9月1日(金)に全国公開を迎えた、映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』。公開初週に行われた鑑賞後出口調査では驚異の満足度95%を記録し、主要映画レビューサイトにて平均4.4点の高スコアを獲得する他、幅広い世代から絶賛の声が相次ぎ、現在スマッシュヒット中の本作。映画本編はもちろんのこと、横山 克と濱田菜月が手掛けた美しくもエモーショナルな楽曲の数々も注目されている。この日は『夜きみ』の音楽制作の裏話や、酒井監督の演出の裏側を観客からの質問を交えながら深掘りする一夜となった。
トークは本作における音楽制作のアプローチの方法に関することからスタート。「酒井監督は “こういう音楽にしたい”ではなく、“わたしはこれをしたくないんだ。これはNG”だというイメージがハッキリしている。これは本当にやりやすくて。そこだけを気をつけながら、今の自分がやりたいと思うこと、自分が思っていることを実現するというやり方でしたね。酒井さんは当初から、とにかくキラキラさせたくないんだよねと言っていて。だから僕はキラキラした青春映画に見えないようにする。そこがミッションだったかなと思います」と横山が語ると、酒井監督も「横山さんにやっていただけるということで、やはり横山節みたいなものは入れたかったので、横山さんには自由に作っていただきつつも、キラキラというよりも、青春が持つガラスのようなヒリヒリ感を表現したいですね、という話をした気がします」と述懐。
本作では横山 克と濱田菜月という二人の音楽家が音楽を担当している。この共同作業について横山は、本作でも重要なモチーフとなっている“絵具”に例えて解説する。「作曲家が二人いる場合、二人でまったく違うものを出し合うか、二人で一体化して出すかのどちらかだと思うんですが、今回は一体化して出しましたね。二人で補い合いながら、僕がメインとなる軸を決めて。濱田さんの方でそれをだんだんと広げていただいてから、原色を作って、ちょっとずつ色を溶いていくという筆のイメージなんですよね。原色を重ね合ったりとか。僕の中での音楽づくりって絵具を塗るようなイメージなんですよ」と語る横山。
酒井監督も「横山さんとご一緒する時は、今回はこういう感じじゃないかというテーマ曲が先に送られてくるんですね。今回の場合は冒頭と、(久間田琳加演じる)茜がはじめて屋上にのぼった時に流れてくる音楽、あれがすごく良かったので。それをもとに編集をしたり、ということをしていきました」と補足説明。さらに横山が「やはりそれがうまくいくとみんなで同じ方向を向くことができるかなと思っていて。曲を流しながら撮影していただける監督さんもいらっしゃいますし。みんなが同じ方向を向くことができるというのがいいと思っているんです」と監督の考えに共鳴していたことを語る。
さらに「今回、音楽の構成を編集後にガラッと変えたんです」と明かした酒井監督は、青磁による口笛の音楽と、クライマックスに深夜の学校の屋上を塗りつぶすシーンでかかる音楽、そして二人の距離が縮まり始めた頃にBluetoothで音楽を共有しあうシーンの音楽を一緒にしたというエピソードを紹介する。「あれは脚本ではそうではなくて。横山さんと相談したインスピレーションのもと、物語ができあがったという感じでしたね」という酒井監督に、横山も「(Bluetoothのシーンは)オシャレな演出でしたね。おお!と思いました」と酒井監督の演出に感服した様子だった。
イベント中盤からは、観客からの質疑応答タイムを実施。まずは酒井監督ならではの映像美を紐解くために、観客からは「カメラ割り(カット割り)で意識しているところは?」という質問が。それには「まずは適切な位置にカメラを構えるということ。引き画なのかアップなのか。どの感情で見せたいのかということを大事にしてカット割りは決めています。それともう一個大事にしているのは、現場前に決めないということ。たとえば屋上のドローン・ショットではドローンを使いたいというのは決めているんですけど、俳優部さんが考える動きと相乗効果があったほうがいいので、現場でリハーサルをしてみて、それを見て『ここからここまではツー・ショットでいきます』という感じのものを、瞬発的に切り取るようにします」と返答した酒井監督。
