公開翌日の4月8日(土)、悪天候の中『ダークグラス』上映後に行われたトークイベント。 会場は、本作を鑑賞したばかりの多くの映画ファンたちの熱気で溢れる中、大槻ケンヂと高橋ヨシキが登壇!
ダリオ・アルジェント監督10年ぶりの最新作公開となった本作について高橋は、「意外なことに、みんなほっこりしているのではないかと思うんですけど。『ダークグラス』を観てものすごい衝撃を受けたのは、ほっこりして終わる」とホラー映画を観た後とは思えない感想を述べる。それに「ええ話ですよね、本当に」と大槻も頷く。「アルジェントは非常にサディスティックな映画作りで知られる人ですから、今回もそうくるかなと思っていたんですけど、いい話だったことがすごいサスペンス!」と今までのアルジェント監督の作風とは違った印象に驚く高橋。大槻の感想は、「ヒロインが、目が見えなくなったことで見えてきた信頼の絆みたいな、あれ?いい話?っていう。個人的には、娼婦の彼女の目が見えなくなってごめんなさいねと言ったら、お客さんが「むしろ醜い僕が見られなくなって嬉しいくらいだよ」と。めちゃいい客!」とやはりほっこりしたエピソードを展開。高橋も「あいつは超いい客! お金足りないと言ったら秒で来てくれるし!」と同意しつつ、「最初見た時驚いたシーンで、目の見えない人の話ですから、“ここにお金置いておくね”とか言って、全然置いてないとか偽札だったりとかも考えたんですけど、コイツだけは絶対そういうことしない男だってちゃんと分かるんですよね」とヒロインの常連客のいい人エピソードに注目。大槻は「彼、ガチ恋ですよね。ちょっと切なくなるんですよね」と会場の笑いを誘い、出番は少ないが良いキャラクターについて大いに盛り上がるお2人。
本作について大槻は「首を切られるところや、いくらでも血が出るところとか、全体を通して80年代のレンタルビデオ屋さんで借りたホラー映画のムードが色濃くあって、何周か回って今のお客さんには新鮮に感じるのではないかと思いますね」と本作へ寄せたコメントでも言及していた80年代のムードがあると語る。それに対し高橋は「今、映画って、たとえば『ジョン・ウィック』のようなアクション映画は、どこまでも足し算じゃないですか」と話すと、「ずーっと戦ってますもんね!」と合いの手を返す大槻。高橋が続けて「そう、メガ盛りみたいになってて。で、たとえばホラー映画だと僕は『死霊館』シリーズとか好きなんですけど、本当にジャンプ・スケアが多くて2分に1回くらいあるんです。実はジャンプ・スケアが超苦手で、椅子からずり落ちそうになるんです。安心して見られないじゃないですか。そこが、『ダークグラス』のような作品だと、まったりその世界に浸りながら楽しめるというのが、新しく感じますよね」と高橋。それに対し大槻は「かつ、不安を煽る画面作りとか奇妙なカット割というのが、僕はあまりアルジェントに詳しいわけではないんですけど、アルジェントっぽさがあって、これは良いんじゃないかって思いますよね」と新しさの中にもアルジェント監督らしさの片鱗が見える点について語る。「それズルじゃない? ズルぎりぎりみたいな犯人明かしもなくて、そこも安心要素。素人探偵ものになっているわけでもなく、今までのアルジェントの定型、みんなが思い浮かべるようなものとはやっぱりちょっと違うと思うし、あと、アルジェントは、全部じゃないけど観客と殺人鬼を一体化させようとする監督。犯人のPOVでザクザク殺すところを見せたり、犯人を上から見せてる時に犯人目線になったりとかが多かったんですけど、今回は別にそういうことがなくて、あ、これ犯人の気持ちで撮っていないんだと思った」とアルジェント監督が本作で見せた新境地について高橋は語った。
劇伴について大槻は「音楽もちょっと懐かしい感じ。アルジェントの映画はゴブリンとか『インフェルノ』ではキース・エマーソンがやったりとか、今だとどうかなという感じだけど、何周かして良い味だなーって」と語る。それに対し高橋は「映画音楽にも流行り廃りがあって、もうそろそろ収まってきたと思いますけど、一時はドンドコドンドコドンドコドンドコドコドコドコーという感じのを15年くらい続いていたんですけど、今回のようなものを聞くと、あぁほっこりと落ち着ける感じがありますよね」と劇伴にもほっこり感を感じると語る。ホラー映画と音楽について大槻は「僕の印象では『デモンズ』くらいからドンドコドンドコとメタルがかかり始めてきた記憶があるんですよね。『フェノミナ』で虫か何かを見つけるシーンで、意味なくメタルがかかるっていうのがすごいツボで」とホラー映画における劇伴の傾向を語った。
高橋は「『オペラ座/血の喝采』も殺しのシーンになるといきなりメタルがかかるんですよね。で、この作品はLPで2枚アルバムが出てるんですけど、片っぽはオペラの曲しか入っていなくて、片っぽはメタルのみというちょっとよく分からないんですよね」とちょっぴり不思議エピソードを話した。続けて大槻は、「僕はメタルっぽい音楽をやってるんですけど、ホラー映画でメタルがかかるのが基本嫌いで、合ってない!と思っちゃう。特に歌が乗ってると、どうせくだらねぇこと歌ってるんだろうなって。大筋でいうと『蝋人形の館』みたいな歌詞なんだろうなって思う。いや、『蝋人形の館』はいい曲ですよ」と笑いを交えながらホラー映画のメタル仕様について自論を展開した。それに対し高橋は、「メタルとホラー映画の関係は80年代からあって、『13日の金曜日 PART8 ジェイソンN.Y.へ』で、船でニューヨークに行くんですけど、船の中のディスコ・ルームでメタルが爆音でかかってるっていう。意味が分からないですよね、ディスコ・ルームなのに」と、ホラー映画とメタルの不思議な関係性について語ると、大槻も「いい話ですね」と笑いながら返し会場は笑いに包まれた。
