作品紹介

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

© THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP

イントロダクション

 第二次世界大戦下のナチス・ドイツ。「最終解決」においてユダヤ人を強制収容所に送り込み抹殺する計画立案者だったアドルフ・アイヒマンは、敗戦の混乱に乗じて戦争捕虜収容所から脱走し、5年後、アルゼンチンへとたどり着いた。1960年にイスラエル秘密諜報機関(モサド)は、アルゼンチンに潜伏中のナチス・ドイツの大物戦犯、アイヒマンを拉致し、イスラエルへと極秘連行。4ヵ月にわたる裁判の末、イスラエル政府はアイヒマンに61年12月に死刑判決を下し、翌年5月31日から6月1日の真夜中《イスラエル国家が死刑を行使する唯一の時間》の“6月0日”に絞首刑に処した。遺体は火葬され、遺灰はイスラエル海域外に撒かれたことが知られている。
 アイヒマンの逮捕劇や裁判は『オペレーション・フィナーレ』(18)、『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(16)、『スペシャリスト/自覚なき殺戮者』(99)など多くの作品が伝えてきた。しかし、どの作品でも触れない点がある。実は、人口の9割がユダヤ教徒とイスラム教徒を占めるイスラエルでは律法により火葬が禁止されており、火葬設備が存在しないのだ。では、誰が、どうやってアイヒマンの遺体を火葬したのか? 遺体処理の極秘プロジェクトに巻き込まれたワケあり町工場の人々、居場所のないリビア系移民の少年、アイヒマンを監視する護衛、ホロコーストの生存者で裁判ではアイヒマンを尋問した捜査官と、イスラエルの片隅に生きる人々を通して、アイヒマンの最期の6ヵ月の“真相”をあなたは目撃する!ウィキペディアも掲載しない、その理由とは?

 《現代史の大いなる節目》を独創的な視点で見つめ直し、監督・脚本を務めたのは、ジェイク・パルトロウ。アカデミー賞®︎俳優のグウィネス・パルトロウの弟であり、『マッド・ガンズ』(14)、『デ・パルマ』(15)などを監督した彼にとって、初のヘブライ語作品となる。父親とは第二次世界大戦とユダヤ人の歴史についてのBBCドキュメンタリーをよく観たと語る監督。死刑が廃止され、火葬が行われないはずのイスラエルで、アイヒマンが火葬された史実と矛盾に興味を持ち、イスラエルでリサーチを敢行。当時、工場で働いていたと語る人に出会い、映画の中のダヴィッドのキャラクターが生まれた。そしてホロコーストの生存者や関係者の証言に耳を傾けるうちに、文化的、歴史的、心理的に繊細な事情を取り扱うには英語ではなくヘブライ語で描かれるべきと決断。イスラエル出身のトム・ショヴァル監督を共同脚本に迎えてヘブライ語の脚本を完成させた。キャストもイスラエル人俳優を起用し、物語の中心となる少年ダヴィッドには、演技未経験の11歳、ノアム・オヴァディアをスカウト。教師役の俳優がオヴァディアの通訳兼演技指導を行い、英語とヘブライ語が飛び交う現場でフレッシュな才能が花開いた。

 60年間、関係者が墓場まで持っていくはずだったアイヒマン処刑の内幕は、灰にする方も灰にされる方もアイロニックな状況だった。ナチスに憎しみを抱くイスラエル国民と、ナチスの所業を知らない移民少年が団結して、ナチス愛用の焼却炉を超特急でこしらえていたとは誰が想像しただろう。ひとりの少年が見つめた歴史的出来事と、大人たちのざわつきを描く衝撃のヒューマン・ドラマが、イスラエルから上陸する。

© THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP

ストーリー

 1961年。4ヵ月に及んだナチス・ドイツの戦争犯罪人、アドルフ・アイヒマンの裁判に、死刑の判決が下された。リビアから一家でイスラエルに移民してきたダヴィッド(ノアム・オヴァディア)は、授業を中断してラジオに聞き入る先生と同級生たちを不思議そうに見つめていた。
 放課後、ダヴィッドは父に連れられて町はずれの鉄工所へ向かう。ゼブコ社長(ツァヒ・グラッド)が炉の掃除ができる少年を探していたのだ。ヘブライ語が苦手な父のためにと熱心に働くダヴィッドだったが、こともあろうか社長室の飾り棚にあった金の懐中時計を盗んでしまう。それはゼブコがイスラエル独立闘争で手に入れた曰く付きの戦利品だった。
 居心地の悪い学校を抜け出し、ダヴィッドは鉄工所に入り浸るようになる。左腕に囚人番号の刺青が残る板金工のヤネク(アミ・スモラチク)や技術者のエズラ、鶏型のキャンディがトレードマークのココリコなど、気さくな工員たちはダヴィドをかわいがってくれる。ゼブコも、支払いのもめ事を解決してくれたダヴィッドに一目置くようになる。そんな時、ゼブコの戦友で刑務官のハイム(ヨアブ・レビ)が設計図片手に、極秘プロジェクトを持ち込んできた。設計図はアウシュビッツで使われたトプフ商会の小型焼却炉。燃やすのはアイヒマン。工員たちに動揺が広がる——。

 (原題:JUNE ZERO、2022年、イスラエル・アメリカ、上映時間:105分)

キャスト&スタッフ

 監督:ジェイク・パルトロウ
 脚本:トム・ショヴァル、ジェイク・パルトロウ
 撮影監督:ヤロン・シャーフ
 美術:イータン・レヴィ
 編集:アイェット・ギル・エフラット
 衣装:インバル・シュキ
 ヘアメイク:リナト・アロニー
 オリジナルスコア:アリエル・マルクス
 音響:アヴィヴ・アルダマ
 製作:デヴィッド・シルバー、ミランダ・ベイリー、オーレン・ムーヴァーマン

 出演:ツァヒ・グラッド、アブ・レビ、トム・ハジ、アミ・スモラチク、ジョイ・リーガー、ノアム・オヴァディア

ギャラリー

予告編

オフィシャル・サイト(外部サイト)

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公開表記

 配給:東京テアトル
 9月8日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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