イベント・舞台挨拶

『カムイのうた』トークイベント@GOOD LIFEフェア2023

Ⓒシネボイス

 映画『カムイのうた』の劇場公開前トークイベントが、9月2日(土)、東京・ビックサイトにて開催中の朝日新聞社主催「GOOD LIFEフェア2023」<9月1日(金)~3日(日)>の会場で行われ、主演の吉田美月喜をはじめ、共演の島田歌穂、菅原浩志監督と、知里幸恵記念館館長の木原仁美氏が登壇した。

 『カムイのうた』は、本作の脚本も書き下ろした菅原浩志監督がメガホンをとり映画化。文字を持たないアイヌ民族が口頭伝承してきた叙事詩ユーカラを日本語に訳し「アイヌ神謡集」として残した実在の人物・知里幸恵の壮絶な人生を描いた物語。知里幸恵をモデルにしたテルを吉田美月喜が演じ、テルに思いを寄せる一三四を望月歩、叔母イヌイェマツを島田歌穂、兼田教授を加藤雅也など、個性ある実力派俳優が顔を揃えた。

 本イベントでは「ピリカウレシカ アイヌ文化と知里幸恵さんの魅力」をテーマに、本作の映画公開に先立ちアイヌ民族について話が繰り広げられた。

 役を演じるうえでアイヌ文化を学んだという吉田は「この映画に携わるまで正直アイヌ文化をあまり知らなくて、1から学ばせていただきました。その中で一番驚いたのは、劇中で島田さん演じるイヌイェマツが言った、床にお茶をこぼしたときに『床の神様は喉が渇いていたんだ』というセリフです。小さい頃、お米一粒にも神様がいて……ということは聞いたことがありましたが、床にも神様がいるんだと。アイヌの方は全てに神が宿っていて、その神の中で自分たちは助けられて生かされているという考えをすごく大切にしていて、素敵だなと思いました」とアイヌ文化に魅了された様子。

 実在した人物を演じることに、「実在された方を演じるのは初めてでしたし、ちゃんと説得力のある作品にしなければいけないというプレッシャーもありました。アイヌ文化をしっかり伝えていくには自分が一番理解しなくてはいけない。知里さんのこともイメージしながら臨みました」と回顧。「撮影時に私もちょうど19歳だったので、知里さんが亡くなられた歳に映画を撮らせていただけたので、19歳の知里さんはどう思っていたんだろうと考えながら演じました」と、19年という短い生涯を送った主人公に思いを馳せた。

 島田も「私も全てのものに神が宿っているという考えは本当に素晴らしいと思います。日頃、ぞんざいに扱ったり、邪魔だなと思ってしまうかもしれないものにも一つひとつ命が、神が宿っている。その考えがまさにそのセリフに象徴されていると思いました」と、吉田の言葉に同調。父親が北海道出身だという島田だが、「本当にアイヌの文化や歴史について知らなかったなと。アイヌの方々の考え方、いろいろな境遇にも負けずに自分たちの文化を守っていく生き方に感銘を受けました」と語った。

 北海道の雄大な自然や動物たちも登場しているが、監督は「“ピリカ”というのは素晴らしいとか、綺麗とか、Goodという意味で、“ウレシカ”は人生、Life、生活と言う意味です。その“ウ”は、互いに。“レシカ”は育てる。なので“互いを育てる”のがLife=生活という語源なんです。すごく意味深いなと感じます」と話し、「映画を作るにあたって、アイヌのことを勉強したのですが、非常にたくさん教わるべきことがありました。今までどうしてこんな大切なことを教わってこなかったんだろうと感じました」と、改めてアイヌ文化の素晴らしさに感慨深げ。

 アイヌ文化が詰まった本作では、アイヌ民族の楽器・ムックリを奏でる姿も描かれているが、ここで実際に吉田が生披露する場面も。ムックリとは竹製でできたシンプルな楽器で、幅1㎝、長さが10~15センチくらいの口の中で響かせて鳴らすもの。その音で雨や風、動物の声や自分の感情を自由に表現する。緊張しながらも見事に会場にムックリの音を響かせた吉田は、「今回撮影させていただいた北海道・東川町の自然をイメージしながらやってみました」とニッコリ。

 吉田の演奏に監督は、「アイヌは自然と共存している民族。とても自然をリスペクトしています。ムックリは自分でも作ることができるくらいシンプルなんですが、音が出ない。こんなに音がでるのはすごいです」と感心しきり。島田も「本当にとても上手に演奏されていましたね」と称えていた。

 さらに、独自のアイヌ文化とも言えるユーカラという謡を島田歌穂が生披露も。ユーカラとはアイヌ民族に伝わる叙事詩のこと。彼らは神話や英雄の伝説を文字ではなく、語り手の表現、語り口による豊かな表現方法で語り伝えてきた。また、棒で音を出して節をつけて語られる臨場感のある物語。ユーカラは長いものだと10時間、何日間も続くものもあるそうで、口伝えでその人の自己表現をしながら継承されていく。島田は「小鳥の耳飾り」という曲を披露し、監督と吉田も棒を叩き、吉田が合いの手を入れて参加。島田の歌声で会場は一気に映画の世界感にいざなわれた。

 これまで全国各地の民謡を歌っているという島田だが、「リズム、メロディーも(ユーカラは)今まで聞いたことのない音楽。その上アイヌの言葉が未知だったので難しかったけれど、なんか懐かしい感じがする、特別な音楽でした」としみじみ。吉田も劇中でユーカラを披露しているが、「耳に残ってつい口ずさんでしまうような、懐かしいような心地いい雰囲気があるんです」と笑顔を見せる。

