん、未山を好きになってもらえましたでしょうか?」と監督からの問いが投げかけると、観客からは大きな拍手が沸き起こった。
最後に坂口から、「僕は映画を観たり小説を読んだりするとき、スッキリ爽快に解決するものってその瞬間はとても面白いんですが、後々思い出せなかったりするんです。そこに考える余白だったり、何であのようなシーンがあったんだろうかとか、何であのような文脈だったんだろうかとか、考える時間がある作品のほうが、時々頭の中で考えてしまうからこそ、思い出せる気がしています。そして考える時間ってとても豊かなものだと思います。この作品は、一緒に観る方や、日によっても変わる作品だと思うので、不思議だけどいい体験ができたなと感じてもらえると嬉しいです」とメッセージが送られた。
登壇者:坂口健太郎、伊藤ちひろ監督
公開表記
配給:ハピネットファントム・スタジオ
4月14日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)