イベント・舞台挨拶

『ライフ・イズ・クライミング!』東京都立西高等学校 特別授業

©Life Is Climbing 製作委員会

 世界選手権4連覇を成し遂げた視力を失ったクライマーとその相棒が、アメリカへ旅に出て、想像を超えるクライミングに挑むまでを描いたドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』が、5月12日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開となる。
 公開を前に4月18日(火)、東京都立西高等学校にて特別授業を開催! 「ダイバーシティの実現に向けてできること」をテーマに小林幸一郎(55歳)と鈴木直也(47歳)が同校の生徒たちと対話し、生徒たちは2人の指導の下、“ガイド体験”にも挑戦した。

 この日の特別授業には13名の生徒や保護者らが参加。小林幸一郎、鈴木直也を温かい拍手で迎えた。前半のトークは、映画を観ての感想や2人への質問を生徒が発表し、それに2人が答えていくという形で進行。

ある生徒は、小林のクライミングを鈴木がガイドする際、「マイクを使わずに地声で意思疎通を図っているという点が印象に残った」と語る。

 小林は「初めてナオヤと会った時から声の“力”を感じていたわけではないんです。いくつか大会に出場する中で、自分が勝てる理由を考えるようになったんですが、自分の努力だけではあんな結果は得られなかった――あの“声”があるから、自分の出せる力を出せている、『やってやる!』という気持ちになっているということに気づきました。テクノロジーの時代ですが、人間の力がそこにはあると感じています」と語る。

 続けて、「真のダイバーシティ」を実現するには何が必要か?ということを話し合う。

 ある1年生の生徒は「国とか地域といった境目を最初からつくらず、“隣人(となりびと)”という意識を共有していくのが大事だと思います」と語り、小林は「これから皆さんの時間の中で、“国籍”だったり“文化”だったり、(自分と他人を)比較するような言葉が増えていくと思います。そういう境目を表す言葉について考えることで、垣根が下がっていくと思います」と語りかける。

 またある生徒は「ハンデがある人とない人が関わっていく中で、自分や相手にハンデがあることを認めたうえで、それを卑下したりするのではなく、他の良いところや悪いところも見て、判断して付き合っていけばいいのではないか」と語る。

 鈴木は「障害の有無を抜きにして付き合うのはハードルが高いと感じかもしれないけど、僕は小林幸一郎という人間を見ていて、目が見えないとは思っていません。旅をしたり、生活する上でも『目が見えないけど大丈夫?』という感じで接することってないですし、むしろ置いてっちゃいます(笑)。ただ、僕もここまで来るにはさまざまな経験をしています。それを超えられたのはそのたくさんの経験があったから。皆さんもこれからいろいろな経験をすると思うけど、いま話してくれたような気持ちを忘れずにいてほしいです」と語り「楽しみたければ楽しめばいいし、ちょっと助けが必要なら、ちょっとだけ助ければ楽しめるし、あんな(不思議な形をした)岩にも立てます。その“ちょっと”がその人を幸せにするし、自分も幸せになれます」と訴えた。

 また、2人が紡いできた絆や信頼関係についても、さまざまな意見や感想が寄せられたが、小林は「映画をご覧になった方に、ナオヤと週に何回会っているの?よく飲みに行ったりしてるの?と聞かれたりするんですけど、会っても年に10回くらいです。『理解し合う』とか『信頼し合う』というのは、会っている回数でも時間でもない、もっと違う“何か”があるんじゃないかと感じています」と明かす。

 鈴木は「皆さん、目が見えないコバちゃんがいて、目が見える僕がいて、僕がコバちゃんをガイドするというイメージでいると思いますが、僕がコバちゃんに助けてもらっているところもあるんです。一方的ではなくキャッチボールがあるからこそ旅ができるんだと思います」と語る。

 そして、特別授業の後半は、小林の指導により、生徒たちがガイドにチャレンジ。【天才画家と助手】と名づけられたこちらのワークショップでは、生徒たちが2人一組のペアとなり、ひとり(天才画家)が目隠しをした状態で、スクリーンに映し出された写真の情報をもうひとり(助手)が伝え、目が見えない状態でデッサンするというもの。

 実際に体験して、目が見えない状態で絵を描くということの難しさはもちろん、正確な情報を目が見えない人に伝えるということの難しさを生徒たちは実感したよう。写真に映っている小林さんがクライミングしている岩について、生徒たちは「フライドチキンみたいな形の岩が……」など、工夫を凝らしながらなんとか分かりやすく情報を伝えようと奮闘する。

