イベント・舞台挨拶

『GREEN GRASS~生まれかわる命~』名古屋・大阪3劇場で舞台挨拶&イシザキ マサタカと学生による座談会

©2022「GREEN GRASS~生まれかわる命~」上映実行委員会

 映画『GREEN GRASS~生まれかわる命~』豪華3劇場舞台挨拶が9月30日(土)、愛知県・ミッドランドスクエア シネマ、愛知県・刈谷日劇、大阪府・第七藝術劇場で行われ、W主演のイシザキ マサタカ、西岡德馬、メガホンをとったイグナシオ・ルイス監督が登壇した。

 本作は日本とチリの修好120周年記念事業として製作され、“映画界史上初”となる日本とチリ合作映画で、東日本大震災で死後の世界に旅立った息子と、息子を失った父親の2つの視点で人生が描かれ、死を受け入れられない若者の葛藤と遺された家族の複雑な心模様を独特の映像美で綴ったヒューマン・ドラマ。

 死後の世界に旅立った息子・近藤 誠役を演じ、本作の企画にも関わったイシザキは、「この映画の誕生の瞬間は、2010年カンヌ国際映画祭でイグナシオ監督とカフェで出会い、一緒に作品作りをしてみたいと思ったことがはじまりです。それぞれの国に帰国した後、名刺1つを頼りに連絡を取り合い、13年かけて、こうして映画が誕生し日本で公開できたことは感無量です」と嬉しそうに語った。

 息子を失った父親・近藤清役を演じる西岡は、「これほどセリフがなく、映像で撮影していただける映画は、本当になかなか無いのですが、言葉に出してしまうと説明になってしまうところを抑えて、清と誠の疎遠になっていていたけれど、息子が死んでしまったことを知って遺品を整理しているときに込み上げてくる『この子とは会えないのだ。会えると思っている時間と、本当にもう会えないという時間の違いと、どうしてもっと愛してやれなかったのか』そんな後悔しきれない思いを、言葉にしない分、胸に思いを込めることができ、エネルギーを注ぐことができました。気持ちを込められると、俳優としては、表情も自然と変わるので、心が動いていることの本気を感じてもらえる作品になったのではないかと思います」とアピールした。

 チリから駆けつけたイグナシオ監督は「タバコを吸ったりコーヒーを飲むシーンなどを入れることで、清の孤独を表現したり、自分自身と会話をする必要な時間を作り出せたと思います。社会や日常と遮断する部分を演出することで、清の心情をより炙り出せたと思います」と笑顔で語った。

 またチリでの撮影を経験したイシザキは、「チリでも撮影をしたので、チリの俳優たちとのシーンではコミュニケーションが難しいところはもちろんありました。『言葉は違うが会話は通じる』という監督の想いを体現すべく、考えたり言葉に囚われるのではなく、それを超えて感じる演技をすることをトライしました」と話すと、西岡は、「役を感じるということだね。俳優の1番の仕事は、その役が感じるフィーリングを捉えることだからね。形で演じるのではなく心で演じることができたのだね」とイシザキの演技を絶賛した。

 最後に西岡は、「観ている方の感情が動いて、感じる内容が変わっていくことが映画を観ていただく面白さであり醍醐味だと思います。動く絵を観ているような気持ちになる本作を何度も観ていただき、その度に違う感情をもっていただけたらありがたいです」と締めた。

 【登壇者】W主演:イシザキ マサタカ、西岡德馬、監督:イグナシオ・ルイス

 主演を務めたニューヨーク在住の俳優・イシザキマサタカは、日本での公開のため日本に帰国し、9月の某日、青山学院大学の「マスコミ研究会」の招待を受け、同研究会のメンバーとの座談会に臨んだ。

 イシザキはアメリカで生まれ大阪で育ち、その後、ニューヨークに渡り、現在は俳優、ナレーターとして活躍するほか、自ら監督として自主制作の短編映画などを手がけているが、「大阪で俳優として活動を始めて、東京に移って、いろいろなプロジェクトに参加しましたが、日本という(人々の文化的な背景が)同じ環境で活動する中で、物足りないという気持ち、閉塞感みたいなものが常にありました。そこで『世界ってどんなものなのか知りたい』という思いで、小さな作品を携えてカンヌ国際映画祭に参加して門を叩いたところから、僕の感覚が広がりました」と明かす。

 イシザキとの座談会に参加したのは、青山学院大学「マスコミ研究会」の“雑誌班”に所属し、学内で配布されるフリーペーパー「F.W.A」の編集に携わっている水野さんと谷本さん。2人はイシザキに、本作の制作中のエピソードや、ニューヨークにおけるイシザキの俳優活動などについて質問をぶつけた。
 まず、この作品の企画がどのように進められていったのか? その質問にイシザキは「監督が、僕の出ている映画を観て、この人の作品に監督として関わりたいと思ってくれたみたいで、『一緒にやろう』という話にはなったんですが、脚本も何もない状態で、2人でいろんな話をして、僕のほうからもいろいろ提案しましたし、最初は全く違うお話だったんです。『GREEN GRASS』というのは『隣の芝生は青く見える』という言葉から来てるんですが、そういう話を提案したら、監督は『いいね』と言ってくれたんですけど、その後、3ヵ月くらい、連絡が取れなくなりまして……(苦笑)」。

 暗礁に乗り上げたかに思われた企画だが「逃げたのかと思ったら、どうやら監督は、それを元に自分らしい物語を抽出しようと悩んでいたそうで、その後、新しい脚本が届いて、そこからいろいろあって“死後の世界”の話になったんです」と経緯を語る。

