松山ケンイチ×長澤まさみ、初共演の二人が入魂の演技で激突する、社会派エンターテインメント、映画『ロストケア』が3月24日より全国公開中。
29日(水)の一夜目は春山 登を演じたやす(ずん)、原作「ロスト・ケア」の著者である葉真中顕、そして前田 哲監督が上映後にトークイベントを行った。
3月24日(金)より公開した本作。どんな反響があったか聞かれると「両親が観てくれて身につまされる思いだったと言っていて、すごく良い感想も届いてます。あと、映画をきっかけに原作に興味をもってくれる方が多くなった」と葉真中、やすは「Twitterで映画観ましたというツイートが届いていて、両親も観てくれて感動してすごく良かったと、周りの人からも褒めていただいて、ここ何年間で一番褒められたんじゃないかという感じです」と話した。前田監督は「試写の時から反応が今までで一番多かったですね。お一人おひとりの感想がすごく長くて有難くて、嬉しいですし、励みになります」と公開前から反響が集まっていたことを明かした。
すると、葉真中が直木賞作家の小川 哲さんから「映画観たよ」と連絡をもらったことを明かし、「熱心ですね! それはすごい! 小川さんの作品狙ってるんで(笑)」と前田監督が反応し笑いを誘った。
本作で、自宅で懸命に母親を介護する羽村洋子(坂井真紀)を支える役柄を演じたやす。今回のキャスティングについて前田監督は「坂井真紀さんは早めに決まっていて、物語のなかで洋子が幸せになってほしくて相手役を探してたんです。実はこの二人のシーンはこの映画のテーマが集約されてるくらいなんで、すごく(キャスティングに)悩んでいたんです。 面接も何回かしましたし。そして、ようやく見た瞬間に優しいし坂井さんを幸せにしてくれるちょっと不器用で真面目で悪いことしなさそうな方を見つけたんですよ」と裏話を話すと、やすは「えっ僕、面接してないですよ。よく決りましたね! ありがとうございます」と驚いた。
今回の撮影についてやすは、「坂井さんが優しい方で、劇中の羽村洋子さんのキャラクター通りの方で、柔らかく受け止めてくれると言う感じで」と坂井との共演を振り返った。そして、羽村と春山のシーンについて葉真中は「やすさんの笑顔で救われるっていう反応が多いんですよ。介護の厳しいところを画で見せられるとすごいきついところがあるんですよね。柄本 明さんの演技も凄まじくて涙する人も暗い気持ちになる人もいると思うんですよね。絆は呪縛なのかというテーマも描かれているんですけど、やすさんのあの笑顔で信じられる繋がりがあるんだなと改めてそう感じました」と絶賛した。
本作の出演についてやすが「実はキャイ~ンのウド鈴木が試写で観てくれて、最高でしたと絶賛してくれていて」と話すとトークイベントにも駆けつけていた本人が急遽サプライズ登壇! 試写と今日のトークイベントの上映と2回観ていただいたそうで、おすすめのシーンを聞かれるとウド鈴木は「葬儀のシーンで、(羽村の娘役の)小さい女の子との接し方が一番難しいなと思っていたんですけど」と話すと前田監督があのシーンはやすのアドリブだったことを明かした。
映画化までに時間がかかった本作。前田監督は「原作と出会って映画化まで10年かかってしまったんですけど、葉真中先生が僕の熱意をかってくれて映画化まで待っていてくれてたんですよ」と話すと葉真中は「この作品はデビュー作なんで、声をかけてもらえた時は嬉しかったです。ただ難しいだろうなって思ってたんです。難しくて切実なテーマですし、優生思想に接近しているお話なので、原作者としては誤解されたくないというのがあったんですよ。でも前田監督の今までの作品を観てこの監督ならそういう気持ちを分かってくれると思ったんです。時間がかかっても実現に向けて努力してくださってたと知って、そういう方だから原作をお預けすることができました」と映画化に向けて互いに真剣に向き合って作り上げた作品であることをアピールした。
改めて映像化について葉真中は「原作はミステリーなんですが、映画では人間ドラマとして描いているので、それは大正解だと思っています。長澤さんの役は原作では男性なんですけど、すごく共感力があって最後のシーンで斯波と心が通じるんですよね。実はこれはすごく危険なことなんですけど、人間の繋がりを忘れちゃいけないんだとギリギリのバランスで映画化していただいたと思います。大変感動しております」と語り映画に太鼓判を押した。
