イベント・舞台挨拶

『波紋』柄本 明×荻上直子監督スペシャルトークショー

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

 主演・筒井真理子、共演に光石 研、磯村勇斗、柄本 明、キムラ緑子、木野 花ら日本を代表する実力派俳優を迎え、日本を代表する映画作家・荻上直子監督がメガホンをとった映画『波紋』が絶賛公開中。

 6月11日(日)にイオンシネマ シアタス調布にて、柄本 明、荻上直子監督、杉田浩光プロデューサーが登壇するスペシャルトークショーが実施された。日本を代表する名優は、荻上監督を相手に役者論、映画の宣伝論、そして果ては子育て論まで、終始、“柄本流”が貫かれた興味深い内容となった。

 この日、満席となった会場内にやってきた登壇者たちに万雷の拍手が。常々“自身が出演する作品は試写では観ない”と公言している柄本だが、そんな彼に本作の感想を尋ねると、まずは「皆さん今、映画をご覧になったんでしょ。それでいいじゃないですか」とはぐらかしつつも、「みんな不安なんでしょうね。(筒井真理子演じる)あの主人公はやっぱり監督だと思いました」とポツリ。その言葉に「わたしは(夫へのひそかな復讐のために、夫の)歯ブラシで排水口は磨きませんよ」と笑いながら否定してみせた荻上監督。柄本も笑いながら「もちろんそれはしないでしょうけど、やっぱりあの女の人の復讐話ということで、楽しませていただきました」と続けた。

 柄本とは以前、2004年の映画『恋は五・七・五!』で組んだことがあるという荻上監督だが、柄本を前にするといまだに緊張を隠せないのだとか。「柄本さんが画面に出てくると、柄本さんにしか目がいかないというか。ついつい目がいってしまうくらいの存在感がある。特にわたしは今村昌平監督の『うなぎ』と『カンゾー先生』が大好きで。脚本執筆につまずくと、それを観ているんです……だから今日は脇汗をすごいかいてて。撮影中もすごく緊張していました」。

 その様子を見た柄本は「それは不徳の致すところですね、すいません。現場ではしゃべらないですからね。だからそうなっちゃうのかな」と頭をかきつつも、杉田プロデューサーが「(劇中で柄本演じる老人から、スーパーの商品についてクレームを受けるシーンでの)筒井さんの汗は本当の汗なんじゃないかという説もありますよね」と笑ってみせた。

 劇中で披露したかんしゃく持ちの老人という役柄と違い、「僕は怒らないですね。自分では温厚な人間だと思ってますから」と笑う柄本。あらためて「筒井さんの演じた役というのは、やはり監督じゃないかなと思うんですよ」と切り出すと、思わずクスクスと笑いながら「こんな言い方をするとあれだけど、少し影の薄い感じというか。取りあえず被害者になっておいたほうが得だというほうを選ぶのかなと。この主人公ってそうですよね。強く出るよりも、取りあえず引いていったほうが得だなと思うタイプ」と指摘する。

 その指摘に荻上監督が「それはまるで現場のわたしですね。スタッフの皆さんが優秀なので、皆さんにやっていただいたほうが得だから」と深くうなずいてみせると、柄本は「自分が引いたところに出来たものは、みんなが埋めてくれるだろうというね。それはずるい監督がよく使う手なんですけどね」と付け加え、会場を沸かせた。

 荻上監督の代表作である『かもめ食堂』や『めがね』などの印象もあってか、優しくて、料理が上手でいい人、というイメージで見られがちだという荻上監督だが、その素顔はまったく違うと否定する。「実は料理なんて大嫌いですし、誰かやってくれる人がいるならやってほしい。夫には怒鳴り散らし、当たりまくりで、イライラしまくりなんです」とたたみかける荻上監督に、「そのままじゃない」と返した柄本。そんな二人のやりとりに会場は大いに盛り上がった。

 そこから柄本の俳優としてのスタンスへと話が及ぶと、「僕も年をとってきて思ったのかもしれないですけど、やりにくければやりにくいほどいい。やりにくい時には、どんな自分と出会えるんだろうと。そんなことを考えますね。もっと言えば、うまくいかない時こそチャンスだというふうに考えたいなと。でもやっぱりうまくいかないのは、いやなんですけどね」と笑いながらコメント。

 そこで出た杉田プロデューサーの「それはあがり(試写)を見ないのと関係ありますか?」という問いかけに、柄本は「こういう場所にこういう人間が出るという、映画の宣伝体制は好きじゃないですね」とぶちまけて会場は大笑い。「だって自分が出ている映画を“どうです、すばらしいでしょ。観てください”なんて恥ずかしいよね。まあでも、(映画を観てもらうためには)これをやんなきゃということなのかもしれないですけどね」と正直な思いを吐露。

 その言葉に「まあでも地道にやっていかなきゃいけないですからね。今日も、日比谷か日本橋か調布のどちらかにお越しいただきたいとお声がけしたら、調布に行きたいとおっしゃっていただいたんですよね」と内情を明かした杉田プロデューサー。柄本も「それだったら調布がいいと思ってね。それでお客さんが来てくれるんだったらそれはそれでいいと思うんだけど」と付け加えるなど、映画宣伝のあり方について問題提起を投げかけるひと幕も。

 さらに子育て真っ最中だという荻上監督は、柄本家の子育て法について「あんなにすてきな子どもたちをどう育てたのか」と興味津々。その問いかけに柄本は「別に何をしたわけではないけど、長男の佑が中学生の時(黒木和雄監督の2002年の映画)『美しい夏キリシマ』のオーディションに行かされて通っちゃったんですよ。その時の佑というのが反抗期だったんですけど、夏休みの間、映画の現場に入ったら反抗期がすっかりなくなりました。映画のおかげだね」と解答。その理由として「映画の現場は大人が働いているでしょ。自分が一応メインの役なんだけど、映画って縦社会じゃないですか。そういうところに行ったら、すっかりいい子になって戻ってきましたね。これはこちらが何かしたわけじゃないんですが。だからそういう子がいたら、映画の現場にたたき込んじゃえばいいんじゃないですか?」と独自の理論を提唱してみせて、会場は大盛り上がり。一方の荻上監督は「わたしなら全力で阻止します。なかなか厳しい業界ですからね」と笑いながら付け加えた。

 そんな大盛り上がりのイベントもいよいよ終盤。最後に柄本は、「先ほどはあんなことを言ってしまいましたが、面白かったらぜひ、もしくは面白くなかったとしても、お家に帰って、ご近所、親戚の方に広めていただければ」とメッセージ。続く荻上監督は「面白かった方は必ず広めてください。そして面白くなかった方は余計なことを書かないでいただければ。悪口を書かれると傷つきますからね」と呼びかけると、柄本が「面白い映画ですよ!」と力強くお墨付き。その言葉に賛同した会場からは大きな拍手がわき起こった。

 登壇者:柄本 明、荻上直子監督、杉田浩光プロデューサー

公開表記

 配給:ショウゲート
 絶賛公開中

(オフィシャル素材提供)

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