プンクテ配給作品第一弾として、<ウルリケ・オッティンガー「ベルリン三部作」>が8月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開される。この度、オッティンガー監督のメッセージ動画と著名人からのオッティンガー作品を評したコメントが解禁された。
この度、81歳となるウルリケ・オッティンガー監督から日本の観客へメッセージが届いた。今回デジタルリマスター版が上映される『フリーク・オルランド』が1994年に劇場公開されて以来、日本では目にする機会が少なかったオッティンガー作品。監督は日本で本格的に自作が公開されることに「素晴らしい“旅”になることを願っています」と笑顔を見せた。
ウルリケ・オッティンガ― Ulrike Ottinger
1942年6月6日、ドイツ南部コンスタンツ生まれ。1962年から1969年の初めまで、パリでアーティストとして活動。その頃、クロード・レヴィ=ストロース、ルイ・アルチュセール、ピエール・ブルデューらの講義を受ける。西ドイツに帰国し、最初の映画作品『Laokoon und Söhne(ラオコーンと息子たち)』(1972-73)を制作した。以降、フィクションとドキュメンタリー、あるいは映画の制約に囚われない創作活動を重ね、2020年にベルリン国際映画祭でベルリナーレカメラ賞(功労賞)を受賞。2021年、22年にはヨーロッパを中心に各地で大規模なレトロスペクティブやシンポジウムが開催。映画及び視覚芸術表現の領域において次代に向けた再評価の機運が高まっている。
また、事前に作品を鑑賞した著名人からのコメントも到着。漫画家の楠本まきは「40年の時を経てなお観るものを慄かせ、深い悦楽へといざなう」と絶賛し、映画監督で映像作家の清原 惟は「神話のように美しく残酷な世界は、オッティンガーだけが見せられる夢なのかもしれない」とつづった。さらに同志社大学教授で今年『クィア・シネマ』(フィルムアート社)を上梓した菅野優香は「クィアでフェミニスト的だが、それらが決して交わることなく、互いを撹乱し合うのがオッティンガーの作品である」と評した。また日本や韓国のVOGUEやGQでクリエイティブ・ディレクターを25年間担当していたジーン・クレールは「『アル中女の肖像』において、“彼女”の衣装は華麗さとウィットで時代を特徴づけている」と、オッティンガー作品にとって重要な衣装についてコメントを寄せた。ほか、遠藤倫子、北村道子、小島秀夫、中原昌也、四方田犬彦からのコメントは、下記のコメント一覧を参照。
「ニュー・ジャーマン・シネマ」の時代から精力的に作品を発表しながら、日本では紹介される機会が少なかったドイツの映画作家ウルリケ・オッティンガー。今夏、「ベルリン三部作」と呼ばれる『アル中女の肖像』(79)、『フリーク・オルランド』(81)、『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』(84)を一挙公開。『アル中女の肖像』と『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』は日本の劇場では初めてのロードショー、『フリーク・オルランド』は29年ぶりの劇場公開となる。
ドイツ在住の小説家・詩人の多和田葉子はベルリン国際映画祭での功労賞受賞式で次のように祝辞を述べた。「ダンテは『神曲(神聖喜劇)』を、バルザックは『人間喜劇』を書きました。オッティンガーの映画は、“人間と神々の喜劇”と呼べるのではないでしょうか?」。
フェミニズム映画やクィア映画の文脈で論じられるなど、従来のさまざまな規範を揺るがす先進性が再評価されているオッティンガー作品。「ベルリン三部作」は、物語の「わかりやすさ」をはねつけ打ち壊す過激さを持つ一方で、その映像は見ることの喜びへと誘うユーモアと美意識に溢れている。そして、冷戦下の西ドイツにおいて「ベルリンの壁」に分断された都市の荒廃した風景を捉えており、現在のベルリン、あるいは都市について考えるための歴史的な記録としても貴重なものである。生々しい知性と豊かで鋭い感性を備える3つの作品が、製作から40年余りの時を超えて、ついに映画館のスクリーンに現れる。
著名人からのコメント
遠藤倫子(zine「ORGASM」発行人)
無秩序で力強くて破壊的、常識を自由にブチ破っていくオッティンガーの世界。みたことのない光景、美しくて妖しい地獄めぐりに痺れまくる……好きです。私も己の鏡をバリバリと踏みつけて、この道を独りで行く。
菅野優香(同志社大学教授/『クィア・シネマ』著者)
クィアでフェミニスト的だが、それらが決して交わることなく、互いを撹乱し合うのがオッティンガーの作品である。節度を嫌い、常識を拒むこの異端の映画作家は、旅と変身をとおして未知の映画世界への扉をこじ開けてしまう。
北村道子(スタイリスト)
ウルリケ・オッティンガーの類稀なる作品が日本にやって来た!