最後に「まだまだ上映しているので、こういう映画観たよと周りの方とぜひ話してほしいです」と前田監督が一日目のトークイベントを締めくくった。
続く、30日(木)の2日目には、前田監督にエスコートされ川内タエ役の綾戸智恵が登壇した。イベントでは前田監督への質問として、なぜ綾戸さんをキャスティングしたのか聞かれると、前田監督は「2013年にこの原作を読んで映画にしたいと思った時に、ちょうど松山さんから電話がきて、一緒にやろうと言ったのがこの映画の始まりです。松山さんの次にキャスティングが決まっていたのが、原作にも登場するホームレスのおばちゃんに綾戸智恵さんだったんです。長澤さんより先に決まってたんですよ」と得意げに語り掛けると、「なにがいいたいねん(笑)」と綾戸から早速、ツッコミが入った。
オファーをうけた綾戸は「『こんな夜更けにバナナかよ』に出していただいたんで、『相当、私に惚れてんやな、なんとか私を出したいんやな』と思って、『やったるで』と役も聞かずに引き受けました」と笑いながら当時の様子を語った。そこからホームレスの役作りの研究のために綾戸は実際にホームレスの女性に話しかけ、その人の仕草を観察したという。
「音楽やってるもんやから、舞台にあがって歌うことはできても、台本の中で誰かを演じる経験は少ないので、一所懸命見ただけで分かるキャラクターづくりを頑張りました」と演技について綾戸は話す一方で、演じている役柄が本当に憑依してしまったと思い、どうやって制御しようかと当時の撮影で悩んだという。そんな中、検事役の長澤まさみとの共演シーンで「若いのにすごい演技するから、ホンマに憎たらしい気分のおばちゃんになってしまい、終わった後に『あ、長澤さんや』とそこで本人やと気づいたんですよ」と語ると、長澤へ『若い頃の私に似てるなぁ」と話しかける綾戸を見ていた前田監督は「よく言うなぁ、このおばちゃん」と当時をいじりながら、それぞれ振り返った。
実際に実母の介護を経験した綾戸に映画の感想を聞くと、綾戸は「介護中、まぁまぁ明るく健全に頑張ろうかとやっていったんですけど、24時間の動きに反して、72時間分を1日で済まそうとする日々が何年か続きますと、こんな私でも弱ります。徐々に精神が落ちていったので、仕事をお休みしたんです。中には経済的な事情で、そういう自由なことができない方もいると思います。そうなるとこの映画を観ていただきたい、この映画が危険信号にもなるじゃないかって私は思いました」と映画の感想を語った。
前田監督が「お母さんを亡くされた後、一度歌うことも辞めるとおっしゃっていたのですが、最近時間が経って、また復活されたことはすごく嬉しかったです」と直接伝えたかったという前田監督。それを聞いた綾戸は「また『Hana Uta』というアルバム出すんで、この映画も大事やけどアルバムも買ってね」とすぐさま宣伝する綾戸のハイテンションぶりが見られた。
さらに介護を通じて変わったことを聞かれると「人間は未来をみることも大事ですが、昨日をみることも大事です。過去あった出来事がHana Utaになり、映画になり、皆さんとおしゃべりできる自分になったと思うと、憎む過去でもなく、どれだけ未来に役立つか共有していくことが大事なんだと思います」と話した。さらにイベントに来た観客に向かって、「この映画を観終わって、『よかったなぁ、よかったなぁ』いうて感動して帰るだけではあきまへん。少なくとも5人には一人ひとりが感想を伝えなアカン。監督、ここは言わなアカンねん」と前田監督にも宣伝を後押しする場面も見られた。
最後に綾戸は「皆さんも今はツイートとかいろいろなもので情報をいっぱい流して、この映画を一人でも多くの人に観てもらえることが一番の感想だと思います。この映画は一個だけど皆さんの数だけ形を変えてささります! ささってからが映画の本当の力が出るところです。皆さんあと3人、今度連れて来なはれ」と綾戸流の宣伝を伝え、二日目のトークイベントは幕を下ろした。
登壇者:3月29日(水) やす(ずん)、葉真中顕(原作者)、前田 哲監督
3月30日(木) 綾戸智恵、前田 哲監督
公開表記
配給:東京テアトル 日活
全国公開中
(オフィシャル素材提供)