 死後の世界を舞台に描く作品だが、チリ人の監督とタッグを組むということで、日本とチリの死生観や文化の違いによる衝突や困惑はなかったのだろうか? イシザキは「死生観は全然違うんですけど、やっていることは同じだったりするんですよね。(死に対して)表出の仕方が全然違ったりするんですね。日本の場合、事前に準備してコースを作る部分がすごくある気がして、コンビニに行ってもレジに並ぶ矢印があったりしますよね? それに対して、チリはもうちょっと直感的で、死んでから考えるというのをすごく感じました。(チリでは)亡くなった瞬間はすごく悲しいけど、どこかで『しょうがない』とも感じていて、さっぱりしているところがあるのかなと。僕自身は、死はただの“順番”だと思っていて、もちろん、怖いという側面もあるんですけど、やっぱりどこかで『しょうがない』という気持ちがありますね」と自身の死生観を交えつつ、両国の感覚の違いについて分析する。

 海外で撮影が行われ、参加した俳優の母国語も日本語、英語、スペイン語などバラバラで、国際色豊かな現場になったが、イシザキは意識したこととして「海外ということよりも、監督と僕との友情で成り立っている企画なので、どこまで監督と密にコミュニケーションを取るかということを大事にし、コミュニケーションを重ねました」と語る。

 一方で、演技面に関しては、多国籍の共演陣ということを意識したことは「ないですね」と即答する。「一緒に良い作品を作ろうとしているだけなので。面白いのは、何語であっても、ちゃんとお芝居ができる方の演技は(心に)ちゃんと来るんですよね。その意味で(チリの有名俳優の)ヒメナ・リバスさんやダニエル・カンディアさんの芝居に対して、自然に呼応するような感じを体験しました」とふり返る。

 とはいえ、多国籍の現場とあって「台本はキャストだけでなくスタッフも兼用なので、スペイン語、日本語、英語の3つのものがありました。事前に修正や変更が伝えられていなくて現場で『え? ここ変更したの?』ということはわりとありました」と苦笑する。また、チリでの撮影は3週間ほどだったが「南半球で季節が冬で寒くて、風邪を引かないように……などという部分は大変でした」と苦労を明かしてくれた。

 続いて、水野さん、谷本さんからは、イシザキのニューヨークでの俳優活動についても質問。「俳優をやっていてよかったと思う瞬間は?」という質問にイシザキは「映画が完成した時ですね。ワンシーン、ワンシーン、努力したものがこうやってつながるのかと。その中でも、意義の感じられる作品に参加できるのはすごく光栄なこと。消費されてしまうような作品も多いけど、みんなが観て何かを感じたり、得るものがある作品に参加することができれば」と俳優という仕事のやりがいを語る。

 海外を拠点に活動しつつ、日本の作品に参加したい気持ちは?という問いに、イシザキは「ニューヨークに行く前は『海外の作品に携わりたい』という気持ちがすごく強かったんですけど、ニューヨークに行くと異文化しかないんですね。(多種多様な)“いろいろな人”しかいない環境なので(笑)。そういう環境にいればいるほど、自分の持っている文化を刺激されて、『日本人って何だろう?』と知る必要に迫られるんです」と語り、海外に出たことで、日本の作品・文化への思いが高まったと語る。

 一方で、自ら監督を務め、短編映画を自主制作することについては「僕は芝居をしたいので、映画をつくるのはキライなんです(苦笑)。でも(俳優として)自分がどんな芝居をして、何ができるかを証明しないといけないし、地味にコネクションをつくる活動をしないと、オーディションを受けるだけで終わっちゃうんです。オーディションだけでうまくいくはずがなくて、なぜかというとピンポイントで“日本人”の役なんてなかなかないので“東アジア人”とか“アジア系アメリカ人”というところで(役柄を)キャッチしないといけない。そのためには英語がちゃんとしゃべれないといけないし、アクセントのレッスンや芝居の英語の訓練も受けないといけない。そういう機会を作るためにも、映画をつくるって言うのは効率がいいんです」と作品を作り続ける意外な理由を説明する。

 生きていく上でのモットーは「Let it Go」。「1年ほど前にカンフーを習い始めたんですけど、その先生が言うには、何か起きた時、それを変えようとしても絶対にうまくいかない。起きたことを捉えて、いなす――『なるほど、そう来たか』とそれを活かすようにする。(起きたことや周りの声を)聞き過ぎるとダメージを食うし、聞き過ぎないと成長の機会を逃すことになるので、上手い距離感でいなす。『Let it Go』です」と頷く。

 改めて、今回の映画が描き出すメッセージについて「個人的に(自身が演じる)誠が、自分が死んだと分からないところから、分かるようになるまでのプロセスが、すごく時間をかけて描かれていることに着目してほしいです。昨今、何でもネットですぐに答えが出ることが多いですし、分からないことがあっても、選択肢を見つけて『こっち』と選ぶことが多く、なかなか自分でゼロから答えを出す時代ではないですよね。でも、時間をかけて物事を理解してもいいと思うし、時間をかけないと見えないこと、分からないことも多いと思います」と呼びかける。

 そして、13年前に動き出した企画が1本の映画として完成し、母国・日本で公開を迎えることについて「正直、仲間内で『がんばろう!』と作った映画なので、まさか劇場で公開されることになるとは思っていませんでした。エキサイティング! 興奮していますし、感謝の気持ちでいっぱいです。僕は大阪出身ですが、チリ人はジョークの飛ばし方とか、大阪の人と似てるなと感じてます。すごく美しい国ですので、この映画を観て、いろいろな人に行ってほしいです」と万感の思いを口にした。

 映画『GREEN GRASS~生まれかわる命~』は、全国にて順次公開中。

公開表記

 配給:有限会社ベストブレーン
 池袋HUMAXシネマズ他 全国順次公開中

(オフィシャル素材提供)

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