 ここで、知里幸恵記念館館長の木原仁美氏がアイヌ民族衣装で登場。木原氏は知里幸恵さんの姪の娘さん。島田の歌声に「本当に素敵でした」と感動の面持ち。今年は知里幸恵生誕120年、「アイヌ神謡集」出版100年という節目の年となるが「知里幸恵の功績を動いた形で観られることに期待しています。この年に映画が公開されて、さらに幸恵が注目されると思います。さらに世界にまで広がっていければ嬉しいです」と期待を胸にほほ笑んだ。

 「アイヌ神謡集」について、監督は「知里さんがその序文を19歳で書かれているのですが、本当に素晴らしい名文です。北海道の歴史、アイヌ民族の歴史、彼女の想い、将来どうしたいかということが凝縮された2ページなので、ぜひ読んでいただきたい」と絶賛し、「この映画の中でもこの序文を映像で表現しております。知里幸恵さんがぜひスクリーンで蘇ってもらいたいという思いでこの映画を作りました」と力を込める。

 イベントでは、木原氏が持参のムックリで音を奏でる一幕も。何層にも音が重なり、まさに大自然の中にいるような表現に会場は感動に包まれた。「風の音や熊の鳴き声などを想像して弾いてみました」と木原氏。

 そして、「アイヌ民族は、“カムイ”と言って全てのものに魂が宿ると考えています。人間に役に立つものは全て“カムイ”。火、熊、船……いろいろなものが神様になるんです。その神が見ているから、物を大切にすること、頂いたものを全て余すことなく活用するという考えで生きています。また、文字を持たないので、記憶力がすごく良かったと聞いています。ユーカラも耳で覚えて1度聞いたら全て覚えるほどだったと」と、アイヌ民族が大切にしてきた考えや知恵を述べた。

 また、映画『カムイのうた』では、日本の先住民族の文化を伝えるだけでなく、いじめや差別のない社会をと言う願いを込めて作られてもいる。監督は差別を受けてきた歴史にも触れ、「北海道の地名のほとんどはアイヌ語だったんです。札幌、旭川、長万部も。ちゃんと意味がある。どれだけアイヌの人々が北海道に住んでいたか。北海道中を知っていたか。それを和人(大和民族)たちによって漢字に書き直されてしまったんです。なので、本質は一体何か、その裏の本当の意味を我々は見なくてはいけない。それをアイヌの人たちは教えてくれたんだと思います」と熱弁。

 最後に、吉田は「アイヌ文化は学べば学ぶほど奥が深い。全てのものに神が宿っているという考えで、無駄なものを取らず、必要最低限のものを頂くという気持ちを忘れずに生活していくことは絶対に必要だと思います。映画もぜひご覧ください」と、思いの丈を吐露。島田は「私自身も大切なアイヌ文化のユーカラをたくさん歌わせていただいて、大切なことをたくさん学ばせていただきました。お一人でも多くの方にこの映画に触れていただきたい。そしてアイヌ民族の方々のことを知っていただき、必ず大切な何かを感じていただける作品になっています」と作品への出来栄えに胸を張る。

 監督は取材時に出会ったある子どもたちの話を例にあげ、「『氷が解けたら何になる』と言う質問に、普通は『水になる』と答えるのですが、アイヌの子どもは『氷が解けたら春になる』と答えたのです。その感受性、自然を大切にし、自然と一緒に生きてきた彼らの心を我々も学んでいきたいなと思います。ぜひ、映画をご覧になって吉田さんの素晴らしい演技、島田さんの彼女でしか歌うことができない歌をご覧いただき、そしてアイヌ文化に触れるきっかけになっていただければ嬉しいです」とメッセージを送り、イベントを終了した。

 登壇者:吉田美月喜、島田歌穂、菅原浩志監督/木原仁美(知里幸恵記念館館長)

ストーリー

 アイヌの心には、カムイ(神)が宿る――学業優秀なテルは女学校への進学を希望し、優秀な成績を残すのだが、アイヌというだけで結果は不合格。その後、大正6年(1917年)、アイヌとして初めて女子職業学校に入学したが土人と呼ばれ理不尽な差別といじめを受ける。
 ある日、東京から列車を乗り継ぎアイヌ語研究の第一人者である兼田教授がテルの叔母イヌイェマツを訊ねてやって来る。アイヌの叙事詩であるユーカラを聞きにきたのだ。叔母のユーカラに熱心に耳を傾ける教授が言った。「アイヌ民族であることを誇りに思ってください。あなた方は世界に類をみない唯一無二の民族だ」。
 教授の言葉に強く心を打たれたテルは、やがて教授の強い勧めでユーカラを文字で残すことに没頭していく。そしてアイヌ語を日本語に翻訳していく出来栄えの素晴らしさから、教授のいる東京で本格的に頑張ることに。同じアイヌの青年・一三四と叔母に見送られ東京へと向かうテルだったが、この時、再び北海道の地を踏むことが叶わない運命であることを知る由もなかった……。

 (2023年、日本、上映時間:125分)

キャスト&スタッフ

 出演:吉田美月喜、望月 歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也
 監督・脚本:菅原浩志
 プロデューサー:作間清子
 主題歌:島田歌穂
 製作:シネボイス
 製作賛助:写真文化首都「写真の町」北海道東川町

オフィシャル・サイト(外部サイト)

カムイのうた
北海道東川町が企画協力し製作する、アイヌ文化と共に「大雪山文化」を伝える映画です。

公開表記

 配給:トリプルアップ
 2023年11月23日(木・祝)、北海道先行公開!!

(オフィシャル素材提供)

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