彼女の才能はいかにして開花したのか? それを知るには映画を観るしか方法はないのです。
清原 惟(映画監督・映像作家)
神話のように美しく残酷な世界は、オッティンガーだけが見せられる夢なのかもしれない。でもその中に、生身の人間たちが生きる切実さがあることに、時折気づかされる瞬間があって、その夢をよりいっそう美しくしているのだと思った。
楠本まき(漫画家)
綺麗は汚い、汚いは綺麗———
ヴァージニア・ウルフのフルイディティーが、オスカー・ワイルドのクィアネスが、壁崩壊前の西ベルリンでオッティンガーにより斯くも奇妙に精巧に紡ぎ直され、40年の時を経てなお観るものを慄かせ、深い悦楽へといざなう。
小島秀夫(ゲームクリエイター)※『アル中女の肖像』へのコメント
飲酒や喫煙がロックなサブカルだった70年代。ベルリンにやって来た名もなき女の奇行ともいえる“飲酒観光”。ファッション、メイク、カラー、冷戦下のベルリンの風景。ニュー・ウェーヴなルックが、酔ってしまうほどに美しい。砕け散る彼女たちの“肖像”は、この現在(いま)にこそ響く。
ジーン・クレール(クリエイティブ・ディレクター)
『アル中女の肖像』において、「彼女」の衣装は華麗さとウィットで時代を特徴づけている。従来のシックに則っておらず、ニュアンスよりもディテールを重視し、誇張を美徳とするものである。
中原昌也(ミュージシャン、作家)
N.D.W(ノイエ・ドイチェ・ヴェレ)における『BLANK GENERATION』(1980、監督ウリ・ロンメル)みたいな作品てあるんですかね、と明石(政紀)さんに聞きたかったけど果たせないままになった。追悼の意味を込めて、オッティンガーの作品を見よう!
四方田犬彦(映画誌・比較文学)
これはいったい何なのだ。欠落しているのはハーケンクロイツだけで、世界中のキッチュというキッチュが全集合している。世界は深さを喪失した。おもちゃ箱がひっくり返り、怪物たちの行進が始まった。
上映作品
『アル中女の肖像』 Bildnis einer Trinkerin|Ticket of No Return
(1979年、西ドイツ、上映時間:108分)※ 国内劇場初公開
監督・脚本・撮影・美術・ナレーション:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ペーア・ラーベン
衣装:タベア・ブルーメンシャイン
歌:ニナ・ハーゲン
出演:タベア・ブルーメンシャイン、ルッツェ、マグダレーナ・モンテツマ、ニナ・ハーゲン、クルト・ラープ、フォルカー・シュペングラー、エディ・コンスタンティーヌ、ヴォルフ・フォステル、マーティン・キッペンバーガー 他
飲むために生き、飲みながら生きる、酒飲みの人生。西ドイツのアート、ファッション・シーンのアイコン的存在であったタベア・ブルーメンシャインの爆発する魅力。R.W.ファスビンダーが「最も美しいドイツ映画」の一本として選出し、リチャード・リンクレイターが最愛の作品とする。
『フリーク・オルランド』 Freak Orlando
(1981年、西ドイツ、上映時間:127分)
監督・脚本・撮影・美術:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ヴェルヘルム・D.ジーベル
衣装:ヨルゲ・ヤラ
出演:マグダレーナ・モンテツマ、デルフィーヌ・セリッグ、ジャッキー・レイナル、アルベルト・ハインス、クラウディオ・パントーヤ、エディ・コンスタンティーヌ、フランカ・マニャーニ 他
ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を奇抜に翻案し、神話の時代から現代までが5つのエピソードで描かれる「小さな世界劇場」。ユニークな映像感覚の中に、ドイツロマン主義の伝統とブレヒトやアルトーなどの近現代演劇の文脈が息づく。
『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』 Dorian Gray im Spiegel der Boulevardpresse|Dorian Gray in the Mirror of the Yellow Press
(1984年、西ドイツ、上映時間:151分)※ 国内劇場初公開
監督・脚本・撮影・美術:ウルリケ・オッティンガー
音楽:ペーア・ラーベン、パトリシア・ユンガー
出演:ヴェルーシュカ・フォン・レーンドルフ、デルフィーヌ・セリッグ、タベア・ブルーメンシャイン、トヨ・タナカ、イルム・ヘルマン、マグダレーナ・モンテツマ、バーバラ・ヴァレンティン 他
伝説的なスーパーモデル、ヴェルーシュカが主演。デルフィーヌ・セイリグ、タベア・ブルーメンシャインらが特異な存在感を持って脇を固める。オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』や「ドクトル・マブゼ」などのモチーフを含み込み、バロックで、デカダンスで、ダダイスティックな独自の世界観を生み出している。
オフィシャル・サイト(外部サイト)
予告編
公開表記
配給・宣伝:プンクテ
8月19日(土)、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
(オフィシャル素材提供)