イベント・舞台挨拶

真の民主主義を求めるドキュメンタリー『プレジデント』公開記念舞台挨拶

© Final Cut for Real, Louverture Films & Sant & Usant

 2017年の軍事クーデターで、独裁者ロバート・ムガベ大統領が辞任し、エメルソン・ムナンガグワを暫定大統領に任命したジンバブエ共和国。映画『プレジデント』は、クーデター後初となる大統領選の行方を現職のムナンガグワに挑戦する野党MDC連合の党首ネルソン・チャミサの姿を通して記録したドキュメンタリー。

 監督はユニセフやユネスコのメディア・コンサルタントとしても活躍するデンマーク出身の女性監督カミラ・ニールセン。ジンバブエの新憲法制定に向けた権力闘争を追った前作「Democrats(民主主義者)」(2014年)はトライベッカ国際映画祭で最高賞を受賞するなど高評価を受けた。その続編とも位置付けられる本作は、ジンバブエの民主化を求める国民と与党の激しい対立を臨場感をもって映し出し、サンダンス国際映画祭でワールドシネマ・ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞した。

 7月29日(土)の公開記念舞台挨拶には、デンマークよりZOOMでカミラ・ニールセン監督が登壇。元宝塚歌劇団星組の汐月しゅうが池袋シネマ・ロサで司会を務め、本作に込めた想い、8月23日に迫ったジンバブエでの大統領選の展望と、7月23日に総選挙の投票が行われ、与党が圧勝したカンボジアとジンバブエの共通点、ジンバブエに対し、民主主義の定着及び法の支配の推進のために選挙支援や情報へのアクセス支援を推進するために2億円無償資金協力した日本に期待することなどについて話した。

 本作が日本で昨日公開された感想を聞かれ、監督は、「今回日本で映画が公開されるのは、大変いいタイミングなんです。来月ジンバブエでは選挙が行われます。映画を観ていただいて、来月の選挙に注目していただけるという意味で、ベストタイミングでの公開となりました」とその意義を話した。

 本作を作った経緯については、「『プレジデント』の前に、”Democrats”というドキュメンタリーを3年かけて作った中で、ジンバブエの方々との信頼関係、情報へのアクセスなどができ、危険な場面にもカメラにいさせていただくことできました」と貴重な映像を撮影できた裏側について語った。

 8月23日に行われる次の大統領選については、「(本作で描かれている)前回と全く同じことが繰り返されるだろうと考えています。違いは、(本作の主人公の)チャミサが前回の2018年よりももっと人気を集めていることです。公平な選挙が行われるのであれば、75-80%の得票を獲得すると思いますが、残念ながら与党は権力へのこだわりが強いので、本作で描かれてたようなズルをしようとしているようです。公正な選挙を行うには、その前に、例えば、選挙候補者や投票者が投票者のリストを見ることができる、候補者たちが自由に集会を行える、メディアが中立、というような条件が整っていなくてはいけません。現時点でその部分で問題が起こっているので、残念ながら、暴力などの事件が起こるのではないかと危惧しています。国際社会に関しても、2018年の選挙から学んでいないと思いますので、現在の大統領がこのまま権力を握り続けるのではないかと恐れています」と展望を語った。

 この映画で描かれていることは、ジンバブエだけで起こっていることではない。7月23日に総選挙の投票が行われ、与党が圧勝したカンボジアとジンバブエの共通点について聞かれた監督は、「カンボジアはよく似ていると思います。カンボジアに限らず世界各国同じようなことが起こっていると思います。例えばモルディブやウガンダも選挙管理委員が支配を受けていて、選挙不正が行われている現状があります。EUでさえも疑問がある選挙が行われることがあります。私たちが投票して誰が権力につくのかというのは、最も大事にされるべきことだと思うんですが、アメリカのトランプとバイデンの選挙でも、トランプが選挙の後に“不正選挙だった”と述べましたが、あれも危険な行為だと思います。プロセスを管理して守っていかないと危険に晒されるので、独裁者が生まれたり、投票者の数が下がってしまう危険が大きくなっていくと思います。不正選挙を防ぐためには、民主主義の中で生きている私たちが、公正な選挙が行われているかについて注意して見ていくべきだと思います。上下院に誰を送り込むかにも注意していくべきだと思います」と持論を展開した。

 ジンバブエに対し、日本は、民主主義の定着及び法の支配の推進のため、選挙支援や情報へのアクセス支援を推進するために2億円無償資金協力した。日本の政府や日本の国民に期待すること聞かれた監督は、「私は映画制作者であって、選挙の専門家とは言えないので、私が2018年に体験したことからの発言ですが、選挙を外側から観察している人間が中で何が起こっているかを把握するのは大変難しいです。基本的条件が満たされているかに着目するのがポイントだと思います。例えば投票者リストが公開されているか、メディアの中で自由に発言したり中立を保つ環境が整っているか、投票に際して、暴力に遭う恐れがあるか。そのような条件が満たされていないのであれば、きちんとした選挙が行われたとは言えないので、日本政府や国際社会はその場合は、“これは違う”と立ち上がるべきだと思います。そのプロセスは荒れたものになるとは思いますが、国連や別の機関が入ることで選挙をやり直すことを検討する必要があるのではないでしょうか。選挙は不正が行われたと指摘する勇気を持つことは大事だと思います」と話した。

 登壇者:カミラ・ニールセン監督(ZOOM出演)、汐月しゅう(MC@劇場)

公開表記

 配給:NEGA
 池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺にて公開中 全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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