 実際に体験を終えて、ある生徒は「実際に描くとなると、直線を書いても、どこにその線があるのか分からないし、『〇を描いて』と言われても『どこから?』という感じで……」と難しさを吐露。別の生徒は「ガイドが『12時』とか『3時』などと時計の針で表すのは合理的なんだなと実感しました」と感想を口にしていた。

 小林は「今日、なんでこれをやってもらったか? これは『天才画家と助手』というワークショップです。でも皆さん、実際にやってみて、天才なのは目が見えない画家のはずなのに、助手は先生の手を取って、自分の目に見えるがままをそこに描かせようとしたり、目が見えていることがすべて正しいことであるかのようにふるまってしまったり、言葉にしてしまったりしませんでしたか? 人間は、目が見えないからってできないことばかりであるかのようにしてしまうものです。でも、天才画家が助手に何が見えているかを聞いて、先生が感じるがままを絵にしたものが、素晴らしいデッサンだったかもしれません。目が見えているから正しいと考えるのではなく、もっと自分が感じるがままをそのままお互いが受け止めて、自分に何ができるかを考えてもらうことが重要だと思います。それが見えない私たちと目が見えているみなさんとのコミュニケーションを活発にして、どうしたら世の中がもっと楽しくなるかということを生み出すきっかけになるんじゃないかと思います」と呼びかけた。

 授業の最後に鈴木は「障害のあるなしにかかわらず、いろいろな人がクライミングをしています。パラクライミングというんですが、のちのち“パラ”というのをなくして、脚や手が不自由な人も、目が見えない人もひとつの“クライミング”というくくりで楽しむというのが僕らの最終的な目標です」と熱く語る。

 そして小林は「映画を通じて『人生って楽しいよ』ということを伝えたかった。悔しい思い、悲しい思いをしたり、どうしていいか分からない壁にぶつかることもあるかもしれませんが、それも全部ひっくるめて『人生は楽しい』。僕はいつも、良いことは続きにくいけど、楽しいことは続くと思っています。良いことは、どこかに無理があったり、頑張らなきゃいけないけど、楽しいことは絶対に続きます。ほっといても楽しい気持ちがあればやりたくなります。自分の中で何が楽しいかを探し続けるような人生を追いかけてほしいと思います」と呼びかけ、会場は温かい拍手に包まれた。

 登壇者:小林幸一郎、鈴木直也、東京都立西高等学校の生徒たち(13名)

プロフィール

コバ:小林幸一郎
 1968年2月11日生まれ、東京都出身。
 16歳の時にフリークライミングと出合う。
 28歳で「網膜色素変性症」と言う目の進行性難病を発症し、近い将来の失明宣告を受ける。
 37歳2005年にNPO法人モンキーマジックを設立。「見えない壁だって越えられる」をコンセプトに、障害者クライミング普及活動を開始。競技者として、2006年世界初のパラ・クライミング・ワールドカップに出場し視覚障害クラスで優勝、2014年から2019年まで(46~51歳)、鈴木直也をサイトガイドに迎え、パラ・クライミング世界選手権視覚障害男子B1クラス(全盲)にて4連覇を達成。
 パラ・クライミング界のレジェンド中のレジェンドといえる存在。

ナオヤ:鈴木直也
 1976年1月18日生まれ、東京都出身。
 15歳の時にアメリカでフリー・クライミングと出会う。その後、単身で渡米。
 2003年に日本人初のアメリカ山岳ガイド協会公認のロック・クライミング・インストラクターとなる。
 2011年から、パラ・クライミング世界選手権の日本代表チームに同行。
 2013年には株式会社サンドストーンを設立。国内外問わずクライミング・ガイドをしながらクライミング・ジムを横浜と大阪で経営する。

東京都立西高等学校

 1937年に創立された府立第十中学校を母体とする創立84年目の学校であり、緑豊かな杉並の地で、「文武二道」「自主自律」を教育理念として、国際社会で活躍できる器の大きな人間の育成を目指して教養教育を重視しさまざまな教育活動を行っている。東京都教育委員会より「進学指導重点校」「Global Education Network20指定校」「理数研究校」等に指定されている。

公開表記

 配給:シンカ
 5月12日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA にて全国公開

(オフィシャル素材提供)

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