現代映画に多大なる影響を与え続ける孤高の映画作家ジョン・カサヴェテスの特集上映「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」が、6月24日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国の劇場にて順次開催される。この度、予告編が完成、著名人からのコメントも到着した。
「インディペンデント映画の父」と称され、ジャン=リュック・ゴダールやマーティン・スコセッシ、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュといった世界の巨匠たちから敬愛された唯一無二の映画監督ジョン・カサヴェテス。ハリウッドの商業主義に対抗し、公私ともに最良のパートナーである女優ジーナ・ローランズや信頼できる仲間たちと「自分の撮りたいものを撮る」という信念のもと、自身の俳優活動で得た収入を注ぎ込んで映画を製作し、インディペンテント映画の可能性を知らしめた。今回のレトロスペクティヴは上映権の再取得が叶ったことで実現したが、一方で、撮影監督、プロデューサーとしてカサヴェテスと併走した、アル・ルーバン氏が2022年に亡くなったことから、その追悼とも言えるタイミングでの開催となる。
今回の特集では、1989年に59歳で逝去したカサヴェテスが残した監督作品11本の中から、代表作6本を上映。マンハッタンで暮らす若者たちのありのままの姿をシナリオなしの即興演出で作り上げ、世界を驚かせた監督デビュー作『アメリカの影』(59)、中流アメリカ人夫婦の破綻した関係が崩壊へと至るまでの36時間を描いた『フェイシズ』(68)、壊れかけた家庭を繋ぎとめようとする夫婦愛を描き、アカデミー賞®主演女優賞、監督賞にノミネートしたカサヴェテスの代表作の一つである『こわれゆく女』(74)、フィルム・ノワールの雰囲気が漂う異色のサスペンス『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(76)、そして、有名女優の舞台前の極限の緊張を描き、ジーナ・ローランズがベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞した『オープニング・ナイト』(77)、カサヴェテスの集大成的作品であり、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した『ラヴ・ストリームス』(84)の6作品だ。『ラヴ・ストリームス』は2Kレストア素材を今回のためにDCP化し、初めて劇場で公開する。
解禁された予告編は、『ラヴ・ストリームス』から始まり、『アメリカの影』でチャールズ・ミンガスとともに音楽を務めたシャフィ・ハディのサックス・ソロに合わせて各作品を紹介。併せて、カサヴェテス作品を愛する著名人たちからの推薦コメントが到着。映画監督の濱口竜介は「ジョン・カサヴェテスの映画を観てしまった人生と、観なかった人生。幸福なのはどちらか、分からない。しかし観たことを後悔した日は1日たりともない」、映画監督の三宅 唱は「カサヴェテスの映画を観るといつも高熱のような強い感情に浮かされます。できるならそれを書きたいけれど言葉が追いつかない。だからもう一度観たくなるしうっかり自分でも映画を作りたくなってしまう」、音楽家の石橋英子は「できれば避けて通りたいことがクローズアップされ、その破れ目が映画そのものを呑み込む。他者は自分の幻影、また自分自身も他者の幻影、そこから抜け出すためにはボコボコにし合うしかないのか」とコメントを寄せている。
コメント
濱口竜介(映画監督)
ジョン・カサヴェテスの映画を観てしまった人生と、観なかった人生。幸福なのはどちらか、分からない。しかし観たことを後悔した日は1日たりともない。
三宅 唱(映画監督)
カサヴェテスの映画を観るといつも高熱のような強い感情に浮かされます。できるならそれを書きたいけれど言葉が追いつかない。だからもう一度観たくなるしうっかり自分でも映画を作りたくなってしまう。『オープニングナイト』の終盤は毎回初めてのようにビックリし続けています。
石橋英子(音楽家)
“孤独な夜を知ってる?”カサヴェテスの問い。できれば避けて通りたいことがクローズアップされ、その破れ目が映画そのものを呑み込む。他者は自分の幻影、また自分自身も他者の幻影、そこから抜け出すためにはボコボコにし合うしかないのか。『オープニング・ナイト』を観てうんざりした幻影まみれの10代の夏。今はどうか。そんな夜なんて知らない、という出発点すら曖昧だ。
「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」(http://www.zaziefilms.com/cassavetes2023/、外部サイト)は6月24日(土)から渋谷のシアター・イメージフォーラムにて開催、順次全国の劇場で開催される。また、シアター・イメージフォーラムでの6月24日(土)から7月21日(金)までの上映スケジュールも決定した。
ジョン・カサヴェテス
1929年12月9日、アメリカのニューヨークで生まれる。妻は女優のジーナ・ローランズで、長男のニック・カサヴェテスと次女のゾエ・カサヴェテスは映画監督として活躍。
テレビや映画で俳優としてのキャリアを積んだ後、出演したラジオ番組中の呼びかけで集まった資金を元手に製作した『アメリカの影』(1959)で監督デビュー。1968年、第2作の『フェイシズ』でアカデミー賞®3部門(脚本賞、助演男優賞、助演女優賞)にノミネート。1974年の『こわれゆく女』ではジーナ・ローランズがゴールデングローブ賞最優秀女優賞(ドラマ)受賞、アカデミー賞®主演女優賞、監督賞にノミネートされる。1977年の『オープニング・ナイト』ではベルリン国際映画祭でジーナ・ローランズが主演女優賞に輝き、1984年の『ラヴ・ストリームス』では同映画祭で金熊賞を受賞している。
