国際的に活躍する女優・菊地凛子と、国内外で注目を浴びる監督・熊切和嘉が、『空の穴』(01)以来、22年振りに組んだ、記念すべき菊地凛子初邦画単独主演作品『658km、陽子の旅』が、7月28日(金)より、ユーロスペース、テアトル新宿他の劇場で全国順次公開となる
この度、6月9日(金)から中国・上海で開催されている第25回上海国際映画祭に、映画『658km、陽子の旅』がコンペティション部門に正式出品され、6月16日金曜日(現地時間)20時40分よりワールドプレミアとして上映。現地、上海には、熊切和嘉監督、主演の菊地凛子が、現地メディア向け記者会見、ワールドプレミア、上映後に実施された観客とのQ&Aに参加。Q&Aでは、世界で最初の観客となった上海の映画ファンによる大歓声と万雷の拍手に包まれた、熱気あふれる雰囲気に終始した。
映画祭期間中に計3回公式上映が実施され、合計1,400キャパのチケットは発売されるや即日完売。16日(金)、ワールドプレミア後に、熊切和嘉監督、菊地凛子が登壇したQ&Aには、(現地時間)22:30と遅い時間にも関わらず、2人の登場を待ち望んでいた満員の現地映画ファン。司会者が熊切監督と菊地に登壇を呼び込むと、会場からは大歓声があがり、大きな拍手に包まれて監督と菊地が登壇。
熊切監督の「ワールドプレミアということで皆さまが最初のお客さんです。気に入っていただけると嬉しいです」との挨拶に続いて、菊地が習得したばかりの中国語で「ダー ジア ハオ(初めまして)ウォ シー(私は)ジュイ ディー リン ズー(菊地凛子です)」と自己紹介すると、客席は更に盛り上がり、一段と大きな歓声と拍手が沸き起こった。菊地は、続いて観客への謝意や熊切監督との20年ぶりの作品であることなどを流暢に英語で語った後、Q&Aがスタート。司会者から観客に向けて、質問のある方は挙手の声に、我先にと手を挙げて、日本語を交えて感想を伝える観客や、3分以上の熱い感想と質問を二人に投げかける観客が登場するなど、鑑賞後の満足度が伺えた。
Q&Aの後に、客席をバックに行われたフォトセッションでは、観客が星空のようにスマホのライトを点灯する一幕もあった。更にふたりが降壇する際には「ありがとうございました」「また来てください!」「おやすみなさい」と、日本語で語り掛けられ、終始、温かさに包まれていた。
Q&A
熊切和嘉監督:もともとロードムービーを撮ってみたいという気持ちはあったんですが、それ以上に(この映画の)ヒロイン像が日陰者というか、日の当たらない人で、こういう人に光を当てたいなという気持ちが強くありました。性別を超えて自分にもあてはまるところがありまして、そういうところでどうしてもこれは自分で撮りたいと思いました。
菊地凛子:役名がついた役を初めてもらったのが、熊切監督の作品でした。以来、いろいろ素敵な作品に出演させていただいていますが、いつかまた、熊切監督と一緒にやれる日をずっと夢見ていました。40歳という、なかなかヒロインになりにくい年齢に差し掛かって、こういったステキな作品に出合えてすごく感慨深かったなというのと、自分にとっても宝物のような映画になりましたし。(熊切監督作品に出演するのは)20年ぶりだったんですけれども、いつも同じページにいるような気持にさせてもらって、とてもいいチームワークで 仕事ができたと思っています。
この映画がとても好きです。陽子は凝縮された時間の中ですごく成長したと思いました。握手がひとつのシンボル的な存在だと思いました。陽子の成長をどのような構成で設計されたのか、監督と菊地さんにお聞きしたいです。
熊切和嘉監督:出だしはとっつきにくいといいますか、映画の普通のヒロインではありえない姿をどこまでできるか、というところからスタートしました。あとは、優しさだったり、手を握るというのはぬくもりだったり体温を感じるということですが、そこから徐々に再生していく様子を描きたかったです。
菊地凛子:陽子は父親のことが好きだったんだなということがあるというか、だから父親の一言とか態度とかに彼女はすごく傷つき、そこから自分の将来とか夢とか、いろいろな人生の節目で傷つくことがあったりするんですが、それはきっと皆さん多かれ少なかれあるんじゃないかと思います。そういったことで自分の過去を振り返ることも怖くなってしまって一歩も踏み出せなくなってしまう―私もありましたし、皆さんにもあるからこの作品を気に入っていただけているんじゃないかと思います、陽子は、従兄がやってくることで肉体的に外に出て行かなくてはいけなくなり、自分と向き合っていかなくてはならなくなることを旅で味わって、最後に父親と過ごした家にたどり着くんですが、そういった細かいところについては自分がいろいろ考えたりして割と楽しく撮影しました。
この映画で感心するところは、陽子がこの旅で癒されるだけでないところです。旅の途中で出会った人には良い人も悪い人もいろいろな人がいたというところに一番感動しました。そのあたりはどういう考えに基づいて設計されたのかお聞かせいただけますか。
熊切和嘉監督:確かに陽子は人の優しさだけでなく、厳しさにも触れます。いわば「嘘のない人間」が出てくるようにしたいという想いでいろいろなタイプの人が出てくるようにしました。その中で彼女が一度感情的に決壊することによって、一度ゼロになったところから再生していくイメージで旅を作りました。
旅の途中にパーキングエリアがいくつか出てきますが、それぞれの違いによってヒロインの心情、心境も変わりますし、全体的な雰囲気も変わってくるんですが、そこはどういう考えで設計されたのでしょうか。
熊切和嘉監督:パーキングエリアに見えるような撮影できる場所は限られるので、その中でどのように組み合わせて構成していくかというのを考えていきました。特に夜に女の子と二人残されるシーンは、世界に取り残されたような、だだっ広くて人気のない場所を選びました。他には、例えばこれから度に向かっていく最初のサービスエリアは、遠くに高架が見えて旅の先が見えるような場所を選んだり、その都度考えて旅を構成していった感じです。
ワールドプレミアを終えた感想
菊地凛子:陽子の旅が今始まった気がしています。温かく上海の観客の方たちに受け入れられて安堵していると同時に、胸に迫る想いがしました。また、熊切監督とここに来られたことが、何よりも感慨深いです。
熊切和嘉監督:本当にこの映画にとって最初のお客さんで、最初のお客さんで、ワールドプレミアなので地味な映画でもあるのでどういう反応があるか不安もあったんですが、すごくビックリするくらい温かい反応で、お客さんの心に届いたなという手ごたえがあり嬉しくて、(客席で一緒に久しぶりに本作を鑑賞して)自分の映画なのにちょっと泣けました。
公開表記
配給・宣伝:カルチュア・パブリッシャーズ
7月28日(金) ユーロスペース、テアトル新宿他 全国順次公開
(オフィシャル素材提供)