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『Some Body Comes Into the Light』第36回東京国際映画祭ワールドプレミア

 現在開催中の第36回東京国際映画祭にて、ヴィム・ヴェンダース監督の短編映画『Some Body ComesInto the Light』が10月26日(木)に丸の内TOEIにてワールドプレミア上映された。

 ヴィム・ヴェンダースは映画『PERFECT DAYS』の根底にあるもの、主人公が心の底で感じ取っていたものを、本編とは別に日本での撮影最終日に撮影をしていた。しかしその映像はあまりに鮮烈で、あまりに引力があり、本編のなかにはおさまりきれなかった。役所広司が最優秀男優賞を受賞したカンヌ国際映画祭、その授賞式の後、ヴェンダース監督はあの映像を一つの作品にすることにした。
 それから生まれた短編は『ピナ 踊り続けるいのち』やヴェンダース財団などでヴィム・ヴェンダース監督とも創作を共にしている世界的に活躍する音楽家、三宅純氏の音楽と出合い、より美しく神秘的な作品になった。美しい時と光の揺らぎ。言葉のない、唯一無二の物語が出来上がった。
 今後も東京国際映画祭期間中に残り3回の上映が予定されている。ヴェンダース監督のもうひとつの新作、戦後ドイツを代表する画家、アンセルム・キーファーの美しきドキュメント『ANSELM』、そして第73回ベルリン国際映画祭にて最優秀脚本賞(銀熊賞)を受賞した『MUSIC』との併映で上映する。

 そして10月26日には丸の内TOEIで田中 泯、高崎卓馬(映画『PERDECT DAYS』脚本・プロデュース)、三宅 純(音楽)による舞台挨拶が行われた。

 ヴィム・ヴェンダース監督が手掛けたこの短編映画はこの日がワールドプレミア上映。映画上映前にステージに立った田中は、「『PERFECT DAYS』の撮影現場でヴェンダース監督から踊ってねと言われたんです。だから映画の中ではひと言もしゃべらずに踊っていて。本来ならそれで終わるはずだったんですけど、クランクアップの時に、スタジオで踊ったものを撮影させてくれないかと言われまして。それで撮影したものなんですが、それが映画の中にはおさまらず、こういう映画になりました。それはまさに奇跡としか思えないような出来事で。いまだに自分を疑っています」と挨拶。

 これまでもヴェンダース作品の過去作(『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』)などで音楽を担当したことがある三宅も「『PERFECT DAYS』の前にヴェンダース監督に会う機会があったので、この映画に関われたらいいなと思っていました。そうしたら、泯さんにスポットを当てた作品をやるんで、何かやってみてくれないかと言われまして。最初はオリジナルでいくかどうか、ということだったんですけど、それが二転三転くらいして、過去のアルバムから選曲していただいて、映画のためにリミックスしていただきました。今回はそれを使っていただいています」と本作で印象的に響く音楽について明かした。

 そして本作がつくられた経緯について高崎は、「ヴェンダース監督とベルリンで『PERFECT DAYS』のシナリオの打ち合わせをやっている時に、ホームレスの男の役を田中 泯さんにお願いできないかということになった。ヴェンダース監督は泯さんのことをものすごくリスペクトしているので、泯さんが二つ返事で受けていただいてものすごくうれしかったんです」とコメント。
 さらに「実際に撮影が始まったら、映画の中では重要な役なのにほとんどセリフがなくて。でも撮影最後の日にはスタジオで、映画の魂になるシーンを撮影したんですが、それがあまりにも強烈で、編集をしていてもおさまりがつかなくて。それは結局そのままカットしたんです」と語る高崎は、「でもカンヌで役所広司さんが主演男優賞をとった、その授賞式の帰り道を歩いている時にヴェンダース監督が、泯さんで撮ったあの映像を使って作品をつくりたいという話になって。もともと『PERFECT DAYS』から生まれた作品なんですが、それぞれに相関関係があって、意味が深いものになった。これはこれで別の作品になったなと思います」と自負してみせた。