大槻が「そういえば、高橋さんはローマでアルジェントのホラーショップに行ったんですよね?」とアルジェントにまつわる高橋のエピソード伺うと、「“Profondo Rosso“という『サスペリアPART2』の原題が店名のホラーショップがあって。本とかホラーマスクとかが売ってます。ルイジ・コッツィという『スタークラッシュ』の監督が店番をしてますね。で、その地下には“アルジェントお化け屋敷“みたいのがあって、2、3ユーロ渡すとルイジ・コッツィがテープをかけてくれて、英語か何かで怖いこと言って、赤と緑の照明の中でアルジェントの映画のパチモノとか牢屋みたいなのがあって」と語り、それを聞いた大槻が「昔の東京タワー蝋人形館みたいな! かなりいいですね」と合いの手を返し「そうそう! それに近いですね!」とアルジェントお化け屋敷の雰囲気が伝わる会話を展開。「「明日アルジェント来るんだけど来たらいいじゃん!」とルイジ・コッツィに言われたけど、明日朝一の飛行機で帰るから残念ですって伝えたけど、それが1番アルジェントに近づいた日でした」とアルジェント・ファンにはたまらないエピソードも教えてくれた。
高橋は『ダークグラス』の宣伝について「海外でも日本でも宣伝が難しいかなと感じた。“ホラーの帝王カムバック”というのは本当のことだし、その要素もたっぷりあるし、血もいっぱい出るけれども、観終わったら初めにも言いましたが、にっこりほっこりみたいな、じわーんといい話だったなと。子どもとも、いつかまた会えたらいいなと思ってもらえるわけじゃないですか。これをうまく宣伝するっていうのは難しいですよね」と話すと、それに対し大槻は、「うーん……。まぁ温かみもあるよ!というか。みんなでツイートするといいですよね。おぞましいがほっこりする!みたいな」と返す。すると高橋は「素晴らしい! それがいいんじゃないですか」と会場全体が笑いに包まれた。大槻は、「さっき言われて気づいたんですけど、『ダークグラス』のフライヤーが『ゼイリブ』のポスターのパロディになっているという。アルジェントの作品をジョン・カーペンターというところが、なんというかいいなと思いました」と本作とジョン・カーペンター監督にある共通点について話す。「カーペンターの『ハロウィン』に『サスペリアPART2』がすごい影響与えていて、そういう行き来がある。マリオ・バーヴァの『血みどろの入江』の殺しは『13日の金曜日PART2』に影響を与えていて、スラッシャー映画とジャッロというのは影響の関係があるので、それを考えるとあいこというか」とそれぞれに影響しあっている関係性について高橋が話した。すると大槻は「なるほど。だから今の若い人には、今ある映画の元を作った人の新作だよ!て感じで勧められますよね」と話すと高橋が「そうですよね。ただ本当に難しくて。『ブレードランナー』を見せると、これよくあるやつじゃないですかと言われちゃって。控室でも話しましたが『燃えよドラゴン』も見せると、こういうのいっぱいありますよねって。そうじゃなくて!っていうことを説明するのが難しい時代になってる」と巨匠の作品の在り方についても語った。続けて高橋は「逆にアルジェントの昔の映画は今見てもオリジナリティというかユニークさが際立っていて、今の若い人が見ても全然通用すると思いますね。だからこそ今でも世界中で人気」と讃え、大槻は「ほんとスタイリッシュでアートですよね」と頷きながらアルジェント監督作の魅力を話した。
最後に高橋は、「もう82歳ですけど、まだ元気でこういうアルジェントらしさが存分にありながら、かつまた新しい境地を見せてくれたことはとても素晴らしいことだと思いました。ありがとうございます」とアルジェント監督へ新作公開の喜びと感謝の意を述べ、大槻は、ダークグラス公開記念で、『サスペリア』とか『サスペリアPART2』とか上映されて、過去に観た映画を劇場で観ると、本当に当たり前の話なんですけど、新たな発見がたくさんあるなと思って、またいろいろ観てみようと思った。僕、よくここに普通にお客さんで観に来てるんですよ。しょっちゅう来てる。ここかシネマカリテかシネマート新宿か。そういうよくいるお客さんです。なので、逆に壇上に上がれて光栄です」と名作への想いと映画ファンとしての一面を語り、大いに盛り上がりを見せる中、トークイベントは終了した。
登壇者:大槻ケンヂ(ロックミュージシャン)、高橋ヨシキ(アートディレクター/映画ライター/サタニスト)
公開表記
配給:ロングライド
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)