すると横山も「音楽の立場で、さまざまな監督、プロデューサーと付き合いがあるので、いろいろなやり方を見てきましたが、先ほどおっしゃられたように、酒井監督は現場での状況を見て柔軟にジャッジするんですよね。それが監督の色になると思うんですけど、酒井監督は、その時の素材、演技をつなぎ合わせるのが本当にうまいと思っています」と解説。そのうえで「僕ら(音楽チーム)はあくまで絵具なんですよ。酒井監督が(クライマックス・シーンの屋上での青磁と茜のように)シャーッと塗っていくという。本当にすてきな映画になったと思います」と付け加えた。
さらにその質問を深掘りするように、別の観客からは「演出の際は、具体的なイメージを決めてそれを具現化していくのか、それとも作品によってスタイルを変えていくのか。その割合はどれくらいなのか?」という質問も。それには「わたしはそのバランスをうまくとりたいなと思っていて。よく映画づくりを料理に例えるんですけど、たとえば最初にカレーを作りたいということは決めています。でも材料は何なのか、誰と作るのか、そこにあるのはシーフードなのか、トマトなのか、いろいろな条件があったとしても、その条件下で作ることのできる一番おいしいカレーをいつも目指しています。今回でいうと、屋上でペンキを塗り合うシーンや、遊園地で戯れるシーンなどは二人(白岩瑠姫と久間田琳加)のアイデアや動きにお任せしました。一方では、屋上のシーンなどで、青磁が手を差しのべる、もしくは茜が手を差しのべるときは、『こういう手の伸ばし方がいいです』と細かく言ったり。そこはバランスを見て、映画全体を見た時に、お客さんに『おいしいね』と思ってもらったり、『もう一回観たいね』と言ってもらえることを目指しています」とそのポリシーを語った。
その話を聞き、「面白い話ですね」と納得した様子の横山は、「ラッシュ映像の時点では、音楽がついていないのが当たり前なんですけど、8割方、絶望してしまうんです(笑)。それでも、酒井監督は我々が何をやるか分かっていて投げてくれている。音楽を信頼してくれているんだな、と思います」と語ると、酒井監督も「今回で言うと、屋上を塗りつぶすシーンはより音楽が際立つシーンですけど、ほかにも茜ちゃんが恋心に気づいて、リップを塗るシーンや、バスで窓ガラスに浮かんだハート見るシーンはセリフがないので、同様にまさに音楽で語っているシーンですね」と述懐。すると横山は、「茜のリップのシーンはグッときますよね。やはり自分が観てグッとこないとだめなので。そういう意味では自分が観てグッとくるまで押し上がるかどうか。それは音楽の力もありつつ、演出の力もありつつ、いろんなものが組み合わさってできる総合芸術になるかというのを気にしています」と映画音楽の制作における自身のスタンスを明かした。
さらにこの日は酒井監督作品を彩る色味の話、効果音の話など、映画を深掘りする話が続々と登場。その興味深いエピソードの数々に観客も熱心に耳を傾ける。横山が「こういうイベントって面白いですね。酒井監督のお話を聞いて、僕もめちゃくちゃ面白いなと思いました」と語ると、酒井監督も「わたしは(映画制作の)裏側の話が大好きで、今日は本当に楽しかったです。本当にたくさんのスタッフさんのアイデアが集まってできている作品なので、またこういうふうに裏側とか、いろいろな部署のアイデアを紹介できたらなと思います。これからもこの作品を愛してもらえるとうれしいです」と笑顔を見せた。
今をときめく最旬のキャストと次世代の日本映画界を担う若き才能が贈る、この秋いちばんのラブストーリー、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』は絶賛上映中。
登壇者:酒井麻衣監督×横山 克(音楽)
公開表記
配給:アスミック・エース
絶賛上映中
(オフィシャル素材提供)