 あらためて本作が映画祭で上映されることとなり、「驚いているというのが正直なところ」と笑った田中は、「僕はかなり若い時から『俺の踊りは映像になりません』とさんざん言ってきていました。それというのもビデオ・テープの時代には会場で踊った映像を記録されていて、ビデオで流されたこともあったんですが、映像だけになると決定的なものが失われてしまうんです。どうもこれでは、踊っていた時のわたしの身体の中身はどこにいってしまうのか、という疑問がずっとあったんです」とその思いを力強くコメント。
 2022年には、田中 泯の踊りと生き様を犬童一心監督が追ったドキュメンタリー映画「名付けようのない踊り」が上映されたが、「あの時も、監督が記憶している僕の踊りを再生しようとしないでくださいと。ズタズタに切り刻んだ素材を、監督が好むものに編集し直してくれるなら(撮影して)構いませんと言いました。踊りの順番とか、その他もろもろはいっさい無視して、素材として撮影したものを、それを踊りにしてくださいと言いました」と述懐。
 そしてそのスタイルは、ヴィム・ヴェンダース監督にも踏襲してもらったそうで、「ヴェンダース監督にもそう伝えました。撮ったものを小さな画面で見せていただきましたが、面白い踊りになったと思います」と振り返った。
 さらに「それが踊りの宿命だと思うんですが、現場で見たものはそこで終わる、終わらなくちゃいけないんです。踊りは再生の能力をいまだに獲得していない。それが身体ひとつで生まれたものの宿命だと思っている。踊りはそれでいいんです。だから皆さんがここでご覧になる踊りはヴィム・ヴェンダースが踊る踊りなんです」と会場に呼びかけた。

 登壇者:田中 泯、高崎卓馬(映画『PERDECT DAYS』脚本・プロデュース)、三宅 純(音楽)

ヴィム・ヴェンダース コメント

 田中 泯とは何年も前に出会い、彼の踊りを観たこともある。
 親しくしていた友人のピナ・バウシュにとって彼は偉大なヒーローで、大きなリスペクトとともによく話しを聞かせてくれました。
 だから、私たちの映画『PERFECT DAYS』で小さな役を演じることを泯さんが引き受けてくれたときは、本当に胸が踊りました。でもその一方で、不安を覚えました。
 泯さんの才能を見せるのに十分な時間が映画のなかに本当にあるだろうか、この映画で彼の存在を本当にうまく表現できるのだろうか、そう自分を疑ったのです。
 ほとんどの人からは「見えない」が、主人公の平山にとっては確実に存在する「ただの」ホームレスという小さな役を演じているとき、泯さんはかなり落ち着いていた。私はそれで心強い気持ちとともに、この役を大切にしようと心に誓いました。
 
 なのに撮影が終わりにさしかかった頃、再び同じ疑念がわいたのです。
 泯さんの大いなる才能を思えば、まだ存分に描ききれていないと感じたのです。
 撮影の最終日、この日は主役の役所広司さんは不在で、いつもであれば足りない街の実景の撮影に充てるのですが、私はその半日を泯さんの撮影に使いたいと皆に言いました。撮影スタジオを用意して、撮影のフランツ・ラスティグが本物の木をたくさん用意して、泯さんのパフォーマンスを余すところなく撮影しました。彼と木々のみで、他にセットは一切なく、ただ光と影だけでした。大きな木漏れ日のなかの田中 泯、と言えるかもしれません。映画のなかの夢のシーンで、この映像をふんだんに使えるという期待がありましたがそれでも結局、泯さんの登場は少ないままでした。

 私は突然に(カンヌ映画祭の受賞式の最中に)思いついたことを、良き友であり脚本を一緒につくった高崎卓馬氏に話しました。『PERFECT DAYS』のためにまだやり残したことがある、泯さんのあの踊りの映像の完全版を編集することだ、と。
 それがついに完成して、この作品を、そしてあの映画のホームレスの存在が、平山だけでなく世界中のたくさんの人々の目に触れる。
 そのことをとても誇りに思います。
 
 泯さん、あなたは私が今まで出会った人の中でも、極めて素晴らしい人です!

   ヴィム・ヴェンダース

『Some Body Comes Into the Light』

 監督:ヴィム・ヴェンダース
 踊り:田中 泯
 音楽:三宅 純
 撮影:フランツ・ラスティグ
 プロデュース:ヴィム・ベンダース・高崎卓馬
 製作:柳井康治
 プロデューサー:國枝礼子、矢花宏太、ケイコ・オリビア・トミナガ、大桑 仁、小林祐介
 編集:エレナ・ブロムンド
 整音:マティアス・ランパート
 インスタレーション撮影:ドナータ・ベンダース
 美術:桑島十和子
 スタイリング:伊賀大介
 ヘアメイク:勇見勝彦
 キャスティングディレクター:元川益暢
 ポスプロスーパーバイザー:ドミニク・ボレン
 演出部 :鈴木雄大・林 拓馬
 1stアシスタントカメラ(2ndUnitカメラマン):江藤ゆか
 照明:田中 洵
 特機:愛甲常幸

映画『PERFECT DAYS』に関して

ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.

 東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていたが、その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。

 監督:ヴィム・ヴェンダース
 脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
 製作:柳井康治
 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中 泯、三浦友和
 製作:MASTER MIND
 配給:ビターズ・エンド

 (2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124分/G/)

オフィシャルサイト:https://perfectdays-movie.jp/(外部サイト)

  #パーフェクトデイズ #PERFECTDAYS

(オフィシャル素材提供)

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