イベント・舞台挨拶

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』舞台挨拶

©映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

 2023年4月16日(日)、新宿武蔵野館にて、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の舞台挨拶が行われ、金子由里奈監督と、監督が「隠れたもうひとりの主人公」と評する“白城ゆい”を演じた新谷ゆづみが登壇。本作が伝えたいテーマ「“大丈夫じゃない部分”をまずうなずきたい」を、新谷のお芝居を通して実現できたことを明かした。

 映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、「おもろい以外いらんねん」「きみだからさびしい」をはじめ繊細な感性で話題作を生み出し続けている小説家・大前粟生にとって初の映像化作品で、『21世紀の女の子』『眠る虫』などで注目を集めた金子由里奈監督による長編商業デビュー作。
 『町田くんの世界』以来の映画主演作となる細田佳央太、『いとみち』などの駒井 蓮、『麻希のいる世界』などの新谷ゆづみが共演しているほか、“ぬいサー部員”として細川岳、真魚、上大迫祐希、若杉 凩も出演している。

 物語は、京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル(ぬいサー)」を舞台に、“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森(演:細田佳央太)、七森と心を通わす麦戸(演:駒井 蓮)、そして彼らを取り巻く人びとを描く。

 この日の舞台挨拶に登壇したのは、新谷ゆづみ(白城ゆい 役)と金子由里奈監督。
 新谷は、金子監督が本作の評価についてエゴサしまくっていることを明かすと、金子監督も「スマホで検索しすぎて腱鞘炎になりそうです(笑)」といって場内を沸かした。

 本作の原作のどういうところに魅力を感じて映画化に至ったかという質問には、金子監督は次のように明かした。
 「原作には大学生の時に出合ったんですが、それは自分の無自覚な加害性に初めて正面から向き合わざるを得ない小説体験でした。そして、これは今の社会に喫緊に届けるべき物語だと思いました。同時に、私は創作する上で、今までスクリーンから取りこぼされてきたようなもの、景色、人を撮りたいという想いもありました。ただ、商業的に難色を示されることも多く、気持ちが萎えかけていたときに、髭野プロデューサーが本作のテーマは現代にすごく必要な物語だということで共鳴してくださり、企画が進むこととなりました」。

 新谷ゆづみ演じる白城もぬいサーの部員で、主人公・七森(演:細田佳央太)の無自覚な加害性に悩まされることがあるものの、七森が恋愛についてよく分からないと悩むことなど、七森の言動に強く共感も覚えて愛おしいと新谷は答えた。「七森がちょっとしたことで悩む気持ちも分かるし。それを可愛いと感じる白城の気持ちも分かるんです。七森のことが愛おしく感じます」(新谷)。
 続けて新谷は、「七森と麦戸は本当の思いを表に出せない。白城はそういう人の話を聞き出してあげられる人なので、私もそれをプラスな意味で関わり合えることだと信じて演じました」と話した。


 それを受けて金子監督は「昨日の舞台挨拶でも、繊細なことってポジティブなことで、それに気づけることはとても素晴らしいことだよねという話をしたんですが、それを理解してくれている新谷さんが白城を演じてくれたから、白城の優しさがちゃんと体現できたんだなと思っています」と、新谷に感謝の気持ちを述べた。

 また、Filmarksなどで白城に共感する声が多いことについて金子監督は、「白城は外から見つける優しさを持っている。映画を観てくれた皆さんが自分に重ねているのかも。この映画の主人公は白城なんじゃないか?っていう気がしてくるぐらい。登場人物全員に光を当てた脚本も考えたんですけど、白城がこの映画が言いたいことをぐっと押し広げてくれるような存在で、私もリスペクトしているキャラクターです」とも語った。

 さらに金子監督は、新谷のお芝居について「新谷さんのお芝居は技巧じゃなくて、ご自身から出てくるものになっているのが本当に素晴らしいです」と絶賛。階段を降りながら白城と七森が話す印象的なシーンについては、台本のト書きには、例えば声を震わせるとか、涙を流すとか一切書いてないにも関わらず、新谷は背中で気持ちを語っていて、正面に回ると泣いていたり、七森に真正面からぶつかっていくお芝居に、モニターを見ながらこみ上げてくるものもあったという。

 そのことを振り返って新谷は「白城は、これまでは人との繋がり方や離れ方はもう少し簡単なものだったのに、七森とのぶつかり方は、出会ったことのない生物に出会うぐらいの感覚だったと思うんです。生き方に正解はないけれど、これで七森も白城に対して気づくことがあったし、白城も自身の成長につながるきっかけになったんだと思う」と、演じる上で心がけていたことを明かした。
 同時に新谷は、「私は19年しか生きてないので経験もまだまだ足りず、キャラクターのことを想像するのにも限界があるんです」ということで、キャラクターの衣裳を身に着け、撮影セットに入ることで、目に見で感じたものも大切にして想像を補完して、より役になりきるようにしているとも話した。たとえば、白城のレザー素材の衣裳も、白城がこれまで過ごしてきた日々から得られた自信みたいなものが沸き起こったという。

 ここで舞台挨拶終了の時間となり、最後のメッセージを求められた2人はそれぞれ次のように語った。

新谷ゆづみ
 この映画を観て、何でもいいんですけど、自分の中で頑張れる力や希望のきっかけになっていたら、私は一番嬉しいなと思います。今日ここにいる方もそうですけど、これから観てくださる方も末永くこの映画を愛してくださったら嬉しいです。

金子由里奈監督
 世の中には“あなたは大丈夫!”というコンテンツはたくさんあるけれど、それはある種の祈りのようなもの。この映画は、“大丈夫じゃない部分”をまずうなずきたいと思って作った映画です。生きづらさを抱えてしまいがちな社会かもしれないですけど、その社会を一緒に解体して変えていきたいという気持ちで作りましたので、映画をご覧になった方の何かの対話のきっかけになればとても嬉しいです。

 登壇者:新谷ゆづみ、金子由里奈監督

 (オフィシャル素材提供、文・写真:三平准太郎)

公開表記

 製作・配給:イハフィルムズ
 4月14日(金)より新宿武蔵野館、渋谷 ホワイト シネクイントほか全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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