映画『こんにちは、母さん』完成披露試写会が都内で行われ、舞台挨拶に主演の吉永小百合、共演の大泉 洋、宮藤官九郎、永野芽郁、田中 泯とメガホンを取った山田洋次監督が登壇した。キャストたちは涼しげな浴衣姿で登壇して観客の目を喜ばせた。3面の大型スクリーンに映しだされる下町の風景(向島)をバックに、トークが繰り広げられた。
本作は、日本を代表する劇作家・演出家で劇団「二兎社」を主宰する永井 愛氏の同名の人気戯曲が原作。01年と04年に加藤治子と平田 満が母子を演じ、東京・新国立劇場で上演され、07年にはNHKでドラマ化された。現代の東京下町を舞台に、母親と息子、彼らを取り巻く人々が織り成す人間模様が描かれる。吉永が初の祖母役を務めることでも話題になっている。
山田監督にとって90本目の監督作。22年9月にクランクインした本作。吉永と山田監督のタッグは『男はつらいよ 柴又慕情』(1972年)、『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』(1974年)、『母べえ』(2008年)、『おとうと』(2010年)、『母と暮せば』(2015年)に続いて6作目となる。
劇中で74歳になる母・神崎福江役を演じた吉永は、今作であらゆる新境地に挑んでいるという。「大泉さん(息子役)のことを『お前』と呼ぶんです。これは生まれて初めてのことで最初は戸惑いがありましたが、そのうちに慣れてきました」と話す。撮影に入る前に「山田監督と向島などを見て歩きました。そこに生きている方々が生き生きとしていらっしゃる。それを思いだしながら撮影をしました」と地元の人の姿を役作りに生かしたことを明かした。
劇中、寺尾 聰演じる牧師・荻生へ恋心を抱く福江。“母親の恋”という展開については、吉永は「恋はとても大事。どんなに年を重ねても、ときめく心というのは持っていなきゃいけないと思います」と話し、初共演の寺尾について「寺尾さんに恋をする役というのは、ウキウキして楽しかったです」と美しい笑顔で語った。
山田監督は「僕も吉永さんをおばあちゃんと呼ぶことに抵抗がありました。おばあちゃんに見えない人に、おばあちゃんの動きをさせることが正しいのかと考えたときに、美しくて可愛い……そんなおばあちゃんがいてもいいんじゃないかと考えるようになったんです」と心境の変化を語った。
47歳の息子・昭夫役を演じた大泉は「吉永さんから僕が生まれますか? しかも僕の娘が永野芽郁ちゃんって?? いったい何が起きて、自分が生まれたのかっていうのが分からない(苦笑)。映画の中でも“突然変異”という言葉で処理させていただいております」と自虐コメントで会場を笑いで包んだ。「でも映画を観ていただければ、僕と吉永さんが母子であることに納得していただけると思います」とにっこり。
吉永の現場での様子について「とにかくお元気なんです。セリフが多くて長回しで撮影があっても、それが上手くいった時に飛び上がって喜ぶ吉永さんが本当に可愛らしくて、本当に素敵だったなと思いました」とコメントした。
昭夫の娘で福江の孫・舞役を演じた永野は、大泉とは今作で初共演。父と衝突するシーンをあげて、永野は「自分の気持ちが高ぶる瞬間もあれば、ぶつけたくなったりもするのですが、そういうのを大泉さんが全部受け止めてくださったので、すごく好きな父でした」とコメントした。吉永については「(共演は)すごく光栄でした。女優さんとして尊敬はもちろんありますけど、すごく憧れを抱きました」と語った。
福江がボランティアとしてサポートするホームレスのイノさんこと井上を演じた田中は「山田監督の『たそがれ清兵衛』で俳優デビューさせていただいてから20年、今もやっています。ちっともうまくならなくて……」と謙遜。山田監督が「20年変わらない。それはスゴイ値打ちのあること。素晴らしい」と絶賛だった。
宮藤は「撮影現場で、山田監督のエネルギッシュな姿に励まされました。カット割りなど、現場で全部ジャッジする。山田洋次は迷わないと思っていたんですが、迷うんですよね。それがすごく嬉しかった」と現場を振り返っていた。工藤は昭夫の大学時代の友人で同じ会社に同期入社した木部富幸役を演じている。
タイトルにちなんで、「最近、こんにちは したものは?」という質問が振られると、吉永は「こんにちは、赤ちゃんです」と笑顔で応えた。「かずなりさんの赤ちゃんとお会いすることができました」。山田監督作品の『母と暮せば』(2015年)で母と息子を演じた、ジャニーズの元嵐の二宮和也のこととみられる。(21年3月に長女、22年に11月には次女が誕生)
また、吉永は「今度は大泉さんのお嬢さんにぜひ、お会いしたいです」と大泉に呼びかけ、大泉は「あぁ……ぜひ」と応えていた。
舞台挨拶の最後に吉永は、クランクイン前に、山田監督から「もしかしたら途中で出来なくなるかも知れない……」と告げられていたこと明かし、「それを伺って驚きましたし、辛かったのですが、撮影が始まると、どんどん、どんどん元気になられて。本当に良かったと思います。たくさんの方に、この映画を観ていただきたいと切望しております」と客席に向かって伝えた。
山田監督は「そんなこと言ったかなぁ」と首をかしげながら「僕、ずいぶん、格好つけているんだなぁ」と言って、客席を笑わせた。映画をお披露目するとき「毎回、判決を聞く被告の気持ち。できることなら無罪であってほしい。何十年も映画を作ってきたけれど、毎回不安」と打ち明けた。続けて「クランクアップの日(22年11月)に、途中で倒れたりしないで良かったと、どこかで思ったのは事実です」と話した。「小百合さんも、大勢のスタッフたちも、一生懸命、サポートしてくれて、みんなが心を込めて、この映画が完成しました。本当に、みんなの力で作ったんだと思っています……」と感慨深くコメントした。
吉永にとって123本目の映画で、『母べえ』『母と暮せば』に続く、「母」3部作の集大成となる。
登壇者:吉永小百合、大泉 洋、宮藤官九郎、永野芽郁、田中 泯、山田洋次監督
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:松竹
9月1日(金) 全国公開