2000年カンヌ国際映画祭監督賞受賞作『ヤンヤン 夏の想い出』などで知られるエドワード・ヤン監督が、1994年に発表した『エドワード・ヤンの恋愛時代』が4Kレストア版として蘇り、いよいよ今週末8月18日(金)よりTOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他全国にて公開となる。
公開を記念して、BBCが1995年に選出した「21世紀に残したい映画 100本」に台湾映画として唯一選ばれ、映画史に燦然と輝く傑作として知られるエドワード・ヤン監督作品『牯嶺街少年殺人事件』(1991)が、8月11日(金・祝)より1週間限定でTOHOシネマズ シャンテにて上映され、その 初日となる同日に、プレミア先行上映となる『エドワード・ヤンの恋愛時代』と『牯嶺街少年殺人事件』を一挙上映するイベントを実施、濱口竜介監督(『ドライブ・マイ・カー』)と岨手由貴子監督(『あのこは貴族』)の二人がスペシャル トークショーを行った。『ドライブ・マイ・カー』で米アカデミー賞®最優秀外国語映画賞を受賞した濱口竜介と、『あのこは貴族』がTAMA映画賞最優秀作品賞受賞するなど高い評価を受けた岨手由貴子、エドワード・ヤン監督をこよなく愛する二人によるスペシャルトークショーの模様が到着した。
■「『エドワード・ヤンの恋愛時代』は、映画好きになっていくうえでの入り口になった作品」(濱口竜介)、「見返すごとに好きになる。大人になるにつれ、特に好きな一作になった」(岨手由貴子)
いま最も国内外から注目を集める稀代の映像作家である二人が語る、エドワード・ヤン作品の魅力とは?
20代前半に、『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)で初めてエドワード・ヤン監督作品を見たという濱口監督。濱口監督にとって、『エドワード・ヤンの恋愛時代』とは?とモデレーターを務めたライター・編集者の月永理絵からの質問に、「素直におもしろいと思えるエドワード・ヤン作品であり、僕にとってのエドワード・ヤン映画の入り口になってくれた作品、そして映画好きになっていくうえでの入り口にもなった作品」だと語った。また、ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』がエドワード・ヤン監督作品の入り口だったという岨手由貴子監督は「とにかくすごいものを見た(と思った)。でも ンタルしたVHSで見たのであまりよく見えなくて分からない部分もたくさんありました。でもとにかくすごいことだけは分かる、という映画体験でした。『恋愛時代』は『牯嶺街少年殺人事件』ほどの衝撃はなかったけど、見返すごとに年々好きになっていくというか、大人になるにつれて、エドワード・ヤン作品のなかでも好きな一作になりました」と語った
それぞれの作品づくりにおいての影響を問われると、「映画を撮るうえで、だんだん影響を受けていくのを感じます。いちばんはカメラの置き方、視点の見つけ方ですね。どこにカメラを置いたら豊かになるか、『映画にならないな』と思いながら暮らしているこの街の、どこだったら映画になるのか。ヤン監督の作品は、空間のなかで人物が生きていて、空間そのものが人物の構造にも影響を与えている。人間関係だけじゃなくて、街自体を描くことを自分の映画でもやりたいなと思っています」と濱口監督。岨手監督は、「おこがましい話ですが、実は『あのこは貴族』は『恋愛時代』をかなり意識して作った作品です。 都市のなかで、登場人物たちが明らかに東京でしかありえない人間関係、暮らしをしていて、その街に馴染んでいるのではなく、どこか浮遊している感覚だったり、ちょっとした摩擦や亀裂が登場人物たちと街のあいだに生まれていることを表現できないだろうかと考えた時に、『恋愛時代』が参考になりました」と語り、『エドワード・ヤンの恋愛時代』の『あのこは貴族』への大きな影響について語った。
さらに二人は、このたび公開される4Kレストア版で本作を再見した感想を語った。
「(はっきりと見えるようになりましたよね、みんな顔が分かる(笑)。実は『牯嶺街少年殺人事件』と『恋愛時代』は出演俳優が共通しているんですけど、数年前の『牯嶺街少年殺人事件』のデジタル・リマスター版と、今回の『恋愛時代』4Kレストア版を見てようやくそれが分かりました 。また声もとても印象に残りましたね。喧嘩をしているシーンの痛い感じや、暗い場面での親密な二人だけの空間で発せられる声が如実に描かれていて、前に見た時よりすべてが自分の心に届くような気がします」(濱口)。
「前にDVDで見た時は、単純に見えなくて登場人物を混同していました(笑)。そのくらい全然違う印象でした。歩道橋で義理の兄が一人で下を眺めるシーンがあるのですが、DVDで見た時はあまり印象に残ってなかったんです。でも今回レストア版であのシーンを見たとき、『 あっ、この映画は基本二人、カップリングで構成されているんだ』と気づき、一人になる瞬間が鮮烈に感じられたんです。二人でいるのに何か気持ちが寄り添えきらない人たちのカップリングがずっと描かれるからこそ、一人になった時ポジティブな気持ちではないはずなのに、どこか清涼感を感じる気がしました」(岨手)。
最後に、濱口監督は、「大学院の時に大視聴覚教室で『牯嶺街少年殺人事件』を見て、自分の映画人生が変わった瞬間だった 。こんな映画が存在するのか、と。世界そのものが映っているという感覚をもちました。それがいま自分が映画をやるモチベーションになっています」と語り、岨手監督は、「『牯嶺街少年殺人事件』も『恋愛時代』も分かりやすい映画ではないが、よく分からなかったらもう一度見ていただけたらと。何回も見るうちに自分の脳内解釈も変わってくるし、人生観も変わってくる。そういった体験をさせてもらえること自体 が、私は映画を見る一つの価値だと思います」と熱をこめて満席の観客に向むかって語りかけた。
『牯嶺街少年殺人事件』はTOHO シネマズ シャンテにて8月17日(木)までの限定上映。
『エドワード・ヤンの恋愛時代』
スタッフ&キャスト
監督:エドワード・ヤン
出演:チェン・シャンチー、ニー・シューチュン、ワン・ウェイミン、ワン・ポーセンほか
(原題:獨立時代、1994年、台湾、上映時間:129分)
ギャラリー
予告編
オフィシャル・サイト(外部サイト)
公式twitter:@Edwardyang_film
公開表記
配給:ビターズ・エンド
8月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他にてロードショー!
(オフィシャル素材提供)