自らが俳優として得たギャラを製作費として注ぎ込みながら、素人とプロの俳優を共演させるなど、大手スタジオの介入がない自主製作による映画作りを信念とし、独自の映画世界を切り開いた。“インディペンデント映画の父”と呼ばれ、後世の映画監督たちに大きな影響を与えると存在になる。1989年2月3日、肝硬変のためロサンゼルスの病院にて59歳で他界。
上映作品
『アメリカの影』SHADOWS
(1959年/アメリカ/82分/モノクロ/スタンダード)
監督:ジョン・カサヴェテス
音楽:チャールズ・ミンガス
出演:ベン・カラザース、レリア・ゴルドーニ、ヒュー・ハード
マンハッタンに暮らす若者たちのありのままの姿を描いた、カサヴェテスのデビュー作にして、後の映像作家たちに大きな影響を与えたインディペンデント映画の金字塔。シナリオなしの即興演出で、俳優たちの揺れ動く感情を見事に捉え、映画の新たな方向性を確立した。大のジャズ好きだったカサヴェテスが依頼したチャールズ・ミンガスの即興演奏もスタイリッシュで魅力的。
『フェイシズ』 FACES
(1968年/アメリカ/130分/モノクロ/ヴィスタ)
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
撮影・編集:アル・ルーバン
出演:ジョン・マーレイ、ジーナ・ローランズ、シーモア・カッセル
関係の破綻した中流アメリカ人夫婦の36時間を描く。男女の愛の葛藤を描いたカサヴェテス一連の作品の原点。
自宅を抵当に入れて撮影した監督第2作。アカデミー賞®3部門(脚本賞、助演男優賞、助演女優賞)にノミネートという成果を挙げ、ハリウッドにその存在を認知させた革命的傑作。ヴェネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞。
『こわれゆく女』A WOMAN UNDER THE INFLUENCE
(1974年/アメリカ/147分/カラー/ヴィスタ)
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
製作:サム・ショウ
音楽:ボー・ハーウッド
出演:ジーナ・ローランズ、ピーター・フォーク、マシュー・カッセル
精神のバランスを崩した妻と、土木工事の現場監督を務める夫。壊れかけそうな家庭を繋ぎとめようとする夫婦愛を描いたカサヴェテスの代表作の一つ。脚本はジーナ・ローランズ主演の戯曲として執筆。ゴールデングローブ賞最優秀女優賞(ドラマ)受賞。アカデミー賞®主演女優賞、監督賞ノミネート。
『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』THE KILLING OF A CHINESE BOOKIE
(1976年/アメリカ/135分/カラー/ヴィスタ)
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
製作:アル・ルーバン
撮影:フレデリック・エルムス
出演:ベン・ギャザラ、ミード・ロバーツ、ティモシー・アゴリア・ケリー
暗黒街のマフィア、ストリッパー、ナイトクラブ、犯罪。フィルム・ノワール的なテーマを持つカサヴェテス作品の中でも特異な1本。カサヴェテス映画の要の役者であり、公私ともに盟友のベン・ギャザラが、巨額の借金を背負いこみ事件に巻き込まれていく場末のクラブのオーナー、コズモを見事に演じ、圧倒的な存在感を示す。
『オープニング・ナイト』OPENING NIGHT
(1977年/アメリカ/144分/カラー/ヴィスタ)
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
撮影・製作:アル・ルーバン
音楽:ボー・ハーウッド
出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・カサヴェテス、ベン・ギャザラ
一人の有名舞台女優を通して、人が“老い”を自覚し始めた時に感じる焦燥や不安を描いた作品。ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞したジーナ・ローランズの演技は必見。カサヴェテス作品の中で本作が唯一「夫婦役」として共演している。
『ラヴ・ストリームス』LOVE STREAMS
(1984年/アメリカ/141分/カラー/ヴィスタ)
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
原作・共同脚本:テッド・アレン
撮影・製作総指揮:アル・ルーバン
音楽:ボー・ハーウッド
出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・カサヴェテス、ダイアン・アボット、シーモア・カッセル
他人を愛することに不器用ながらも、愛や孤独をテーマにした小説を書く弟と、その深い愛ゆえに狂気に陥っていく姉の内面の荒廃を描く。「愛、孤独、家族」を主題にしたカサヴェテス映画の集大成ともいうべき傑作。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。
「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」
6/24(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
配給:ザジフィルムズ
公式HP(外部サイト)
(オフィシャル素材提供)